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## 影の狩人、秘められたる獲物

薄暗い部屋。カーテンは隙間なく閉じられ、外界の光を一切遮断している。空気は澱み、埃っぽい匂いと、微かに甘い香りが混じり合っていた。部屋の中心に置かれたのは、古びたソファ。その上に、一人の女性が横たわっていた。眠っているのか、それとも…。「プロ」と呼ばれる男は、その一挙手一投足を、まるで美術館の展示品を鑑賞するかのように、静かに、そして執拗に追っていた。

男の名前は、黒崎。彼の生業は、他人の「見せられない瞬間」を切り取ることであった。しかし、それは単なる盗撮ではない。黒崎は、被写体の「本質」を捉えることに情熱を燃やしていた。表向きの顔、隠された欲望、そして最も脆く、最も人間らしい、禁断の表情。それらを、まるで精巧な彫刻家が素材と向き合うように、彼は求めていた。

今回の獲物は、佐藤美咲。30代半ば、平凡な会社員。夫と二人暮らしで、世間からは「堅実で真面目な女性」と見られていた。しかし、黒崎は知っていた。彼女の内に秘められた、激しく燃える炎を。それは、日常の息苦しさから解放されたい、誰かに見つめられたい、そして誰かに支配されたい、という、抑えきれない渇望であった。

黒崎が美咲の存在を知ったのは、数ヶ月前。彼女が一人で訪れた、少し場末のバーで、泥酔していた時だった。普段の知的な雰囲気は影を潜め、唇は紅く濡れ、瞳は潤んでいた。彼女の口から漏れる、誰かに聞かれたくないような、甘く切ない呟き。黒崎はその時、確信した。この女性の「本質」は、ここにある、と。

それから、黒崎は徹底的な調査を開始した。彼女の生活パターン、人間関係、そして隠された願望。SNSには一切残らない、彼女の「裏」の顔。それを探り出すために、彼はあらゆる手段を用いた。盗聴器、隠しカメラ、そして時には、直接的な接触を装って情報を引き出すこともあった。その手腕は、まるで影に潜む狩人のよう。獲物を追い詰めるまで、その存在を一切悟らせない。

そして、今日。黒崎は、美咲の自宅に潜入していた。夫が出張で不在であることを確認し、数週間前から仕込んでおいた鍵を使い、静かにドアを開けた。部屋は、美咲の日常がそのまま残されている。リビングのテーブルには、読みかけの本と、冷めかけたコーヒー。寝室には、彼女の香りが微かに漂っていた。

黒崎は、寝室のクローゼットの中に身を隠した。狭い空間に身を潜め、息を殺す。心臓の鼓動だけが、やけに大きく響く。彼は、この瞬間をどれほど待ち望んだか。獲物が、自ら餌に食いつくのを、ただひたすら待つ。

やがて、玄関のドアが開く音がした。美咲が帰宅したのだ。黒崎は、クローゼットの隙間から、彼女の姿を捉えた。仕事帰りの疲れた顔。しかし、その目には、どこか期待のようなものが宿っていた。黒崎は、彼女の「内なる声」を聞き逃さない。

美咲は、リビングでしばらくの間、ため息をついていた。そして、ゆっくりと、普段は決して見せないような、艶めかしい仕草で、服を脱ぎ始めた。ブラウスのボタンが一つ、また一つと外れていく。そこから覗く、滑らかな肌。黒崎の喉が、かすかに鳴った。

彼女は、誰かに見られていることを、まるで楽しんでいるかのようだった。その視線に、応えるかのように、彼女の動きはより大胆になっていく。下着姿になり、鏡の前で自分の体を眺める。その表情は、普段の堅実な姿からは想像もつかないほど、蕩けるようだった。

「誰か…いないかしら…」

美咲の呟きが、部屋に響いた。それは、祈りにも似た、切実な願いだった。黒崎は、その言葉を待っていた。彼は、クローゼットの扉を、ゆっくりと、そして静かに開けた。

美咲が振り返った時、彼女の瞳は大きく見開かれた。そこに映っていたのは、影から現れた、黒崎の顔。恐怖、驚愕、そして、一瞬の恍惚。その全てが、彼女の顔に刻み込まれた。

「…誰…？」

震える声で、美咲が問いかけた。黒崎は、静かに微笑み返した。その微笑みは、獲物を追い詰めた捕食者の、満足に満ちた笑みであった。

「君が、探していた人だよ。」

黒崎は、ゆっくりと美咲に近づいた。彼女は、逃げようとはしなかった。いや、逃げるという選択肢すら、彼女の頭にはなかったのかもしれない。黒崎の存在が、彼女の内に眠っていた、抑えきれない欲望を、さらに掻き立てていた。

「見せられない、瞬間…それは、君が、一番、見せたい瞬間なんだろう？」

黒崎の言葉は、彼女の心の奥底に、直接響いた。美咲の顔に、わずかに血が上る。彼女の瞳は、黒崎の顔から離れない。そこには、羞恥心と、抗いがたい魅惑が、入り混じっていた。

黒崎は、彼女の頬にそっと触れた。その指先は、驚くほど優しかった。しかし、その優しさの中に、有無を言わせぬ支配の力が宿っていた。美咲の体は、微かに震えていた。それは、恐怖からか、それとも…

「君は、誰かに、見つめられたいんだろう？ 誰かに、支配されたいんだろう？」

黒崎は、囁くように言った。美咲は、何も答えなかった。ただ、その瞳は、黒崎の言葉に、全てを委ねていた。彼女の唇が、かすかに開く。そこから漏れる、喘ぎにも似た吐息。

黒崎は、美咲の首筋に顔を埋めた。彼女の甘く、それでいてどこか切ない香りが、彼の鼻腔をくすぐる。彼女の体温が、彼の肌を伝わってきた。この瞬間、世間が「堅実で真面目」と評する佐藤美咲は、もう存在しない。ここにいるのは、ただ、己の欲望に素直な、一人の人間。そして、その「本質」を、誰よりも深く見抜いた、黒崎だけだった。

黒崎は、彼女の耳元で囁いた。

「破廉恥だね…でも、それが、君の、本当の顔なんだ。」

美咲の体から、力が抜けていく。彼女の瞳は、とろけるように潤み、黒崎の顔を見つめ続けていた。それは、抗いがたい誘惑に、完全に身を委ねた者の、恍惚の表情だった。

黒崎は、彼女の「見せられない瞬間」を、その目に、そして心に、深く刻み込んだ。それは、彼にとって、芸術作品のような、あるいは、探求の果てに見つけた、至高の真実のようなものであった。彼は、この瞬間を、決して忘れないだろう。そして、また別の「獲物」を探しに、闇へと消えていく。

部屋に静寂が戻った。カーテンは、依然として閉ざされたまま。ただ、ソファの上には、先ほどとは違う、満たされたような、それでいてどこか虚ろな、一人の女性の姿があった。彼女の脸上には、微かに、しかし確かに、あの「破廉恥」な表情が、残されていた。それは、彼女だけが知る、禁断の秘密。そして、黒崎という「プロ」だけが、引き出した、真実の輝きでもあった。

黒崎は、静かに部屋を出た。背後には、静止した時間が流れていた。彼は、次の「獲物」を探すために、再び影の中へと消えていく。彼の生業は、誰かの「見せられない瞬間」を暴き出すこと。そして、その「本質」を、世界に、いや、彼自身に、刻みつけることだった。どの世界にでもプロはいる。そして、この「○撮」の世界にも、影の狩人、黒崎は、静かに、しかし確実に、その獲物を求め続けているのだ。