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## 晩秋の迷い道

薄暗いリビングで、和也はため息をついた。窓の外は晩秋の雨。濡れた落ち葉が道路に張り付き、まるで彼の心模様を映し出しているようだった。手に持っているのは、件の雑誌。表紙には、艶かしい言葉が踊り、そこに写る女性たちの表情は、どこか諦めと挑発が混じり合っていた。

「またか…」

結婚して20年。妻の美咲は、昔と変わらず美しかった。いや、むしろ年を重ねるごとに、内面から滲み出るような色香が増しているようにさえ感じられる。しかし、和也にはそれが、棘のように突き刺さるのだ。

美咲は、近所のカルチャースクールで陶芸を教えている。教え子には若い男性も多く、彼女の美貌と気さくな人柄に惹かれる者は少なくない。和也は、そんな状況に嫉妬心を抱かずにはいられなかった。

きっかけは、美咲が数年前から始めたSNSだった。最初は、作品の写真をアップする程度だったが、徐々にフォロワーが増え、交流が深まるにつれて、彼女の投稿は、どこか挑発的なニュアンスを帯び始めた。大胆な服装で作品を抱える姿、意味深なコメント、そして、男性からの甘い誘いの言葉…。

和也は、美咲に直接問い詰めることができなかった。彼女を束縛していると思われるのが嫌だったし、何より、彼女の気持ちが自分から離れてしまっているのではないかという恐怖があった。

そんなある日、和也は、美咲がカルチャースクールの生徒たちと飲みに行くということを知った。胸騒ぎがした。

「今日は遅くなるから、夕飯はいらないわ」

玄関で、美咲はそう言って微笑んだ。いつものように、完璧なメイクと、体のラインを強調するワンピース。和也は、言葉を失った。

美咲が出かけた後、和也は一人、リビングで悶々としていた。雑誌の表紙が、まるで自分を嘲笑しているように見えた。

「もしかしたら…」

そんな考えが頭をよぎり、いてもたってもいられなくなった。彼は、美咲のSNSをチェックした。案の定、彼女は飲み会の様子をアップしていた。楽しそうに笑う美咲の姿と、彼女を取り囲む若い男性たち。和也の心臓は、締め付けられるように痛んだ。

衝動的に、彼は車を走らせた。飲み会の会場となっている居酒屋の前まで行くと、彼女の姿を探した。すると、店の奥のカウンター席で、美咲が若い男性と二人で話しているのが見えた。二人の距離は近く、まるで恋人同士のようだった。

和也は、その場に立ち尽くした。頭の中が真っ白になり、何も考えられなくなった。彼は、自分が情けなくて、惨めで、そして、どうしようもなく孤独だった。

しかし、その時、彼は、ふと冷静さを取り戻した。彼は、美咲を疑う前に、もっと彼女のことを知ろうとするべきだったのではないか。嫉妬に駆られる前に、彼女を信じるべきだったのではないか。

和也は、居酒屋に入るのをやめた。代わりに、彼は近くの公園に車を停め、雨に濡れる木々を眺めながら、自分の過去を振り返った。

彼は、美咲と出会った頃のことを思い出した。彼女は、まだ若く、夢に満ち溢れていた。彼は、そんな彼女の才能と情熱に惹かれた。そして、二人は愛し合い、結婚し、共に人生を歩んできた。

しかし、いつの間にか、彼は、美咲の才能を、情熱を、そして、何よりも彼女自身を、見失っていた。彼は、彼女を自分の所有物のように扱い、彼女の自由を奪っていた。そして、その結果、彼女との間に、深い溝を作ってしまった。

和也は、自分の過ちに気づいた。彼は、美咲に謝らなければならない。そして、彼女を再び愛し、信じ、彼女の才能と情熱を応援しなければならない。

そう決意した和也は、車をUターンさせ、家路についた。家に着くと、美咲はまだ帰っていなかった。彼は、キッチンでコーヒーを淹れ、美咲を待った。

深夜、美咲が帰ってきた。少し酔っているようだったが、顔色は悪くなかった。

「遅くなってごめんね」

美咲は、そう言って和也に微笑んだ。和也は、彼女の笑顔を見て、安堵した。

「おかえり。少し話したいことがあるんだ」

和也は、そう言って美咲をリビングに誘った。二人は、ソファーに腰掛け、静かに語り始めた。

和也は、自分の嫉妬心と、美咲を疑ってしまったことを、正直に打ち明けた。そして、彼女に心から謝罪した。

美咲は、和也の言葉を静かに聞いていた。そして、彼の謝罪を受け入れた。

「私も、少し言い過ぎたところがあったかもしれないわ。ごめんね」

美咲は、そう言って和也の手を握った。和也は、彼女の手の温かさに、心が震えた。

二人は、互いの気持ちを正直に話し合った。そして、これからの二人の関係について、真剣に考えた。

その夜、二人は、再び愛し合った。それは、単なる肉体的な繋がりではなく、心の繋がりだった。二人は、互いの存在を、そして、互いへの愛を、改めて確認した。

翌朝、和也は、美咲と一緒に朝食を作った。食卓には、笑顔と、温かいコーヒーの香りが満ち溢れていた。

和也は、美咲のSNSをチェックすることをやめた。そして、彼女の才能と情熱を、心から応援することにした。彼は、美咲の作品展に足を運び、彼女の生徒たちと交流し、彼女の夢を共有した。

美咲は、和也の変化に気づいていた。そして、彼女も、和也への愛を深めていった。二人は、再び、幸せな日々を取り戻した。

晩秋の雨は、いつの間にか上がり、空には、美しい虹がかかっていた。和也は、美咲と共に、虹を眺めながら、静かに微笑んだ。二人の間には、確かな絆が結ばれていた。そして、それは、どんな困難にも打ち勝つことができる、強い絆だった。

あの雑誌の表紙は、もう和也を嘲笑することはなかった。なぜなら、彼は、本当の愛を見つけたからだ。それは、年齢や外見ではなく、心の繋がりによって育まれる、永遠の愛だった。

そして、和也は、美咲と共に、晩年の人生を、共に歩んでいくことを決意した。たとえ、どんな困難が待ち受けていようとも、二人は、互いを支え合い、愛し合い、共に生きていく。それが、二人の誓いだった。