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## 雨上がりのシャンゼリゼ通り

雨上がりのアスファルトが、シャンゼリゼ通りの照明を妖艶に反射していた。高級ブティックのショーウィンドウに並ぶ煌びやかなドレスは、まるで私を誘っているかのようだった。否、誘っているのはドレスではなく、退屈な日常からの一時的な逃避なのかもしれない。

私は、香織。45歳。アパレル関係の会社を経営し、経済的には不自由ない生活を送っている。しかし、心にはぽっかりと穴が空いているような、満たされない何かがあった。夫とは数年前に別れ、子供たちは独立。今は、広すぎるマンションで一人、静かに暮らしている。

今日の私は、少しばかり大胆だった。鮮やかなスカーレットのワンピースに身を包み、足元はJimmy Chooのピンヒール。普段は控えめなメイクも、今日は少しだけ濃いめにした。まるで、街を歩くマネキン人形のように、完璧な装いをまとっている。でも、どこか抜けている。それは、自信のなさからくる隙なのかもしれない。

通りを歩いていると、若い男が声をかけてきた。「すみません、素敵ですね。もしよろしければ、お茶でもご一緒しませんか？」

見れば、20代後半くらいの、精悍な顔立ちの男だった。少し日焼けした肌に、鍛えられた身体つき。正直、私のタイプではない。普段なら、一瞥もくれずに通り過ぎるだろう。しかし、今日の私は違った。

「…いいわよ」

自分でも驚くほど、あっさりと承諾してしまった。心の奥底に眠っていた、刺激への渇望が、私を突き動かしたのだ。

男は、優斗と名乗った。カフェに入り、他愛もない会話を交わしているうちに、私は彼の飾らない人柄に惹かれていった。彼は、夢を追いかけているフリーのカメラマンだという。苦労話も笑い飛ばし、常に前向きな姿勢に、私は眩しさを感じた。

「香織さんは、お仕事は何をされているんですか？」

優斗が尋ねた。私は、少し躊躇した。「アパレルの会社を経営しているの」

「すごいですね！僕、ファッションには疎いんですけど、香織さんのセンスは抜群だと思います」

優斗は、そう言って微笑んだ。彼の言葉は、お世辞かもしれない。でも、今の私には、それが心地よかった。

カフェを出て、私たちはシャンゼリゼ通りをぶらぶらと歩いた。雨上がりの空には、虹がかかっていた。

「綺麗ですね」

私が呟くと、優斗は私の顔をじっと見つめて言った。「香織さんの方が、ずっと綺麗ですよ」

私は、ドキッとした。若い男に、こんなことを言われたのは、何年ぶりだろうか。

その夜、私たちはホテルへ行った。理性では、いけないことだとわかっていた。しかし、優斗の熱い視線と、甘い囁きに、私は抗うことができなかった。

ベッドの中で、優斗は私を優しく抱きしめた。彼の若い肉体は、私の渇いた心を潤し、忘れかけていた女性としての喜びを呼び覚ました。

翌朝、私は、優斗の隣で目を覚ました。見慣れないホテルの部屋、そして、隣には若い男。まるで、夢を見ているかのようだった。

「おはようございます」

優斗は、優しい笑顔で私に声をかけた。

「おはよう…」

私は、少し戸惑いながら答えた。昨夜の出来事が、まるで昨日のこととは思えないほど、遠い過去の出来事のように感じられた。

「香織さん、綺麗ですね」

優斗は、そう言って私の髪を撫でた。

私は、優斗の言葉に、少しだけ心が軽くなった。彼は、私の外見だけでなく、内面も見てくれているような気がした。

ホテルを出て、私たちは一緒に朝食をとった。優斗は、私の好きなパンケーキを注文してくれた。

「ありがとう」

私は、優斗にそう言った。

「どういたしまして。香織さんと一緒にいられて、僕も嬉しいです」

優斗は、そう言って微笑んだ。

朝食後、私たちは、それぞれの日常に戻った。私は、会社へ行き、優斗は、次の撮影の準備をするという。

別れ際、優斗は私の手を握って言った。「また、近いうちに会いましょうね」

「ええ、ぜひ」

私は、そう答えた。

会社に着くと、私は、自分のデスクに座った。窓の外を見ると、雨上がりの空が広がっていた。昨夜の出来事が、まるで嘘のように感じられた。

私は、自分の頬をつねってみた。痛かった。夢ではなかったのだ。

私は、昨夜の出来事を思い返した。優斗の温もり、彼の優しい言葉、そして、彼の若い肉体。

私は、ふと、自分の年齢を意識した。45歳。もう若くはない。それでも、私は、まだ女性として輝きたい、そう思った。

その日から、私は、少しだけ変わった。

ファッションにも、メイクにも、今まで以上に気を配るようになった。ジムに通い、身体を鍛えるようになった。そして、何よりも、自分自身を大切にするようになった。

数週間後、私は、優斗から連絡を受けた。「もしよかったら、今度、僕の個展に来ませんか？」

私は、二つ返事で承諾した。

個展当日、私は、少し緊張しながら、会場へ向かった。会場には、たくさんの人が来ていた。優斗の作品は、どれも素晴らしいものだった。彼の才能に、私は改めて感銘を受けた。

個展が終わった後、優斗は、私をレストランに誘った。私たちは、久しぶりにゆっくりと食事をした。

「香織さん、綺麗になりましたね」

優斗は、私を見て言った。

「ありがとう」

私は、少し照れながら答えた。

「香織さんと出会ってから、僕も変わったんです。香織さんを見て、僕は、もっと頑張ろうと思えるようになりました」

優斗は、そう言って微笑んだ。

私は、優斗の言葉に、胸が熱くなった。

「私もよ。優斗と出会って、人生が少しだけ変わった気がするわ」

私は、そう言った。

その夜、私たちは、再びホテルへ行った。しかし、今回は、昨夜とは少し違っていた。私たちは、ただ身体を重ねるだけでなく、心を通わせた。

ベッドの中で、優斗は、私を優しく抱きしめた。

「香織さん、好きだよ」

優斗は、そう囁いた。

私は、優斗の言葉に、涙が溢れてきた。

「私もよ。優斗のこと、好きよ」

私は、そう答えた。

雨上がりのシャンゼリゼ通りで始まった、偶然の出会い。それは、私にとって、人生を彩る、かけがえのない出来事となった。若い肉棒に溺れたというよりも、私は、もう一度、自分自身を愛することを知ったのだ。

私は、もう退屈な毎日には戻らない。これからは、自分の心の赴くままに、自由に生きていこう、そう決意した。