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## 都心の罠、甘い旅路の果て

東京の空は、今日もどこか倦怠感を帯びていた。杉並区の一角に立つ、デザイナーズマンション。その窓辺に立つ花咲いあん（25）は、結婚4ヶ月目にしてすでに夫との生活にわずかな色褪せを感じ始めていた。アパレル業界で働く彼女にとって、日々の装いや洗練されたライフスタイルは、自身のアイデンティティそのもの。しかし、最近、その煌めきは次第に日常という名の霞に覆われ始めていた。

そんなある日、いあんの目に留まったのは、旅行雑誌に掲載されていた読者参加企画の広告だった。「夢の海外旅行を掴もう！あなたはどの絶景に惹かれる？」そんな謳い文句と共に、誌面には息をのむほど美しい南国のビーチの写真が並んでいた。参加方法は簡単、アンケートに答えるだけ。軽い気持ちで応募した彼女の元に届いたのは、予想外の連絡だった。それは、企画の当選通知であり、同時に、その裏に潜む異様な要求を含んだものだった。

「選ばれた方には、特別な体験をご用意しました。詳細については、一度お会いしてお話しさせてください。」

指定された場所は、都内の一等地にある、隠れ家のようなバーだった。約束の時間に遅れること数分、緊張しながら扉を開けると、そこには紳士的な雰囲気を持つ男性が一人、待っていた。旅行雑誌の編集者だと名乗るその男性は、流暢な言葉遣いで、企画の魅力を熱弁した。しかし、彼の言葉にはどこか人を食ったような響きがあり、いあんは次第に居心地の悪さを感じ始めていた。

「今回の企画は、単なる旅行体験ではありません。参加者の皆様には、旅の魅力をより深く、そしてリアルに伝えるための、あるサプライズを考えているのです。」

サプライズ、とは一体何だろうか。いあんの不安をよそに、男性はグラスを傾けながら、さらに言葉を重ねた。その場には、他にも数名のスタッフらしき人物がいたが、皆一様に不自然なほどいあんに媚びるような態度を取っていた。

「少し、お酒を召し上がりますか？リラックスするためにも、どうぞ。」

そう言って差し出されたカクテルは、甘く、芳醇な香りを放っていた。警戒心を抱きつつも、場の雰囲気に流されるまま、いあんはそのカクテルを一口飲んだ。すると、たちまち体が火照り始め、意識が朦朧としてくるのを感じた。男性たちの顔が、ゆがんで見える。

「これは…これは一体…」

声にならない悲鳴をあげようとした時、強烈なめまいと共に、彼女の意識は暗闇へと沈んでいった。次に目を覚ました時、彼女は見慣れないホテルの部屋にいた。窓の外には、見慣れない街並みが広がっている。そして、彼女の隣には、見知らぬ男が横たわっていた。

「…嘘でしょ…」

事態を把握した瞬間、いあんの全身を激しい後悔と恐怖が襲った。旅行雑誌の企画だと思っていたそれは、悪質な詐欺であり、彼女は完全に騙されていたのだ。しかも、その結末は、想像を絶する醜悪なものだった。屈辱と絶望の中、彼女はただひたすら泣き続けた。

一方、港区の高級ペントハウスで暮らす宮下華奈（26）は、まさに勝ち組と呼ばれる人生を歩んでいた。大手広告マンである夫は、常に多忙ながらも、彼女には惜しみなくお金を使い、優雅な生活を約束してくれていた。ファッション誌の読者モデルとして活躍していた華奈は、今でもその美貌とセンスを維持しており、友人たちからも羨望の眼差しを向けられていた。

そんな華奈の元にも、ある日、古巣の編集部から連絡があった。「久しぶりに、華奈さんの読者モデル時代を振り返る特集を企画しているんです。ぜひ協力してほしい。」懐かしい響きに、華奈は快諾した。企画の内容は、彼女のファッション遍歴を辿りながら、現在のセレブライフを紹介するというものだった。

撮影当日、指定された場所は、都内でも有数の高級ホテルだった。ホテルのスイートルームに到着すると、そこには数人のスタッフが待ち構えていた。編集部の人間だけでなく、どこか胡散臭い雰囲気を持つ男性もいた。彼は、今回の企画のために特別な演出を用意した、と説明した。

「この部屋全体が、華奈さんの新しい世界を表現するステージです。今まで見たことのないような、衝撃的な体験をしていただけるはずです。」

華奈は、その言葉に少しばかり好奇心をそそられた。読者モデル時代は、刺激的な撮影も多く経験してきた。しかし、今回のスタッフの態度は、どこか不自然なほどに馴れ馴れしく、挑発的だった。

撮影が始まると、指示されるポージングは、次第に露出度の高いものへと変わっていった。華奈は、一瞬戸惑いを感じたが、プロとしてのプライドと、特別な企画という言葉に後押しされ、それに従った。しかし、彼女が本当に驚愕したのは、その後に訪れた展開だった。

「それでは、さらにリアルな感情を引き出すために、演技指導をさせていただきます。」

そう言って現れたのは、見知らぬ男優だった。彼は、華奈に容赦なく迫り、激しい演技を要求してきた。華奈は、これが演技の範疇を超えていることに気づき始めたが、もはや逃れる術はなかった。カメラのレンズが、彼女の混乱と羞恥を容赦なく捉えていく。

「もっと、本物の感情を見せてください！」

スタッフの声が響き渡る。華奈は、抗うこともできず、ただされるがままに、激しい喘ぎ声をあげた。何度も、何度も、その波に呑み込まれていく。やがて、力尽きたように眠りについた彼女の体に、再び鈍い痛みが走った。スタッフの一人が、その眠った体に、さらに熱い吐息を吹きかけていたのだ。

「…もう、終わり…」

意識の片隅で、華奈は静かに呟いた。雑誌の企画だと思っていたそれは、彼女のプライドと尊厳を容赦なく踏みにじる、悪夢のような体験だったのだ。

都会の喧騒の中に、二人の女性の悲鳴は、決して届くことはなかった。彼女たちが惹かれたのは、旅行雑誌の甘い誘惑であり、それはやがて、彼女たちの人生を深く傷つける、冷たい罠へと姿を変えたのである。