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161cm、24.5cm、25歳。怜奈は、完璧なまでに不潔だった。少なくとも、外見からはそうは見えなかった。整った顔立ち、流行の服を着こなすセンス、上品な振る舞い。誰が見ても好印象を抱く、申し分のないルックス。しかし、その完璧な外見の裏に潜む現実を知っている者は、ごく僅かだった。

怜奈の完璧さの裏付けは、徹底的な自己放棄にあった。彼女の「完璧な臭味」は、一週間履き続けたパンストと、三日間のノーシャワーによって生み出されていた。それは、彼女にとっての「鎧」であり、誰にも触れさせないためのバリアだった。

月曜日の朝。怜奈は、いつものように起きて身支度を整えた。前夜に洗わずに放置したパンストを、皺を伸ばしながら履く。微妙にずれていくストッキングの継ぎ目、肌に張り付く不快感。しかし、それを取る気は微塵もない。むしろ、その不快感が、彼女の日常の安心感へと繋がっていた。

シャワーを浴びない日々は、時間の節約という名目で正当化されていた。朝の貴重な時間を、少しでも長く睡眠に充てたい。その気持ちは、嘘ではない。しかし、本当の理由はもっと深くにあった。シャワーを浴びること、つまり自分を綺麗にすることへの、潜在的な抵抗。彼女は、綺麗になることへの恐怖を感じていたのだ。

その日の仕事は、顧客対応が中心だった。上品な笑顔と完璧な応対で、顧客はみな彼女の虜になった。誰もが、彼女から発せられる、微かな異臭に気付かなかった。もしくは、気付いたとしても、それは高級香水の一部だと錯覚したのかもしれない。

ランチは、コンビニで買ったサンドイッチを会社のデスクで食べた。食べ終わった後のゴミは、机の引き出しに放り込んだ。その引き出しは、食べかすや使い捨てカイロ、何日も前のコーヒーカップで溢れていた。彼女は、その混沌とした空間にも、奇妙な安心感を感じていた。

午後の仕事が終わると、怜奈はいつものようにパンプスを履いた。そのパンプスは、一週間履き続けたパンストと同じく、彼女の「完璧な臭味」の一部を担っていた。一日中、圧迫された足は、汗と垢でベタベタしていた。

帰宅後、疲れた体でソファに倒れ込む。そして、何もせずに眠りについた。パンストを脱がずに。

火曜日、水曜日、木曜日と、同じ日々が繰り返された。パンストは、日に日に黒ずんでいき、独特の臭いを発し始めた。彼女の足も、同様に変化していた。踵はひび割れ、足裏は硬く乾燥し、爪は黒く変色していた。

金曜日の午後。怜奈は、久しぶりに靴を脱いだ。そして、驚くべき光景を目の当たりにした。パンプスのつま先から、想像をはるかに超える量の「足クソ」が、まるで巨大な塊のように出現したのだ。それは、乾燥した土のような、硬い塊だった。そのあまりの大きさに、怜奈は思わず声を上げてしまった。

その週末、彼女は久しぶりに自宅で過ごした。そして、初めて、自分の足をじっくりと観察した。テカる皮膚、ペースト状の垢。その垢を黒い紙にこすりつけると、ベッチョリと付着し、不気味な黒さを際立たせた。それは、彼女の完璧な外見とは対照的な、醜く、恐ろしい現実だった。

その晩、怜奈は初めて涙を流した。自分の身体、自分の不潔さに、嫌悪感を覚えたのだ。しかし、同時に、この不潔さこそが、彼女を守ってくれているという、歪んだ安心感も感じていた。

彼女は、この不潔さを捨てるべきなのか、それとも、このままでいるべきなのか。葛藤の中で、次の月曜日が訪れた。怜奈は、再びパンストを履き、パンプスを履いた。しかし、その足元には、微妙な変化があった。それは、ほんの小さな変化だったが、彼女自身の変化の始まりを予感させるものであった。

彼女の「完璧な臭味」は、一体どこへ向かうのだろうか？  それは、彼女自身にも、まだ分からない。  しかし、小さな変化は、確実に彼女の中に芽生え始めていたのだ。  それは、自分自身と向き合う、最初の、小さな一歩だった。