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## 隠された鼓動

高層ビルの谷間、ガラス張りのオフィスビル群に灯りが灯り始める頃、木村美咲はいつものようにデスクに座っていた。外はもう薄暗く、街の喧騒も遠くに霞んでいる。彼女の周りには、まだまだ仕事に追われるOLたちが数人。キーボードを叩く音、時折漏れるため息、微かな笑い声。それらは、この「密室」を構成する日常の音だ。

美咲は、30歳。都内の有名アパレルメーカーで企画職として働く。仕事は順調で、周りからは「キャリアウーマン」と見られているだろう。しかし、その華やかな肩書きの裏側で、彼女は常に微細なストレスと戦っていた。クライアントからの無理難題、同僚との微妙な関係、そして終わらないプレゼン資料の作成。それら全てが、静かに、しかし確実に彼女の心を蝕んでいく。

「お疲れ様です、木村さん。」

背後から声をかけられ、美咲は振り向いた。同期の佐々木絵里だ。彼女もまた、忙しそうに書類を整理している。

「お疲れ様。佐々木さんも、まだ残ってるんだ。」
「ええ、この企画、どうしても今日中に目処をつけたくて。」

絵里はそう言って、疲れた笑顔を浮かべた。その笑顔の奥に隠された疲労の色を、美咲は敏感に感じ取った。絵里だけではない。このオフィスにいる全員が、それぞれに「見えない戦い」を繰り広げている。誰もが、プロフェッショナルとしての仮面を被り、内心の苦悩を隠し続けている。

定時を過ぎても、オフィスにはちらほらと明かりが灯ったままだった。美咲も、あと少しだけ、と自分に言い聞かせながらキーボードを叩く。しかし、集中力はすでに限界に近かった。ふと、窓の外に目をやると、ビルの明かりが夜景となってきらめいている。その光景は、美咲の孤独を一層際立たせた。

「もう、無理……。」

誰に言うでもなく、小さく呟く。もう限界だ。このままでは、明日も、明後日も、同じことの繰り返し。そんな時、彼女の脳裏に、ある「解放」のイメージが浮かんだ。それは、誰にも見られることのない、自分だけの秘密の時間。

「よし、今日はここまで。」

美咲は、唐突に仕事を切り上げた。周りの視線を感じながらも、彼女は足早にデスクを離れ、エレベーターへと向かった。エレベーターの中は、静寂だけが支配していた。閉まるドア。数字が一つずつ減っていく。そして、地上に降り立ち、夜の冷たい空気に触れた。

自宅マンションに帰り着き、ドアを閉めると、ようやく一人の時間が訪れた。しかし、今日に限っては、その解放感はいつもとは違った。胸の奥底に、抑えきれない衝動が湧き上がっていたのだ。

彼女は、シャワーを浴び、リラックスできる部屋着に着替えた。しかし、それでも心のざわめきは収まらない。ベッドに腰を下ろし、深呼吸を試みる。だが、すぐにその行為は、より原始的な欲求へと変わっていく。

彼女は、誰にも見せない「解放」を求めた。それは、このストレス社会で、自分自身を保つための、密やかな儀式だった。人知れず、自分だけの世界で、彼女は心と体を解放する。それは、決して誰かに見せるためのものではない。ただ、自分自身が、この「密室」から逃れるための、唯一の方法だった。

窓の外では、遠くの車のヘッドライトが夜の闇を切り裂いている。オフィスビル群の明かりは、まだ灯り続けているだろう。そこには、美咲と同じように、誰にも見せない「解放」を求めている女性たちがいるのかもしれない。彼女たちの鼓動が、この都会の夜に、静かに、しかし力強く響いている。それは、決して「映像」として記録されることのない、しかし確かに存在する、生きた証だった。

彼女は、そっと目を閉じた。そして、自分だけの世界で、解き放たれていく。それは、驚愕の映像などではない。ただ、一人の人間が、自分自身と向き合い、内なる声に耳を澄ませる、静かで、そして力強い瞬間だった。それは、このストレス社会に生きるOLたちの、誰にも見せない、しかし確かに存在する「本性」なのかもしれない。そして、その本性は、決して赤裸々に暴かれるべきものではなく、むしろ、彼女たちが明日を生き抜くための、静かなるエネルギー源なのだ。

彼女は、そのエネルギーを全身に感じながら、再び静かな眠りについた。明日もまた、彼女は「OL」という仮面を被り、この「密室」で戦うだろう。しかし、その内側には、誰にも見せない「隠された鼓動」が、確かに生き続けているのだ。