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地下鉄の揺れが、春日野詩織（かすがの しおり）の体にも伝わる。28歳、167cm、OL。容姿端麗で、誰からも好かれるタイプの女性だ。しかし、誰も知らない秘密があった。それは、彼女の「ソックス5日履き」という、ある意味驚異的な習慣だ。

今日は木曜日。月曜日に履き始めたソックスは、既にネバネバとした汗で湿り、独特の臭気を発している。その臭いは、詩織自身も意識している。しかし、彼女はそれを隠そうともしない。むしろ、ある種の誇りすら感じている。

なぜ5日間も履き続けるのか？それは、会社の上司である田中課長からの「言いつけ」だからだ。田中課長は、詩織の真面目さを評価し、その真面目さを試すかのように、この「5日履き」を暗黙の了解として求めていた。詩織は、上司の期待に応えたい、真面目に仕事をこなしたいという強い気持ちから、この奇妙な習慣を続けていた。

オフィスでは、いつも通りの笑顔で仕事に励む詩織。同僚の笑顔にこたえ、的確な仕事ぶりで周囲からの信頼も厚い。誰も、彼女が足元に潜ませた「秘密」に気づいていない。

昼食休憩中、詩織はいつものようにコンビニ弁当を食べる。傍らには、臭気を発するソックス入りの靴。彼女は少しだけソックスを覗き込む。嫌悪感？いや、むしろ、一種の満足感に近い感情が湧き上がる。これは、自分自身の真面目さの証なのだ、と。

休憩時間、同僚の美咲（みさき）が話しかけてきた。

「詩織さん、今日、ちょっと疲れてるみたいだけど大丈夫？」

「あ、はい。大丈夫です！ちょっと眠かっただけです」と、詩織はいつもの笑顔で答える。しかし、美咲には、詩織の足元から漂う微かな臭いが気になっている。しかし、直接尋ねる勇気はない。

午後の仕事は少しペースが遅くなった。疲れからか、それともソックスの臭いが気になって集中できないのか、詩織自身もよくわからない。

終業時間。詩織は、いつもと同じように、会社のトイレに向かった。今日は、ソックスを脱ぎ捨てる日だ。脱いだ瞬間、強烈な臭いが鼻を突く。しかし、詩織は嫌悪感よりも、達成感に近い感情を感じていた。5日間、言いつけを守り通したという満足感だ。

そして、ゴミ箱にソックスを捨てた時、少しだけ寂しい気持ちになった。それは、自分の真面目さの証である「5日履き」の終わりを意味していたからだ。

週末。詩織は、久しぶりに友人と会う約束をしていた。久しぶりに会う友人たちに、彼女はいつもの笑顔で接する。しかし、友人の一人が、詩織の足元から漂う臭いに気づき、

「詩織、なんか臭くない？」と、冗談めかして言った。

普通なら、激しく否定するところだが、詩織は少しだけ戸惑った後、意外にも落ち着いた様子で、

「実はね…最近、上司から言われて…5日間ソックスを履き続けているの」と、正直に打ち明けた。

友人は驚きを隠せない。しかし、詩織のマジメな語り口、そして少し赤らんだ顔を見て、彼女がそれを誇りに思っていることに気づいた。

友人は笑った。「マジメすぎるよ、詩織！」

詩織は、少し照れくさそうに笑って答える。「だって、言いつけを守らないと…」

友人の反応は、詩織が想像していたような嫌悪感ではなく、むしろ驚きと、少しのユーモアが混ざったものだった。そして、そのリアルな反応が、詩織にとっては、予想外の快感に繋がった。

その夜、詩織は初めて、自分のこの「5日履き」という行為について深く考え始めた。それは単なる上司への忠実さだけではない、自分自身の真面目さ、そして、その真面目さを試す行為への、ある種の快感なのかもしれない。そして、その「真面目さ」を他者に見抜かれ、理解されることへの、隠された欲求なのかもしれないと。

次の月曜日、詩織は新しいソックスを履いた。そして、また5日間の「試練」が始まる。しかし、今回は、少しだけ違った感情を抱いていた。それは、単なる義務感ではなく、自分自身の「真面目さ」という、新たな魅力を発見した喜びだった。それは、彼女自身の秘密であり、そして、彼女を彼女たらしめる、一つの個性だったのだ。