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## 眩暈

凛とした空気の中、響くのはカメラのシャッター音と、かすかな息遣いだけ。鏡に映る自分の姿は、まるで別人みたいだった。19歳の彩音は、数ヶ月前まで新体操部で汗を流し、将来はコーチになることを夢見ていた。今、その手は、かつてリボンを操っていたものとはまるで違う、なめらかで温かい肌に触れている。

「……もっと、表情！」

監督の声が、彩音の意識を引き戻す。緊張で固まった顔面を緩めようと努め、カメラのレンズを見つめる。初めてのAV撮影。憧れと不安が入り混じり、心臓が胸の中で暴れ狂う。

彩音はスレンダーな体躯に、新体操で鍛え上げたしなやかな筋肉を持つ。透き通るような白い肌、くびれたウエスト、そして、ふっくらと丸みを帯びた美しい乳房。監督が絶賛する「理想の生乳」は、確かに、普段着では隠されてしまっていた魅力だった。

撮影は、まずボディラインを強調するカットから始まった。白いシーツ一枚をまとっただけの彩音は、カメラマンの指示に従い、ゆっくりと体を動かす。柔らかな光が肌を照らし、まるで彫刻のような美しいラインが浮かび上がる。恥じらいと興奮が入り交じり、彩音の頬には紅潮が広がる。

「もう少し、腰を落として…そう、その感じ！素晴らしい！」

監督の言葉に、彩音はさらに大胆なポージングを試みる。新体操で培った柔軟性を生かし、身体を自由に操る。腰を反らせ、胸を張り、完璧なS字カーブを描き出す。その姿は、まるで誘惑する妖精のようだった。

休憩時間、彩音は一人、控え室で鏡の前に立つ。鏡に映る自分の姿は、以前の自分とは全く違っていた。以前は、新体操の練習に明け暮れ、自分の身体はあくまで「道具」だった。しかし今は違う。この身体は、欲望の対象であり、そして、自分の表現の手段でもある。

その事実を受け入れるのに少し時間はかかったが、今では、この自分の身体を愛おしく思う自分がいる。撮影の合間に、スタッフたちが差し出す飲み物やお菓子を、無邪気に口にする彩音は、少し前までとは違う自信に満ち溢れていた。

撮影は夜遅くまで続いた。様々な衣装、様々なシチュエーション。最初は緊張で硬くなっていた身体も、徐々に解き放たれていく。カメラの前で、彩音は本能のままに動き、表情を作り、声を出す。初めての経験に戸惑いながらも、徐々に、この世界に溶け込んでいく。

特に、カメラマンの言葉に導かれるようにして撮影された騎乗位と後背位では、彩音は全身で快楽を表現した。新体操で鍛えられたしなやかな腰は、男性をしっかりと抱きしめ、その動きは滑らかで官能的だった。後背位では、高く持ち上げられた臀部が、柔らかく揺れ動く。その美しさは、言葉では言い表せないほどだった。

そして、クライマックス。カメラを忘れて、純粋に、本能的に、男性と一体となる瞬間。潮吹きは、初めての経験ではあったが、その感覚は、これまでに経験したどんな快感とも違う、圧倒的なものであった。

撮影後、監督は彩音に優しく言葉をかけた。「君は才能がある。これから、もっと素晴らしい作品を作ろう」

その言葉に、彩音は大きく頷いた。もう、かつての自分には戻れない。AV女優としての人生を選んだ今、彩音は、この世界で輝くことを決意した。それは、欲望と快楽の世界、そして、同時に、自分の可能性を無限に広げる世界でもあるのだから。

翌朝、撮影した映像の確認をする彩音。モニターに映し出されたのは、汗ばんだ肌、乱れた髪、そして、恍惚の表情を浮かべる自分だった。それは、かつての新体操選手の姿とは全く違う、新たな彩音の姿だった。鏡に映る自分と、モニターに映る自分、どちらも、今の自分自身。そして、これから、さらに進化し続ける、可能性に満ちた自分自身なのだと、彼女は確信した。  眩暈がするほどの、新しい世界の始まりに。