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## 熟した果実の滴

陽炎が揺れる夏の午後、佐藤綾香（38歳）は、庭の草むしりに精を出していた。汗が額を伝い、首筋を滑り落ちる。夫の健一（40歳）は、今日も一日中、書斎に籠もりきりだ。子供たちは夏休みで友人宅に泊まりに行き、家には綾香と健一、そして静寂だけが残されていた。

綾香の身体は、成熟した果実のように、熟しきっていた。二十年近い結婚生活は、温かい愛情に満ちていたが、同時に、ある種の停滞も孕んでいた。夜の営みも、かつての情熱を失い、惰性のようなものになっていた。健一は優しく、誠実な夫だった。しかし、綾香の身体が求める、もっと激しく、もっと深い悦びを、彼は理解しているのかどうか、綾香自身にも分からなくなっていた。

草むしりを終え、シャワーを浴びてリビングに戻ると、健一が新聞を広げていた。
「おかえり、綾香。暑かっただろう？」
「ええ、少しね。」
綾香は、健一の隣に腰を下ろした。彼は新聞から顔を上げ、穏やかな笑顔を向けた。その笑顔は、何年も変わらず、綾香を安心させてくれる。だが、その安心感の奥底で、何かが疼くのを感じていた。

その夜、綾香は寝付けずにいた。健一は規則正しく寝息を立てている。その寝顔は、綾香が初めて見た時とほとんど変わらない。あの頃、綾香は健一の静かな強さと、揺るぎない優しさに惹かれた。そして、二人は結ばれ、愛を育んできた。しかし、今、綾香の身体は、別の種類の「愛」を求めているように感じられた。

身体の奥底から湧き上がる、説明のつかない疼き。それは、長年封じ込めていた、抑圧された欲望の叫びだった。綾香は、そっと自分の身体に手を伸ばした。指先が、熱を帯びた肌をなぞる。ほんの少しの刺激で、身体は敏感に反応した。まるで、渇いた大地が雨を待つように、綾香の身体はその「雨」を渇望していた。

突然、ピンポーン、と玄関のチャイムが鳴った。こんな時間に誰だろう？綾香は、健一を起こさないように、そっとベッドから抜け出した。ドアを開けると、そこに立っていたのは、近所の田村さんだった。田村さん、というよりは、以前、綾香がパートで働いていた頃の同僚、拓也（35歳）だった。

「綾香さん、こんばんは。こんな時間にすみません。」
拓也は、少し戸惑ったように言った。彼の顔には、汗が滲んでいた。
「拓也さん…どうしたの？何かあった？」
「実は…、妻が急病で、子供を預かってほしいと、妻の実家から連絡が来て。それで、うちの鍵を預かってくれる人がいなくて…。」
拓也は、息を切らしていた。彼の妻が病気とは、心配だ。
「ええ、もちろんよ。子供たち、大丈夫？」
「妻が付き添っていて、子供たちは大丈夫だと思います。でも、急なことで…。」
拓也の真剣な眼差しに、綾香は頷いた。
「分かったわ。子供たち、連れてきて。」

拓也は、一人息子のアツシ（6歳）を連れてきた。アツシは、綾香の顔を見て、すぐに慣れた様子で「綾香おばちゃん！」と駆け寄ってきた。綾香は、アツシの頭を撫でながら、拓也に言った。
「大丈夫よ。ゆっくりしてきなさい。」
「ありがとうございます、綾香さん。本当に助かります。」
拓也は、深々と頭を下げた。

子供たちは、すぐに綾香の部屋で遊び始めた。綾香は、リビングで拓也と二人きりになった。
「しかし、まさかこんな時間に、拓也さんが来るなんてね。」
綾香は、少し緊張しながら言った。拓也は、綾香より年下だが、仕事熱心で、いつも明るい青年だった。パート先でも、綾香は彼に助けられていた。

「いや、本当に困っていたので、助かりました。」
拓也は、綾香の顔をじっと見つめた。その視線に、綾香の身体が微かに震えた。
「綾香さん、最近、お会いできていませんでしたね。」
「そうね。パートを辞めてから、もう一年になるかな？」
「はい。あの頃、綾香さんには、本当にお世話になりました。」
拓也は、そう言って、綾香の頬に手を伸ばそうとした。綾香は、思わず息を呑んだ。

その瞬間、綾香の身体が、これまで感じたことのないような熱に包まれた。指先が触れただけで、肌が粟立つ。長年、抑えつけていた欲望が、堰を切ったように溢れ出した。拓也の瞳は、綾香の身体の奥底にある、隠された渇きを見透かしているかのようだった。

「拓也さん…。」
綾香の声は、震えていた。拓也は、何も言わず、ただ綾香の瞳を見つめた。その瞳には、綾香と同じような、抑えきれない熱が宿っていた。

拓也の手が、綾香の首筋を優しく撫でた。その感触に、綾香の身体が硬直した。喉の奥から、漏れるような吐息がこぼれそうになる。
「ダメ…。」
綾香は、かすれた声で囁いた。しかし、その声には、拒絶の響きはなかった。むしろ、もっと強く、もっと深く、その手に導かれたいという、切実な願いが込められていた。

拓也の指先が、綾香の首筋から顎へと滑る。そして、そっと綾香の唇に触れた。その唇は、熱を帯び、微かに震えていた。
「綾香さん…。」
拓也の声もまた、震えていた。

綾香は、健一の顔が頭をよぎった。しかし、その想いは、一瞬のうちに、拓也の熱い吐息にかき消された。身体は、もう自分のものではなかった。長年、誰にも見せることのなかった、熟した果実のような身体は、今、拓也の熱に触れ、甘く蕩けていくようだった。

拓也の唇が、綾香の唇を優しく、しかし大胆に奪った。その衝撃に、綾香の全身が痺れた。身体が、自然と拓也の胸に寄り添う。長年、満たされることのなかった空虚が、一気に満たされていくような感覚。

「ん…。」
綾香の喉から、抑えきれない声が漏れた。それは、甘く、情熱的な、解放の歌のようだった。拓也は、綾香の身体の奥底にある、隠された悦びを引き出すかのように、その唇を、首筋を、そして肌を、貪るように愛撫した。

綾香の身体は、極限まで感度が上がっていた。拓也の指先が触れるたびに、身体の奥底から、熱い波が押し寄せる。理性の糸が、細く、細く、千切れそうになっていた。
「もう…、無理…。」
綾香は、拓也の肩に顔を埋めて、喘いだ。

長年連れ添った夫との絆。それは、決して壊れることのない、強固なものだと思っていた。しかし、今、綾香の身体を貫く、この激しく、甘美な悦びは、その絆を、残酷なまでに引き裂いていくようだった。

綾香は、熟した身体を震わせながら、全神経をこの快楽に集中させた。潤んだ瞳が見つめるその先は、隣で眠る夫の顔ではなかった。それは、今、綾香の身体を、魂ごと揺さぶる、見知らぬ男の、熱い肉棒だけだった。

その夜、夏祭りの喧騒が遠くから聞こえてくる中、綾香の部屋からは、もう一つ、別の熱い叫びが、静かに、しかし確かに、響き渡っていた。それは、長年封じられていた、熟した果実が、ついに滴り落ちる、甘く、そして禁断の音だった。