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## 隅っこの星屑たち

東京は、まるで巨大な宝石箱だった。きらびやかなネオン、高層ビル群が夜空を切り裂くようにそびえ立ち、その光は、遠い故郷の町では決して見ることのできない眩しさだった。私は、その光に惹きつけられ、この街にやってきた。

私の故郷は、関東の片隅にある、ごく普通の町だ。何もないわけではないけれど、特別華やかなものがあるわけでもない。私は、どちらかというと「すみっこ女子」だった。クラスにいても、いつも端の方で本を読んでいるか、スマホをいじっている。友達も多くなく、輪から少し外れたところにいるような存在。そんな私にとって、東京は憧れの場所だった。テレビや雑誌で見る東京の女の子たちは、みんなキラキラしていて、自信に満ち溢れているように見えた。

「東京で、いい仕事があるよ」

そんな甘い言葉に誘われ、私はこの街に足を踏み入れた。仕事の内容は、詳しくは聞かされなかった。ただ、「可愛がってくれる人がいる」「たくさんお金がもらえる」という話に、私の心は躍った。東京で、新しい自分になれるかもしれない。そんな期待に胸を膨らませていた。

集められたのは、私と同じように、東京に憧れてやってきた女の子たちだった。関東の6県から、それぞれ異なる町から来た20人の「すみっこ女子」たち。みんな、私と同じように、どこか控えめで、でも内には強い憧れを秘めているようだった。

最初に連れて行かれたのは、都心の高級マンションだった。豪華な家具、最新の家電、そして窓からは息をのむような夜景が見えた。そこには、私たちが想像していたよりもずっと年上の、白髪交じりの男性がいた。彼は、私たち一人一人に優しく話しかけ、まるで宝物でも見るかのように私たちを見つめた。

「君たちは、とても可愛いね。この街で、もっと輝ける場所があるんだよ」

彼は、私たちの外見を褒め、私たちの内なる不安や悩みに寄り添うように語った。そして、私たちが抱える経済的な不安や、現状への不満を巧みに刺激した。

「私についてくれば、君たちはもっと幸せになれる。美味しいものも、素敵な服も、何でも手に入れて、この街の素敵な男性たちにかわいがってもらえるんだ」

その言葉は、まるで魔法のようだった。私たちは、彼が差し出す「甘い蜜」に、次々と心を奪われていった。私自身も、その魅力的な言葉に、抗うことができなかった。

最初のうちは、すべてが夢のように思えた。高級レストランで食事をし、ブランド物の服を身につけ、お小遣いまでもらえた。いつもはおとなしい私たちが、ここでは特別扱いされていた。そして、私たちを「かわいがってくれた」男性たちは、皆、私たちに優しかった。言葉遣いも丁寧で、私たちの話に耳を傾け、私たちを褒めてくれた。

しかし、その「かわいがる」という言葉の裏に隠された意味に、私たちは徐々に気づき始めていた。それは、単に私たちの外見を愛でるということではなかった。彼らは、私たちを「物」のように扱い、自分たちの欲望を満たすための道具として見ていたのだ。

ある日、私は、これまで経験したことのないような状況に置かれた。それは、私たちが「商品」として扱われていることを、まざまざと見せつけられる瞬間だった。彼らは、私たちを物色し、品定めするような視線を向け、そして、私たちの身体を、まるで自分の所有物であるかのように扱った。

「彼氏以外のチンポなんて見たこともない」

そんな純粋な気持ちを持っていた私にとって、それはあまりにも衝撃的で、恐ろしい出来事だった。抵抗しようとしたが、私の声はかき消され、身体は自由を奪われた。隣で泣き叫ぶ女の子の声、そして、それを気にも留めない男性たちの声だけが響いていた。

その夜、私は部屋に戻って、鏡の中の自分を見た。そこには、昨日までの私とは違う、虚ろな瞳の自分がいた。東京の眩い光は、私から輝きを奪い、代わりに深い闇を植え付けたようだった。

他の女の子たちも、それぞれに恐怖と絶望を抱えていた。ある子は、故郷の両親に心配をかけたくないと、何も言わずに耐えていた。ある子は、ここから逃げ出したいと、必死で計画を練っていた。しかし、私たちは皆、この状況から抜け出す術を知らなかった。

私たちの間には、言葉にならない連帯感が生まれていた。お互いの目を見れば、同じような恐怖と、それでも失いたくない希望がそこにあることがわかった。私たちは、まるで暗闇の中にいる星屑のようだった。それぞれが孤立しているように見えて、でも、どこかで繋がっていた。

ある日、一人の女の子が、勇気を出して行動を起こした。彼女は、男性の一人に、故郷に帰りたいと告げたのだ。しかし、その男性は激怒し、彼女を厳しく叱責した。「せっかくこんなに良い思いをさせてあげているのに、わがままを言うな！」と。

その出来事をきっかけに、私たちは、このままではいけないと強く感じた。このままでは、私たちはただの「物」として消費され、その命を失ってしまう。

夜、私たちは、こっそりと集まった。誰かが、小さな声で言った。「逃げようよ」

その言葉に、私たちの心は震えた。しかし、どうやって？東京は広すぎる。私たちは、この街のどこにも頼る人がいない。

それでも、私たちは諦めなかった。私たちは、自分たちで知恵を絞り、協力して脱出計画を立て始めた。男性たちの監視の目をかいくぐり、ほんの少しの隙間を見つけては、情報交換をした。

ある夜、その計画が実行された。私たちの心臓は、破裂しそうなくらいに高鳴っていた。息を殺して、静かに、しかし確実に、私たちはその場を離れた。

向かったのは、見知らぬ街の、小さな安宿だった。そこは、高級マンションのような豪華さはないけれど、私たちには十分すぎるほど安全で、温かい場所だった。

私たちは、これまでの出来事を語り合った。涙を流し、互いを慰め合った。そして、私たちは、この経験を無駄にしてはいけないと誓った。

「私たちは、ただの『すみっこ女子』じゃない。この街で、自分たちの力で生きていくんだ」

東京の光は、私たちから輝きを奪ったかもしれない。しかし、それは同時に、私たちの中に眠っていた強さ、そして、互いを支え合う温かい心を呼び覚ましてくれた。

私たちは、まだ旅の途中だ。これから、どんな困難が待ち受けているかはわからない。しかし、私たちはもう、あの日の「すみっこ女子」ではない。私たちは、暗闇の中でも輝ける、自分だけの光を見つけた星屑たちなのだ。そして、これからも、この光を頼りに、自分たちの足で、この広大な東京を歩いていく。