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第一章　クリームの悪夢

十歳の誕生日。僕は、奇行種の第一弾として選ばれた。

選ばれた、というより、拉致された、というのが正しいだろう。記憶をたどれば、公園で鳩にパンくずをあげている時だった。眩暈のような感覚が襲い、次に意識を取り戻した時には、薄暗い、湿った部屋にいた。天井には、無数の電球がぶら下がり、不気味な光を放っていた。

部屋の中央には、白いテーブルが一つ。そして、その上に置かれた、二つのシュークリーム。完璧な球体、艶やかなクリーム、それはまるで、芸術作品のようだった。しかし、その美しさは、僕の心を震わせるほどの恐怖に塗り替えられた。

部屋の隅には、男が一人。背が高く、痩せ細った体躯。顔には、何とも言えない冷酷さと、狂気じみた興奮が入り混じっていた。彼は、白いゴム手袋をはめていた。

「さあ、誕生日おめでとう、キミは今日から、奇行種の第一弾だ！」

男の声は、ひどく乾いていた。彼の言葉の意味は、その後の出来事で、嫌というほど理解することになる。

男は、シュークリームを僕の胸に置いた。一つは左胸、もう一つは右胸。クリームの重みと、冷たさが、肌に伝わる。その瞬間、僕は、吐き気がした。これは、ただのいたずらではない。何か、恐ろしい儀式のはじまりだと、直感的に理解した。

そして、男は動き出した。

彼は、僕の身体の上に、ゆっくりと、そして力強く、足を踏み下ろした。シュークリームは、みるみるうちに潰れていった。クリームは、僕の服、そして肌にべったりと張り付いた。甘く、濃厚な香りが、鼻を突く。それは、もう、美味しいとは感じられない、恐ろしい香りだった。

男は、何度も足を踏み下ろした。まるで、シュークリームを踏み潰すことに、異常な快感を感じているかのようだった。僕の身体は、クリームまみれになった。服は、クリームで汚染され、肌は、クリームの粘着質で覆われていた。

そして、次の行為が始まった。

男は、彼の汚れた足の裏に付着したクリームを、僕の口に押し付けた。

「食べなさい」

男の声は、命令形だった。抵抗する気力は、すでに失われていた。僕は、男の足についたクリームを、涙を流しながら食べた。甘ったるい、そして、土臭い、不快な味が口の中に広がる。それは、今までの人生で味わったことのない、最悪の体験だった。

何度も何度も、繰り返された。男は、僕の身体にシュークリームを乗せ、それを踏みつけ、そして、足についたクリームを食べさせる。その行為は、まるで、儀式のように、淡々と続けられた。

時間は何時間続いたのか分からない。意識が朦朧としていた。身体中の痛み、そして、吐き気。もう、限界だった。

第二章　繰り返される悪夢

次の日は、身体中が痛かった。全身が、クリームの粘着質で固まっていて、動かすのも困難だった。口の中は、苦いクリームの味が残っていた。

しかし、それは、始まりに過ぎなかった。

続く数日間、毎日、同じことが繰り返された。男は、様々な種類のシュークリームを用意してきた。チョコレートクリーム、カスタードクリーム、抹茶クリーム…。それぞれのクリームの味が、僕のトラウマとして、深く刻み込まれていった。

ある日、男は、私に小さな鏡を見せた。そこには、クリームまみれの、ボロボロになった自分が映っていた。目は腫れ上がり、顔は青白く、まるで幽霊のようだった。

「君は、僕の芸術作品だ」

男は、そう言いながら、狂気じみた笑みを浮かべた。

彼の言葉は、僕にとって残酷な現実だった。僕は、彼の歪んだ芸術のための、生きた素材に過ぎなかったのだ。

第三章　逃走と再生

ある夜、男が部屋を離れた隙に、僕は逃げ出した。薄暗い廊下を走り抜け、建物から飛び出した。

外は、月明かりに照らされていた。僕は、必死に走り続けた。どこへ行くべきか分からなかったが、ただ、この場所から逃げ出すことだけを願った。

その後、僕は、警察に保護された。そして、長い治療の期間を過ごした。身体の傷は、徐々に癒えていったが、心の傷は、なかなか癒えなかった。

シュークリームを見るたびに、あの日の恐怖が蘇ってくる。しかし、僕は、諦めなかった。

長いリハビリとカウンセリングを経て、少しずつ、日常を取り戻していく。あの男の顔は、今も鮮明に覚えている。しかし、今は、彼を憎む気持ちよりも、自分を救うことに集中していた。

あの時の経験は、消えることはないだろう。それは、私の一部として、永遠に残るだろう。しかし、その痛みは、私を強くした。私は、二度と、誰かの暴力の道具になることはない。そして、シュークリームは、もう食べられない。

だが、いつか、あのクリームの悪夢を、言葉にして、誰かに伝えられる日が来ると信じている。それは、私自身の心の再生への、小さな一歩だ。