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## 禁断の果実

艶やかな桜色に染まる肌、吐息混じりの熱い囁き。一度でいい、ただ一度だけでいい、夫以外の男の腕に抱かれてみたい。その背徳的な願望が、私の胸の奥底で静かに、しかし確実に育っていた。結婚して十年。夫は優しく、穏やかな人だった。家庭を大切にし、私を愛してくれた。けれど、それはまるで、整然と並べられた箱庭のようだった。安全で、快適で、しかしどこか物足りない。熟れ始めた肉体は、もっと激しい感情を、もっと深い悦びを求めていた。

初めての「過ち」は、偶然の出来事から始まった。友人の紹介で知り合った、彫刻家である彼。無骨な指先で粘土を操る様は、まるで創造神のようだった。彼の視線は、私の内側まで見透かすようで、それまで見ぬふりをしていた欲望を呼び覚ました。ある雨の降る夜、アトリエで二人きりになった時、その禁断の扉を、私は自らの手で開けてしまった。

彼の腕は、私の想像以上に力強く、そして優しかった。初めて触れる、夫とは違う男の肌。その熱に、私の身体は抗えなかった。吐息が重なり、絡み合った指先が、まだ見ぬ快楽への扉を開く鍵となった。一度きりのつもりだった。罪悪感に苛まれながらも、その夜の記憶は、私の心に深く刻み込まれた。

しかし、一度開いた扉は、もう簡単には閉まるものではなかった。あの背徳的な甘美な夜は、私の渇きを潤すどころか、むしろ更なる渇きを生み出した。夫への罪悪感と、彼への抑えきれない衝動。その狭間で、私は日々揺れ動いた。

彼との関係は、秘密裏に進められた。昼間の喧騒から逃れるように、週末の限られた時間だけ、私たちは逢瀬を重ねた。アトリエの独特の匂い、彫刻刀の触れる金属音、そして彼が私に捧げる熱い視線。それらすべてが、私を日常から引き離し、淫らな悦楽の世界へと誘った。

「綺麗だ…」

彼が私の肌に触れるたび、そんな囁きが飛んでくる。その言葉に、私の胸は甘く締め付けられた。夫からは決して聞くことのない、欲望に満ちた賞賛の言葉。それは、私の内なる奥底に眠っていた、女としての自信を呼び覚ました。

ある時、私は彼に問われた。「なぜ、俺のところに来るんだ？」その問いに、私は言葉で答えることができなかった。言葉では言い表せない、この身体の疼き。夫への愛情とは違う、もっと原始的で、抗いがたい引力。それをどう説明すればいいのだろう。ただ、彼の腕の中にいる時だけ、私は自分自身でいられるような気がした。本当の自分、隠された欲望を解放できる、自由な自分。

「妻たちの欲望を爆発させる」という言葉が、今なら理解できた。それは、単なる不貞行為ではない。それは、日常に埋もれた、女性としての本能の解放なのだ。夫との関係は、安定している。それはそれで幸せなことだ。けれど、人生は一度きり。この熟れ始めた肉体が、もっと多くの経験を求めていることを、私は否定できなかった。

彼との関係が深まるにつれ、私の日常は色彩を帯び始めた。夫との会話にも、以前のような退屈さは感じなくなった。むしろ、二重生活を送ることで、夫への感謝の気持ちさえ芽生えてきた。彼との秘密の時間は、私にとって、人生という物語に更なる深みを与えるスパイスだった。

もちろん、恐怖がなかったわけではない。もし、この秘密が露見したら…？そんな考えが頭をよぎるたび、背筋に冷たいものが走った。しかし、その恐怖すらも、彼との逢瀬へと駆り立てる燃料となった。禁断の果実ほど、甘く、そして危険な魅力があるものだ。

ある日、彼が言った。「君の妻としての顔も、女としての顔も、どちらも愛おしい」その言葉に、私は戸惑った。彼は、私の秘密を知っているのだろうか。それとも、私の抱える葛藤を感じ取ってくれているのだろうか。どちらにせよ、その言葉は私の心を温かく包み込んだ。

しかし、この関係は永遠には続かないだろう。いつか、この秘密は露見するかもしれない。あるいは、私の心が変わるかもしれない。それでも、今この瞬間、私はこの禁断の愛に身を委ねる。一度でいい、と願ったはずなのに、私の身体はもう、この甘美な疼きから離れられなくなっていた。

夜が更け、街に灯りが点り始める。アトリエの窓から見える月明かりは、私の心のように、どこか寂しげに輝いていた。夫が待つ家へ帰る時間。もう一度、彼に抱かれる。その刹那的な悦びのために、私は今日もまた、罪深き欲望に身を委ねる。この熟れ始めた肉体と、止まらない性欲。それは、私という一人の女が、人生で掴み取ろうとする、刹那的な、しかし本物の輝きなのかもしれない。そして、この淫らな夜は、私だけではなく、多くの妻たちの、秘められた欲望を爆発させる、静かなる、しかし力強い波なのだと、私は確信する。