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昭和の終わり、東京の下町。路地裏にひっそりと佇む、薄汚れたアパートの一室。そこに住む明美（アケミ）は、20代半ばの女性だった。彼女は生まれつき、女性器の形が観音様の坐像に似ていた。幼い頃からその異様な形に悩み、スカートを履くことさえ苦痛だった。鏡を見る度に、自分の身体を呪った。友達と海に行きたい、彼氏といたい、そんな普通の願いも、そのコンプレックスの壁に阻まれ、叶わぬ夢のままであった。

明美は、いつも暗い色の服を着て、人目を避け、日陰を歩いていた。誰にも相談できず、孤独な日々を過ごしていた。唯一の楽しみは、古びた小説を読みふけることだった。小説の世界では、自由に恋愛をし、幸せになる女性たちがいた。明美は、そんな彼女たちを羨ましく思いながら、自分の現実を嘆いた。

ある日、明美は近所のチンピラ、竜二（リュウジ）に遭遇する。竜二は、明美の異様な形に気づき、驚きながらも、奇妙な魅力を感じていた。彼は、明美の秘密を悪用しようと考えた。

「おい、おまえ…あの…観音様、見せてくれよ。金は出すからよ」

竜二の言葉に、明美は顔を蒼白にした。恐怖と屈辱が込み上げてきた。しかし、竜二の目には、欲望だけでなく、奇妙な敬意のようなものも感じられた。そして、彼の言葉の奥に隠された、明美の孤独への理解も、かすかに感じ取った気がした。

明美は、長い沈黙の後、震える声で尋ねた。

「…どうして…そんなことを…」

竜二は肩をすくめ、ため息をついた。

「金が必要なんだよ。他に金になることなんて何もねえんだ。…それに、おまえの観音様、何か不思議な力があるような気がするんだ。噂で聞いたことがあるんだよ。おまえの股間を見たヤツは、その後、幸運に恵まれたって…」

竜二の言葉は、明美の心を揺さぶった。これまで、自分の身体は呪われたものだとばかり思っていた。しかし、もしかしたら、それは幸運をもたらすものなのかもしれない。そんな可能性に、明美はかすかな希望を抱いた。

竜二は、明美の「観音様」を拝観させる見返りに、金銭を受け取るビジネスを始めた。最初は、汚らしい裏通りで、ひそかに集客をしていた。しかし、竜二の巧みな話術と、噂の力は、想像以上に強力だった。口コミで広がり、次第に明美のもとには、様々な人々が訪れるようになった。

彼らは、金持ちの事業家、借金を抱えたサラリーマン、病気の子供を持つ母親、恋愛に悩む若い女性など、様々な境遇の人々だった。彼らは、明美の「観音様」を拝観した後、不思議なことに、幸運に恵まれたと語った。事業が成功した、病気から回復した、愛する人と結ばれた…様々な幸運が、彼らの身に降りかかったのだ。

明美は、竜二のビジネスに協力しながらも、心の葛藤を抱えていた。恥ずかしさ、屈辱、そして罪悪感。しかし、同時に、人々の幸せに貢献しているという、かすかな喜びも感じていた。竜二も、最初は金儲けを目的にしていたが、次第に明美の「観音様」のパワーを信じ始め、彼女を敬うようになった。明美と竜二の間には、奇妙な信頼関係が築かれていった。

ある日、一人の老人が明美を訪ねてきた。老人は、かつて明美と同じような悩みを抱えていたと語った。そして、自分の苦しみを乗り越えるため、人々を救うために、この身を捧げよと説いた。明美は、老人の言葉に心を打たれ、自分の身体を「聖なるもの」として受け入れる決意をした。

その後、明美と竜二は、より良い環境で「拝観」を行う方法を探し始めた。汚い路地裏ではなく、清潔で静かな場所を。金銭目的ではなく、人々の心の平安を願って。彼らのビジネスは、次第に「観音様の加護」を求める人々のための聖地へと変わっていった。明美の観音様は、依然として異形の存在だが、それはもはや呪いではなく、奇跡の象徴となっていた。明美は、自分の身体を受け入れ、そして、人々を救うという、新たな使命を見つけたのだ。