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## 子宮の奥の秘密

東京都心の片隅、ひっそりと佇む雑居ビルの三階に、その団体は存在した。表には何の看板も出ていない。ただ、インターホンに小さく「W.H.P.」と書かれたシールが貼られているだけだ。W.H.P.、ウィメンズ・ヘルシー・プロジェクト。秘密の非営利団体。

私は、フリーライターの浅倉美咲。三十路を過ぎ、少しばかり世の中の酸いも甘いも噛み分けたつもりでいたが、今回の潜入取材は、私の倫理観を揺さぶるものだった。

きっかけは、編集者からの耳打ちだった。「最近、妙な噂があるんですよ。子供だけが欲しい女性たちが集まる、秘密の妊活団体があるらしいんです。精子バンクじゃない。SEXを提供するんだとか…」

最初は、一笑に付した。時代錯誤も甚だしい。しかし、編集者の真剣な眼差しと、調査を進めるうちに浮上してきたいくつかの証言が、私の好奇心を刺激した。私は、W.H.P.の扉を叩くことを決意した。

団体は、意外にも温かい雰囲気に包まれていた。白を基調とした清潔な空間に、アロマの香りが漂っている。カウンセリングルームに通されると、優しそうな女性カウンセラーが出迎えてくれた。

「浅倉さん、ようこそいらっしゃいました。W.H.P.では、様々な事情をお持ちの女性たちが、それぞれの望む未来を実現するためのお手伝いをさせていただいております」

カウンセラーは、私の目をまっすぐ見つめて、静かに語り始めた。W.H.P.の理念は、女性の自己決定権を尊重し、心身ともに健康な状態で妊娠・出産を迎えるためのサポートをすること。そのため、精子バンクのような一方的な提供ではなく、パートナーとのSEXを通して、女性ホルモンの活性化を促し、妊娠の確率を高めることを目指しているという。

「当団体は、あくまでカウンセリングとサポートが中心です。SEXは、あくまでその手段の一つ。無理強いすることは決してありません。ご自身の意思を尊重し、納得された上で、プログラムに参加していただきます」

カウンセラーの言葉は、どこまでも丁寧で、誠実だった。しかし、私は心の奥底で、拭いきれない違和感を覚えていた。これは、本当に女性のためになるのだろうか？

数日後、私は、W.H.P.が主催する、最初のカウンセリングに参加した。参加者は、私を含めて4人の女性。それぞれが、異なる悩みを抱えていた。

一人目は、双子が欲しいという27歳の女性、佐々木優子さん。グラビアアイドル並みのプロポーションで、明るく、社交的な性格だった。しかし、彼女の笑顔の奥には、焦燥感が滲み出ていた。

「ずっと、双子の赤ちゃんを夢見てきたんです。でも、なかなか妊娠できなくて…W.H.P.で、少しでも可能性を広げたいんです」

二人目は、異常性欲に悩む35歳の女性、田中美咲さん。モデルのような美しい容姿で、冷静沈着な雰囲気だったが、自分の欲望に翻弄されている苦しみを抱えていた。

「私は、自分の体が憎いんです。いつも、誰かを求めずにはいられない。でも、そのせいで、何度も傷ついてきました。W.H.P.で、自分の体と向き合い、コントロールできるようになりたいんです」

三人目は、美人なのに処女だという38歳の女性、小林綾子さん。控えめで、内気な性格で、男性とのコミュニケーションに苦手意識を持っていた。

「ずっと、恋愛が怖かったんです。傷つくのが怖くて、誰とも深く関わることができなかった。でも、年齢を重ねるうちに、子供を持つことを諦めきれなくなって…W.H.P.で、一歩踏み出す勇気が欲しいんです」

そして、私、浅倉美咲。取材のため、年齢と職業を偽り、独身で子供を望んでいると伝えた。

カウンセリングは、それぞれの悩みや希望を語り合うことから始まった。カウンセラーは、一人ひとりの言葉に丁寧に耳を傾け、共感し、励ました。時には、専門家を交えて、医学的な知識や、性に関する正しい情報を伝えた。

カウンセリングが進むにつれて、私は、参加者たちの心の奥底に隠された、切実な思いに触れた。彼女たちは、ただ子供が欲しいだけではない。自分の人生を、自分の手で切り開きたいと願っていた。

W.H.P.は、彼女たちにとって、最後の希望の光だったのかもしれない。

しかし、私は、やはり違和感を拭いきれなかった。SEXは、本当に彼女たちを幸せにするのだろうか？

カウンセリングの後、希望者は、W.H.P.が提携する男性とのマッチングを受けることができる。男性は、事前に厳正な審査を受け、身元が保証されているという。マッチング後、双方が合意すれば、SEXが行われる。

私は、優子さんと美咲さんのマッチングに立ち会うことになった。優子さんは、年下のスポーツマンタイプの男性と、美咲さんは、芸術家肌の男性と、それぞれ意気投合したようだ。

私は、二人のSEXを直接見ることは許されなかった。ただ、隣の部屋で、彼女たちの声を聞いているだけだった。優子さんの、楽しそうな笑い声と、甘い吐息。美咲さんの、苦悶に満ちたうめき声と、涙声。

その夜、私は、眠ることができなかった。頭の中では、優子さんと美咲さんの声が、リフレインのように響いていた。

数週間後、W.H.P.から、優子さんと美咲さんが妊娠したという連絡があった。優子さんは、念願の双子を妊娠し、美咲さんは、落ち着いた表情で、自分の体と向き合っていた。

私は、彼女たちの妊娠を、心から祝福した。しかし、同時に、複雑な気持ちを抱えていた。W.H.P.のやり方は、本当に正しいのだろうか？

取材を終え、私は、W.H.P.に関する記事を書き上げた。記事は、W.H.P.の活動内容を客観的に伝えつつ、その倫理的な問題点にも触れた。

記事が公開された後、様々な意見が寄せられた。W.H.P.を支持する声もあれば、批判する声もあった。私は、それぞれの意見に耳を傾け、考えた。

W.H.P.は、女性の自己決定権を尊重し、妊娠の可能性を広げるための選択肢を提供するという点で、一定の意義があるのかもしれない。しかし、同時に、SEXを手段として利用することで、女性を物として扱っているという批判も免れない。

結局、私は、W.H.P.の是非について、明確な結論を出すことができなかった。ただ、一つだけ言えることは、女性たちは、自分の人生を、自分の手で切り開きたいと願っているということ。そのために、どのような選択をするかは、彼女たち自身の問題だということ。

私は、これからも、女性たちの声に耳を傾け、彼女たちの選択を尊重し、彼女たちがより良い未来を歩めるように、微力ながら、応援していきたい。

そして、いつか、私自身も、自分の人生を、自分の手で切り開くことができるように。子宮の奥に眠る、まだ見ぬ可能性を信じて。