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## 禁断の果実、甘く、そして危険な旅

茜色の夕陽が、海沿いの町を優しく染め上げていた。潮風が、少しだけ湿った髪を撫でていく。私は、夫の拓也と結婚して十年になる。穏やかで、優しい人。でも、ここ数年、私たちの間には見えない壁ができていた。それは、性的な触れ合いが極端に少なくなったこと。きっかけは、些細なことだったのかもしれない。でも、いつの間にか、私たちはただの同居人のように、互いに距離を置くようになっていた。

「ただいま。」

玄関のドアを開ける拓也の声に、いつものように「おかえり」と返す。食卓には、彼が好むであろう和食が並んでいる。でも、彼の疲れた顔を見ると、それ以上話しかける気力も湧かない。私たちは、当たり前のように、別々の部屋で眠りにつく。この生活が、いつまで続くのだろうか。そんな虚無感が、私を静かに蝕んでいく。

そんなある日、友人とのランチで、私はある男性と偶然再会した。大学時代のサークルの先輩、健一さん。彼は、大学時代から私に好意を寄せてくれていたけれど、当時の私は拓也に夢中だった。久しぶりに会った健一さんは、以前よりもずっと洗練されていて、成熟した魅力に溢れていた。彼の、少しだけ悪戯っぽい笑顔が、私の心の奥底に眠っていた何かを揺さぶった。

「茜、元気だった？」

彼の声は、あの頃と変わらない、温かくて心地よい響きだった。私たちは、昔話に花を咲かせ、あっという間に時間が過ぎていった。別れ際、健一さんが私の連絡先を交換しようと差し出してきた時、私は一瞬迷った。でも、拓也との冷え切った関係を思い出すと、断る理由が見つからなかった。

それから、私たちは頻繁に連絡を取り合うようになった。他愛のないメッセージのやり取りから、次第に深い話をするようになった。健一さんは、私の抱える孤独や満たされない欲求を、誰よりも理解してくれた。彼の言葉一つ一つが、まるで乾いた大地に染み込む雨のように、私の心に潤いを与えてくれた。

そして、ある週末。健一さんから、急に「少し、会いたいな」というメッセージが届いた。場所は、都心から少し離れた、海沿いの隠れ家のようなホテル。罪悪感と、それ以上に強い好奇心に駆られ、私はその誘いに乗ってしまった。

ホテルの一室。窓の外には、再び夕陽が沈みかけていた。部屋には、控えめなジャズが流れている。健一さんは、私の手を優しく取った。その指先から伝わる熱が、私の全身を駆け巡った。

「茜、ずっと君のことを考えていたよ。」

彼の言葉に、私の理性は急速に溶けていく。夫とのセックスレス。孤独感。それらの全てが、この瞬間、彼という存在に吸い寄せられていくようだった。彼との初めての夜は、まるで夢のように甘く、そして激しかった。普段、拓也との関係では決して感じることのない、激しい感情の波が私を包み込んだ。彼の体温、彼の息遣い、彼の声。全てが、私を未知の世界へと誘っていった。

その夜、私は、これまで自分がどれほど空虚な日々を送っていたのかを思い知った。健一さんとの時間は、私に歓び、そして生の実感を与えてくれた。でも、同時に、私の心には冷たい罪悪感が影を落とし始めていた。拓也の顔が、ふと脳裏をよぎる。彼の裏切り。それは、私にとって、決して許されることではないはずだった。

しかし、一度手にしてしまった禁断の果実の味は、抗いがたいほどに甘かった。週末ごとに、私たちは会うようになった。東京から離れた、海辺の町。あるいは、静かな山間の温泉宿。毎回、場所を変えて、私たちは二人の世界に没頭した。

健一さんは、私の心と体を、まるで宝物のように扱ってくれた。私の些細な変化にも気づき、私の望むことを先回りして満たしてくれる。彼の愛情表現は、時に大胆で、時に繊細だった。そして、それは私の中に、これまで知らなかった欲望を呼び覚ましていった。

「もっと、私を求めて。」

そんな言葉が、自然と口から漏れるようになった。罪悪感は、徐々に薄れていく。それよりも、健一さんといる時の、解放感と高揚感が私を支配していた。彼の前では、私は「妻」でも「母」でもない、ただ一人の「女」になれた。

ある時、健一さんが私に言った。「茜は、もっと大胆な自分になれるよ。」その言葉に、私はゾクゾクとした興奮を覚えた。まるで、私の中に隠された、もう一人の自分が目覚めようとしているかのように。

そして、ある夜。いつものように、私たちはホテルの部屋で体を重ねていた。窓の外は、満月が静かに輝いている。健一さんの瞳が、私を射抜くように見つめている。

「茜、君は本当に綺麗だ。まるで、この世のものとは思えないほど。」

彼の言葉に、私は恥ずかしさよりも、抗いがたい悦びを感じた。そして、私の内側から、これまで抑えつけていた、ある種の「変態性」とも言えるものが、湧き上がってくるのを感じた。

「もっと、見つめて。もっと、触れて。」

私の声は、普段の私とはまるで違う、艶やかな響きを帯びていた。健一さんは、私の変化に戸惑っているようでもあり、同時に、それを楽しんでいるようにも見えた。彼は、私の言葉通りに、私を隅々まで見つめ、そして、まるで芸術品を慈しむかのように、私の体を愛撫した。

その夜、私は、自分が想像していた以上に、エロティックな存在であることを知った。夫とのセックスレスで、私の性は、まるで飢えた獣のように、満たされることを求めていたのだ。健一さんの前で、私はその飢えを解放した。彼の指先が、私の敏感な部分をなぞるたびに、私の体は、これまで経験したことのないほどの快感に震えた。

「茜、君は、こんなに…。」

健一さんの声は、かすかに上ずっていた。彼の瞳には、欲望と、そしてほんの少しの驚きが混じっていた。私は、彼の反応を見て、さらに大胆になった。言葉で、そして仕草で、私は彼を誘惑した。まるで、獲物を追い詰める捕食者のように。

浮気のレッドラインを越えた私。それは、決して誇れることではない。でも、その罪悪感の陰で、私は、自分の中に眠っていた、想像を絶するほどのエロティックな本性に気づかされていた。健一さんとの旅は、私にとって、ただの不倫旅行ではなかった。それは、自分自身の、隠された欲望と向き合い、そしてそれを解放する、危険で、しかし抗いがたいほどに魅力的な旅だった。

部屋の明かりを落とし、月明かりだけを頼りに、私たちは再び激しく体を重ねた。私の喘ぎ声は、窓の外の静寂を破るように、部屋中に響き渡っていた。この行為が、いつまで続くのか。この関係が、どこへ向かうのか。それは、私にも分からなかった。でも、この瞬間だけは、全てを忘れて、この甘く、そして危険な悦びに身を委ねていたい。そんな衝動に、私は抗うことができなかった。私の身体は、もはや制御不能なほどに、快感に酔いしれていた。