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## 美の魔女たちの悦楽

真夏の日差しが窓ガラスを焦がす午後、カフェのテラス席で私は一杯の冷たいコーヒーを啜っていた。隣には、私と同じく熟年期の扉を開けたばかりの友人が座っていた。彼女は、私より数歳年上だが、その落ち着いた色気は同年代の女性たちとは一線を画していた。艶やかな黒髪は丁寧にセットされ、顔立ちには人生の経験からくる深みが宿っている。しかし、何よりも目を引くのは、その肌に纏わりつくかのような、年齢と共に増していくという「フェロモン」とでも言うべきオーラだった。

「ねえ、この前、友人の〇〇さんから聞いた話なんだけど…」

友人は、少し声を潜めて話し始めた。彼女の口から語られるのは、普通の恋愛話ではなかった。それは、熟年期を迎え、新たな刺激と情熱を求める人妻たちの、秘密めいた世界の話だった。

「〇〇さんの知り合いで、結婚してもう20年になる人がいるらしいの。旦那さんとは仲は良いんだけど、どうも最近はマンネリ化しちゃっててね。で、ある日、彼女、ふとしたきっかけで昔の知り合いに再会したらしいのよ。それがね、すごく魅力的な人で、しかも独身だったんだって。」

友人は、そこで一瞬言葉を切った。その間の沈黙が、私の想像力を掻き立てる。人妻が、夫以外の男性に惹かれる。それは、倫理的には決して正しいことではないかもしれない。しかし、人生の後半に差し掛かり、枯れゆくことへの不安や、失われた青春への郷愁が、時に思わぬ衝動を呼び覚ますこともあるのだろう。

「で、どうなったの？」と、私は無意識に身を乗り出していた。

「最初は、ただの同窓会みたいな感じで話してたんだけど、やっぱり昔の気持ちが蘇ったんでしょうね。二人は、その…ちょっと関係を持っちゃったらしいの。」

友人は、言葉を選びながらも、その隠しきれない興奮をにじませていた。

「でもね、驚いたのはその後の彼女の態度よ。罪悪感に苛まれるどころか、むしろ人生に新しい彩りが加わったみたいに、キラキラし始めたんだって！旦那さんには内緒なんだけど、その男性とはもう、月に一度は会ってるらしいの。しかも、それがただの逢瀬じゃなくて、お互いが本気で求め合ってるっていうか…」

「本気って、どういうこと？」

「なんていうか、体の関係だけじゃなくて、心も通じ合ってるような感じらしいの。彼女、その男性の前では、旦那さんの前では見せないような、すごく大胆で情熱的な自分になれるんだって。もう、何度も経験してるんだけど、毎回初めてみたいに燃え上がるんですってよ。」

友人の話を聞いていると、まるで小説の世界に入り込んだような感覚になった。成熟した女性が持つ、独特の色気。それは、若い頃の瑞々しさとはまた違う、経験と年月を経たからこそ醸し出される深みと艶やかさだ。そして、その色気が、若い男性だけでなく、同世代の男性をも魅了する。

「彼女、その男性と会うたびに、体の関係が12回もあるらしいの。」

「12回？」

その回数に私は驚いた。それは単なる情熱の奔流というよりは、計算された、あるいは、熟練された技術に裏打ちされたもののように感じられた。

「そう。しかも、毎回違うことを試すとか。彼女曰く、『男は、いくつになっても純粋な子供みたいなもの。だから、飽きさせないように工夫しないと』って言ってたらしいわ。」

「工夫って…」

「例えば、ある時は、彼女自身がリードして、男を翻弄するんですって。普段は穏やかな人なのに、その時はまるで魔女みたいに、甘く囁いたり、挑発したりして、男の心を鷲掴みにするらしいの。で、男が完全にメロメロになったところで、一気に突き落とす、みたいな。」

友人の顔には、羨望とも、憧れともつかない複雑な色が浮かんでいた。

「また別の時は、男に完全に身を委ねて、されるがままになるんですって。でも、ただ受け身なだけじゃなくて、体の隅々まで感じ尽くすかのように、声を出したり、体をくねらせたりして、相手を更に昂ぶらせるらしいの。その時の彼女は、もう、美の女神そのものだって。」

「すごいね…まるで、性技の達人みたいだ。」

「そうなのよ！彼女自身も、最初は不安だったらしいんだけど、回数を重ねるごとに、自分がどれだけ相手を喜ばせられるのか、どんな風にすれば相手がもっと求めるのかが分かってきたんですって。だから、今ではもう、相手の男は彼女の虜。彼女がいないとダメな体になってしまったらしいわ。」

友人の話は、まるで艶やかな小説の一節を音読しているかのようだった。それは、単なる不貞行為という言葉では片付けられない、成熟した女性が内に秘めた情熱と、それを解放した時の凄まじい魅力を物語っていた。

「でも、それだけじゃなくて、彼女、その男性と会う時は、必ず特別な下着とか、香水をつけていくらしいの。そういう細かいところまで抜かりがないっていうか。」

「そこまでこだわるとは…」

「そうよ。だから、きっとそういう細やかな気遣いや、自分を磨き続ける努力も、あの年齢で那么多男を惹きつける秘訣なんだと思うわ。なんていうか、彼女はまさに『美の魔女』ね。」

友人は、コーヒーカップを置き、遠くを見つめるような表情をした。その横顔には、人生の経験を重ねた女性だけが持つ、深い色気が漂っていた。私自身も、彼女の話を聞いているうちに、年齢を重ねることへの漠然とした不安が、どこか遠のいたような気がした。むしろ、これから待っている人生の中で、自分もまた、そんな風に新たな魅力を発見できるのかもしれない、そんな予感さえ抱いた。

「ねえ、私達も、もっと自分を大切にしないとね。年齢なんて、ただの数字なんだから。」

友人は、優しく微笑みかけた。その微笑みは、まるで真夏の太陽のように、私の心に暖かく差し込んだ。熟年期という、人生の新たなステージ。そこには、若さとはまた違う、色濃く、深く、そして何よりも人を惹きつける「美」が、確かに存在しているのかもしれない。そして、それは、たとえ不貞という形をとったとしても、ある種の「悦楽」として、人生を豊かに彩る可能性を秘めているのだろう。

「そうね。私も、もっと魅力的になれるように、自分を磨かないと。」

私も、友人の言葉に頷きながら、グラスに残ったコーヒーをゆっくりと飲み干した。夏の午後は、まだ始まったばかりだった。そして、私の人生もまた、これからまだまだ、未知なる輝きを見つけられるはずだ。あの「美の魔女」たちのように。