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## 熟れた果実

夕暮れ時の公園は、子供たちの嬌声が消え、代わりに犬の散歩をする人々や、ジョギングを楽しむ人々の息遣いが聞こえる静寂に包まれていた。ベンチに腰掛け、ぼんやりと空を見上げていたのは、52歳の美咲だった。

美咲は、近所のスーパーでパートをしながら、夫と二人暮らし。子供たちは独立し、それぞれの家庭を築いている。かつては美容部員として華やかな世界で生きていたが、今はすっかり地味な主婦だ。

最近、ふと鏡に映る自分の姿に愕然とすることが増えた。若い頃は自慢だったハリのある肌は、深い皺に変わり、体型も昔のようにはいかない。スーパーで若い店員に「奥さん、これ安いですよ」と声をかけられるたびに、「奥さん」という言葉が突き刺さるように感じていた。「ああ、私はもう若い女の子にはかなわないんだ」と、諦めにも似た感情が胸を締め付ける。

そんな美咲の前に、突然、眩しい光が差し込んできた。

「こんばんは。素敵な夕焼けですね。まるであなたの瞳のようだ」

声に驚いて顔を上げると、そこに立っていたのは、20代後半くらいの若い男だった。黒のスキニーパンツに、白いTシャツ、そして無造作に羽織られたデニムジャケット。整った顔立ちに、自信に満ちた笑みを浮かべている。

「え…？私にですか？」

美咲は戸惑いを隠せない。こんな若い男に声をかけられるなんて、一体何が起こっているのか。

男は、美咲の隣に腰掛けると、優しく微笑みかけた。

「もちろん。こんな美しい女性を放っておける男はいませんよ」

彼の甘い言葉に、美咲の心臓はドキドキと高鳴り始める。まるで、長い間忘れかけていた感覚が、蘇ってくるかのようだった。

「あの…私、もう若くないですよ」

美咲は、ついそう口走ってしまった。

「年齢なんて関係ありません。あなたの魅力は、年齢を重ねたからこそ輝いているんです。まるで、熟れた果実のような…」

男は、美咲の手を取り、そっとその甲にキスをした。

「あなたの優しさ、包容力、そして何よりも、その美しさ…全てに惹かれます」

彼の言葉は、美咲の心の奥底に眠っていた乙女心を揺さぶった。まるで、長い間閉ざされていた扉が、ゆっくりと開かれていくかのように。

「そんな…」

美咲は、頬を赤らめ、俯いてしまった。

「もしよろしければ、この後、お茶でもしませんか？もっとあなたのことを知りたい」

男は、美咲の顔を覗き込み、優しく誘った。

美咲は、迷った。こんな若い男と二人きりで会うなんて、非常識かもしれない。でも、彼の甘い言葉、優しい眼差し、そして、自分を「美しい女性」として見てくれるその姿勢に、抗うことができなかった。

「…いいですよ」

美咲は、小さく呟いた。

男は、満面の笑みを浮かべ、美咲の手を引いて立ち上がった。

「ありがとうございます。きっと、素敵な夜になりますよ」

二人は、公園を後にし、近くのカフェへと向かった。

カフェに入ると、男は、美咲のために窓際の席を確保した。

「どうぞ。ゆっくりくつろいでください」

美咲は、男のスマートな振る舞いに、ますます心を奪われていった。

「何か飲みますか？」

「そうですね…カフェラテをお願いします」

男は、店員を呼び、カフェラテと、美咲の好きそうなケーキを注文した。

「あの…あなたのお名前は？」

美咲は、緊張しながら尋ねた。

「ああ、すみません。自己紹介が遅れましたね。僕は、ユウキと言います」

「ユウキさん…」

美咲は、彼の名前をそっと口にした。

「美咲さんは、何かお仕事されているんですか？」

ユウキは、穏やかな口調で尋ねた。

美咲は、自分の仕事や、家族のこと、そして、最近感じている寂しさや不安を、少しずつユウキに打ち明けていった。

ユウキは、美咲の話に真剣に耳を傾け、優しく相槌を打った。そして、時折、美咲を褒めたり、励ましたりする言葉をかける。

「美咲さんは、本当に素敵な女性ですね。僕は、あなたと出会えて、本当に嬉しいです」

ユウキの言葉に、美咲は、胸が熱くなるのを感じた。

カフェでの時間は、あっという間に過ぎた。

「そろそろ、帰りましょうか」

ユウキは、名残惜しそうに言った。

美咲は、ユウキと一緒にカフェを出て、公園まで送ってもらった。

公園の入り口で、ユウキは、美咲に向き直り、真剣な眼差しで言った。

「美咲さん、今日は本当にありがとうございました。あなたと話せて、とても楽しかったです。もしよろしければ、またお会いできませんか？」

美咲は、ユウキの言葉に、胸がドキドキと高鳴るのを感じた。

「…ええ、私も、またお会いしたいです」

美咲は、勇気を振り絞って答えた。

ユウキは、嬉しそうに微笑み、美咲の手を握った。

「約束ですね。では、また連絡します」

ユウキは、美咲の手にキスをして、去って行った。

美咲は、ユウキの背中を見送りながら、自分の頬が赤くなっているのを感じた。まるで、高校生の頃に戻ったかのような、甘酸っぱい気持ちが胸を満たしていた。

家に帰ると、夫は既に夕食を済ませ、テレビを見ていた。

「遅かったな。どこ行ってたんだ？」

夫は、美咲に目を向けることもなく、ぶっきらぼうに言った。

「ちょっと、カフェに…」

美咲は、つい言葉を濁してしまった。

「ふーん」

夫は、それ以上何も言わなかった。

美咲は、夫の冷たい態度に、心が冷えていくのを感じた。

（ああ、私は、一体何をしているんだろう…）

美咲は、自問自答した。若い男に言い寄られて、浮かれている自分は、一体何なのだろうか。

しかし、その一方で、ユウキとの出会いが、美咲の心に火をつけたことも、また事実だった。長い間、忘れかけていた、女としての喜びや、ときめきを、思い出させてくれたのだ。

美咲は、複雑な気持ちを抱えながら、眠りについた。

数日後、ユウキから連絡があった。

「美咲さん、お元気ですか？もしよろしければ、今週末、ドライブに行きませんか？」

美咲は、迷った。夫に嘘をついて、ユウキと会うのは、やはりいけないことではないか。

しかし、ユウキの甘い誘惑に、美咲は、抗うことができなかった。

「…ええ、行きます」

美咲は、返信した。

そして、週末、美咲は、ユウキの車に乗り、海へと向かった。

晴れ渡る空の下、潮風が美咲の髪をなびかせる。ユウキは、運転しながら、美咲に楽しい話を聞かせ、時折、甘い言葉を囁いた。

美咲は、ユウキとのドライブを心から楽しんでいた。まるで、長年連れ添った夫婦ではなく、恋人とデートをしているかのような、特別な時間を過ごしていた。

海に着くと、ユウキは、美咲を近くのレストランに連れて行った。窓から海が見える、ロマンチックなレストランだった。

ユウキは、美咲のために、美味しい料理とワインを注文した。

二人は、食事をしながら、お互いのことをもっと深く知っていった。

ユウキは、自分の仕事のこと、趣味のこと、そして、過去の恋愛について、美咲に語った。

美咲も、自分の過去のこと、家族のこと、そして、夫との関係について、ユウキに打ち明けた。

ユウキは、美咲の話に真剣に耳を傾け、優しく相槌を打った。そして、時折、美咲を褒めたり、励ましたりする言葉をかける。

「美咲さんは、本当に素敵な女性ですね。僕は、あなたと出会えて、本当に幸せです」

ユウキの言葉に、美咲は、心が満たされていくのを感じた。

レストランを出ると、ユウキは、美咲を砂浜に連れて行った。

二人は、波打ち際を歩きながら、夕日を眺めた。

夕焼け空が、海を茜色に染め上げ、幻想的な光景が広がっていた。

ユウキは、美咲の手を取り、優しく抱き寄せた。

「美咲さん、あなたが好きです」

ユウキは、囁くように言った。

美咲は、ユウキの言葉に、胸が締め付けられるのを感じた。

「私も…」

美咲は、ユウキの肩に顔を埋め、小さく呟いた。

ユウキは、美咲の唇にそっとキスをした。

美咲は、ユウキのキスに身を委ね、彼の腕の中で溶けていくようだった。

その夜、美咲は、ユウキとホテルに行った。

そして、二人は、互いの体を求め合い、激しく愛し合った。

美咲は、ユウキとの愛の中で、女としての喜びを、再び思い出した。

しかし、その一方で、罪悪感も、美咲の心を締め付けていた。

夫を裏切ってしまったこと、そして、若い男に身を任せてしまったこと。

美咲は、ユウキとの関係を、このまま続けていくべきなのか、深く悩んでいた。

（私は、一体どうすればいいんだろう…）

美咲は、夜空を見上げながら、途方に暮れた。

彼女の熟れた果実のような身体は、禁断の蜜を求めて、さらに深く、破滅へと向かっていくのだろうか。それとも…