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## 秘密の花園

薄暗い路地の奥。ひっそりと佇む古民家の門をくぐった瞬間、喧騒とは隔絶された静寂が私を包んだ。表札には「子宮楽園」と、控えめな文字で記されている。

私はフリーランスのライター、佐倉美咲。今回、この「子宮楽園」と呼ばれる非営利団体に潜入取材することになった。噂によれば、ここは様々な事情を抱えた女性たちが、妊娠を目的とした特別なカウンセリングと、それに伴う“性交”を行っているという。

潜入取材のきっかけは、編集者からの耳打ちだった。「最近、若い女性の間で『子宮楽園』ってところが話題になってるらしいんだ。表向きは妊活カウンセリング団体だけど、実態は…ちょっと怪しいみたいだぞ」

好奇心とジャーナリスト魂が疼いた私は、すぐに潜入取材を決意した。偽名を使い、子宮楽園のカウンセリング予約を取り付けた。

古民家の玄関を開けると、温かいお香の香りが鼻をくすぐった。出迎えてくれたのは、白衣をまとった穏やかな雰囲気の女性、名を水無月（みなづき）という。

「佐倉様ですね。ようこそ、子宮楽園へ」

水無月はにこやかに微笑み、私を奥の部屋へと案内した。部屋は畳敷きで、壁には美しい生け花が飾られている。都会の喧騒を忘れさせる、落ち着いた空間だった。

「まずは問診票にご記入をお願いします」

渡された問診票には、年齢、職業、既往歴といった基本的な情報の他に、「理想の家族像」「妊娠に対する希望」「性に関する悩み」といった項目が並んでいた。

正直に答えるべきか迷ったが、私はあくまで潜入取材。嘘で塗り固めた問診票を提出した。

「ありがとうございます」

水無月は私の書いた問診票に目を通し、静かに頷いた。

「佐倉様は、どのようなご希望をお持ちですか？」

「えっと…、実は、将来子供が欲しいと思っているのですが、なかなか良い出会いがなくて…。でも、子供だけは諦めたくないんです」

ぎこちない笑顔でそう答えると、水無月は優しく微笑んだ。

「ご安心ください。子宮楽園では、佐倉様のようなお悩みをお持ちの方々を、全力でサポートいたします」

水無月の説明によると、子宮楽園は、単なる精子バンクとは異なり、性交時のオーガズムによって女性ホルモンを活性化させ、妊娠の確率を高める独自のメソッドを提供しているという。

「オーガズムは、女性の心身をリラックスさせ、子宮の血流を促進する効果があります。また、快感を感じることで、脳内から幸福物質が分泌され、妊娠しやすい体質へと導いてくれるのです」

まるで宗教のような言葉に、私は内心苦笑した。本当にそんなことで妊娠できるのだろうか？

水無月は、私に子宮楽園の利用規約と誓約書を渡した。そこには、個人情報の保護やプライバシーの厳守、そして、万が一妊娠した場合の責任について、細かく記載されていた。

「当施設で行われる行為は、あくまで妊娠を目的としたものであり、性的な快楽を追求するものではありません。その点をご理解いただいた上で、ご利用ください」

水無月の言葉に、私はかすかな違和感を覚えた。まるで、これから行われる行為を正当化しようとしているかのようだった。

カウンセリング後、私は他の参加者たちと顔を合わせた。そこにいたのは、噂通り、それぞれに事情を抱えた美しい女性たちだった。

双子が欲しいと願う27歳の巨乳女性、亜美。異常な性欲に悩む35歳スレンダー美女、香織。そして、美人なのに処女だという38歳の女性、由紀。

彼女たちは皆、どこか寂しげで、切実な表情をしていた。

夕食後、私たちは水無月の指示に従い、それぞれ個室へと案内された。部屋は簡素だが清潔で、アロマの香りが漂っていた。

「準備ができたら、こちらのベルでお知らせください」

水無月の言葉に、私は緊張を隠せない。これから何が起こるのだろうか？

しばらくの間、私は部屋の中で落ち着かない気持ちで過ごした。本当に、この施設を信じていいのだろうか？

覚悟を決めた私は、ベルを鳴らした。

扉が開くと、そこに立っていたのは、白衣を脱ぎ、薄いガウンを羽織った水無月だった。

「佐倉様、準備はよろしいですか？」

私は深呼吸をし、頷いた。

水無月は私を、隣の部屋へと案内した。そこは、ベッドと簡単なシャワーブースが設置された、まるでラブホテルのような空間だった。

「こちらで、施術を受けていただきます」

水無月の言葉に、私は動揺を隠せない。施術？一体何をされるのだろうか？

その時、部屋の奥から、一人の男性が現れた。彼は、鍛え上げられた肉体を持ち、甘いマスクをした、モデルのような男だった。

「彼は、当施設のセラピストです」

水無月は、男を紹介した。彼の名は、春樹（はるき）というらしい。

春樹は、無言で私に近づき、優しく微笑んだ。

「緊張しないでください。リラックスして、身を委ねてください」

春樹の声は甘く、耳に心地よかった。

私は、言われるがままにベッドに横たわった。春樹は、ゆっくりと私のガウンを脱がし、優しく体を撫で始めた。

その瞬間、私は自分がとんでもない場所に足を踏み入れてしまったことに気づいた。これは、単なる妊活カウンセリングではない。これは、金と欲望が渦巻く、秘密の性産業なのだ。

私は、自分の身に起こることを、カメラに記録しようとした。しかし、春樹はそれを許さなかった。

「ここでは、全てを忘れて、ただ快感に身を委ねてください」

春樹は、私の手を掴み、カメラを取り上げた。そして、私に深々とキスをした。

それからの記憶は、曖昧模糊としている。春樹の巧みなテクニックに、私は理性を失い、快楽の渦に溺れていった。

どれくらいの時間が経ったのだろうか。ようやく我に返った時、私はベッドの上でぐったりとしていた。春樹は、すでに部屋から姿を消していた。

私は、自分の体に残された痕跡を見て、激しい嫌悪感に襲われた。私は、一体何をしてしまったのだろうか？

水無月が部屋に戻ってきた。

「佐倉様、いかがでしたか？」

水無月の表情は、どこまでも冷静だった。

「…もう、結構です」

私は、力なく答えた。

水無月は、私の様子を見て、何も言わずに部屋を出て行った。

私は、急いで服を着替え、子宮楽園を後にした。

外に出ると、夜の冷たい空気が、火照った体を冷やしてくれた。私は、深く息を吸い込み、子宮楽園での出来事を頭から追い払おうとした。

しかし、あの甘い香りと、春樹の甘い囁きは、いつまでも私の脳裏に焼き付いていた。

私は、子宮楽園の潜入取材を通して、人間の欲望の深淵を垣間見た。そして、その深淵は、私自身の心の中にも存在することを知った。

子宮楽園は、確かに秘密の楽園だった。しかし、そこは決して幸福な楽園ではなく、欲望と欺瞞に満ちた、危険な場所だった。

私は、今回の取材で得た情報を元に、記事を書くことを決意した。子宮楽園の実態を暴露し、同じような被害に遭う女性を一人でも減らすために。

しかし、私は同時に、自分の心の中にある欲望と向き合わなければならないことも理解していた。

子宮楽園での体験は、私にとって、忘れられない悪夢となるだろう。しかし、同時に、私を成長させてくれる、貴重な経験でもあった。

私は、これからどのように生きていくべきか、深く考えなければならない。