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## 忘年会の夜、スティンガーは狙う

「乾杯！」

グラスがぶつかる軽快な音が、年末の空気をさらに温かくする。今年で3回目となる、私と親友・優子のサシ呑み忘年会。会社や友人関係で忙しい彼女と、こうして二人きりでゆっくりと語り合えるのは、私にとって一年の締めくくりを飾る大切な儀式だった。

「ねえ、今年もお疲れ様！」優子は満面の笑みで私を見つめる。そのキラキラした瞳に、私もつられて笑顔になった。

「優子こそ、本当にお疲れ様。今年は色々あったもんね」

大学時代からの腐れ縁である優子は、私にとって何でも話せる唯一無二の存在だ。仕事の悩み、恋愛の迷い、些細な日常の出来事まで、彼女の前ではどんな鎧も脱ぎ捨てられる。

「もう、本当によ！あのパワハラ部長、未だに直らないんだから！こっちが気を遣って、気を遣って、もうクタクタだよ」

優子はグラスに残ったビールをぐいっと飲み干し、不満をぶちまける。その勢いに、思わず私も笑ってしまう。

「わかるわかる！うちの部署の〇〇さんも、いつも同じミスばっかりでさ。注意しても『すみません』って言うだけで、全然改善されないんだから。もう、脳みそまで筋肉でできてるんじゃないかって思うくらいだよ」

「もう、そんな人たちに時間を奪われるのがもったいない！本当は、もっと楽しく過ごしたいのに！」

優子の言葉に、私も深く頷いた。一年間、大小様々なストレスを抱えながら、なんとか乗り越えてきた。この忘年会は、まさにそのストレスを発散し、来年に向けてエネルギーをチャージする絶好の機会なのだ。

「そうだ！今日は思いっきり飲もう！そして、今年一年の不満も全部吐き出しちゃおう！」

「いいね！そういうの、大好き！」

私たちは、次々と注文を重ねた。ビール、日本酒、ハイボール。喉を潤すたびに、張り詰めていた糸が少しずつ緩んでいくのがわかる。

「あー、やっぱりお酒は神だね」

優子が恍惚とした表情で呟いた。私も同意するように、グラスを傾ける。

「本当、それ！この瞬間のために、一年頑張ってきたと言っても過言じゃない！」

「ね！そうそう！それにしても、今年一番のストレスって言ったら、やっぱりあの合コンかなあ…」

優子が遠い目をして、昨年の苦い思い出を語り始めた。男性陣の無神経な質問攻め、マウント合戦、そして誰一人として会話が弾まなかったこと。思い出すだけで顔が歪む。

「あー、あれね！私も同行したから覚えてる！〇〇君の『彼女いない歴＝年齢』発言とか、本当に寒かったもん」

「あれはもう、トラウマレベルだよ！あの後、しばらく男性不信になったもん！」

優子は、その時の惨状を必死に思い出そうとしているのか、眉間にシワを寄せている。

「でも、そんな私でも、今年のクリスマスは彼氏ができるって、友達に言われたんだよね。まあ、それはさておき…」

彼女は突然、話を切り替えた。その表情は、どこか不安げだ。

「どうしたの？何かあった？」

「うーん、まあ… ちょっとね。最近、彼氏候補ができたんだけど、なんか、こう… 決め手に欠けるんだよね」

「へえ！どんな人なの？」

「それが、すごく優しくて、気遣いもできるし、顔も悪くないんだけど… なんか、こう、ドキドキしないっていうか…」

優子は、恋愛の悩みを打ち明ける。私も、真剣に耳を傾ける。恋愛は、人生における大きなテーマの一つだ。

「わかる。そういうことってあるよね。でも、優しさはすごく大事なことだよ。ドキドキするだけじゃ、長続きしないこともあるし」

「うーん、そうなんだけどね。でも、やっぱり、一目惚れとか、運命の出会いみたいなのに憧れる気持ちもあるんだ」

優子の言葉に、私も共感した。運命の出会い。そんなロマンチックな出来事が、本当に人生に訪れるのだろうか。

「でもさ、優子。運命の出会いって、もしかしたら、すぐそばにあるのかもしれないよ？」

私は、優子のグラスに日本酒を注ぎながら、いたずらっぽく微笑んだ。

「え？どういうこと？」

「だって、私たち、こうして毎年忘年会で、お互いの愚痴を聞き合って、励まし合ってるじゃない？これも、ある意味、運命の出会いというか、特別な関係だと思うんだ」

「え…？ 私のこと？」

優子は、きょとんとした顔で私を見つめている。

「そうだよ。だって、こんなに気が合って、何でも話せる友達、他にいないもん。もしかしたら、私たちが本当に出会うべき運命の相手って、こういう存在なのかもしれないよ？」

「ええ！？ な、なに言ってるのさ、〇〇（私の名前）！急に！」

優子は、頬を赤らめ、慌ててグラスを置いた。その可愛らしい反応に、私も思わず笑みがこぼれる。

「だって、そうじゃない？ 彼氏候補がどうとか言ってるけど、一番そばにいる私を、ちゃんと見てくれてる？」

「もう、やだー！からかわないでよ！」

優子は、冗談だと思ったのか、私を軽く叩いた。しかし、私の心の中では、もう一つの考えが芽生え始めていた。

「でもさ、優子。もし、私がお前の彼氏だったら、どうする？」

「…え？」

優子は、私の突然の言葉に、目を見開いた。その瞳には、戸惑いと、そして僅かな期待のようなものが宿っているように見えた。

「いや、だって、私、優子にいつも優しいし、優子のこと、すごく大切にしてるじゃん？ もしかしたら、これが運命の出会いなんじゃないかって、真剣に思ってるんだけど？」

私は、優子の反応を伺いながら、さらに言葉を続けた。この忘年会の夜は、まだ始まったばかりだ。お酒の力も借りて、私たちは、互いの本性、そして隠された想いを、少しずつ露わにしていくのだろう。

「でも… 〇〇（私の名前）って、男みたいだから…」

優子は、まだ戸惑っているようだ。

「男みたい？ はは、そうかな？ でも、優子にだって、そういうところ、あるよね？ 男性みたいな、サバサバしたところとか」

「う、うーん… まあ、言われればそうかも…」

優子は、観念したのか、少しずつ素直になってきた。

「だから、性別なんて、関係ないんじゃない？ 大切なのは、お互いを思い合って、一緒にいて心地よいか、ってことだと思うんだ」

私は、優子の手にそっと自分の手を重ねた。彼女の指先は、少し冷たかった。

「私、優子のこと、ずっと大切にしたいって思ってる。もし、彼氏候補と比べて、私が劣っているところがあるなら、ちゃんと教えてほしい。もっと優しくなれるように、もっと気遣いができるようになりたい」

私の言葉に、優子の表情は、さらに複雑になった。

「〇〇（私の名前）…」

彼女は、私の目をじっと見つめてきた。その瞳には、もう戸惑いはなく、むしろ、強い意志のようなものが宿っていた。

「私、〇〇（私の名前）といると、本当に安心するんだ。仕事で嫌なことがあっても、〇〇（私の名前）に話すと、全部どうでもよくなっちゃう」

「私もだよ。優子と話してる時が、一番素直になれる」

「だから、あの彼氏候補のこと、もう考えないことにするよ」

優子の言葉に、私は胸が熱くなるのを感じた。

「え… 本当？」

「うん。だって、私にとって、一番大切なのは、〇〇（私の名前）だから」

優子は、そう言うと、私のグラスに日本酒を注いでくれた。そして、自分のグラスも差し出し、力強く言った。

「乾杯！ これからは、もっともっと、お互いを大切にしていこうね！」

「乾杯！ もちろん！ 来年の忘年会も、また二人で飲もうね！」

私たちは、再びグラスを合わせた。この忘年会の夜は、単なるストレス発散の場ではなかった。それは、私たちの関係が、新たなステージへと進む、特別な夜だったのかもしれない。

お酒は、確かに神だ。それは、人々の心を解き放ち、隠された本性を引き出す。そして、時に、運命の扉を開く鍵にもなるのだ。この一年、私たちが抱えてきた不満や悩みは、この夜、お酒とともに、美しく溶けていった。そして、私と優子の間には、確かな絆が、さらに強く結ばれたのだ。来たる新しい年が、私たちにとって、どのような一年になるのか、今はまだわからない。しかし、この温かい夜の記憶があれば、きっとどんな困難も乗り越えていけるだろう。なぜなら、私たちは、互いにとって、かけがえのない、特別な存在なのだから。