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## カズ君の素顔

陽射しが差し込む、まだ少し埃っぽい一人暮らしの部屋。窓辺には未開封の段ボールが積み上がり、壁にはポスターが一枚だけ貼られていた。それは、カズ君がモデルを務めた、スポーツドリンクの広告だった。

「ようこそ、僕の部屋に！」

カズ君は、少し大きめの、薄手の綿のシャツと、丈の短いパンツという、いかにも寝起きといった恰好で笑いかけた。２０歳そこそこであろう年齢を感じさせない、落ち着きのある笑顔だ。雑誌のグラビアで見ていたクールな表情とは違い、柔らかく、親しみやすい雰囲気に、私は緊張が少し解けた。

「……あの、すごいですね、一人暮らし」

「うん。まだ全然片付いてないけどね。荷物が多いし、整理整頓が苦手で」

彼はそう言って、少し赤面しながら笑った。その仕草が、彼をモデルという職業の人間ではなく、等身大の若者として見せてくれた。  彼の寝巻は、確かに「もっこり」と表現するには十分なほど、彼の体格を強調していた。しかし、それは気恥ずかしいものではなく、むしろ、彼の若々しい生命力を感じさせるものだった。

彼は、生活空間を紹介してくれた。冷蔵庫には、インスタント食品と、大量の野菜ジュースがぎっしり詰まっている。キッチンは、まだ使い慣れていないようで、油汚れが少し残っていた。リビングには、ゲーム機が置いてあり、散らばったゲームソフトが彼の趣味を物語っていた。

「普段は、仕事が終わったらゲームしたり、動画を見たり…」

彼は、少し照れくさそうに説明する。彼の生活は、華やかなモデルとしての顔とは対照的に、驚くほどシンプルで、普通の若い男性そのものだった。  彼は、撮影の合間やオフの日には、こうして自分の部屋でゆっくりと時間を過ごしているのだろうと想像できた。

「…あ、お風呂、使っていい？」

そう言って彼は、少し慌てた様子で浴室に向かった。シャワーの音だけが聞こえる静かな時間。私は、彼の部屋の空気を感じ、彼が置いたままの雑誌を手に取った。そこには、彼自身のインタビュー記事が載っていた。仕事への真摯な姿勢、プライベートでは家族を大切にすること、そして、将来への希望が語られていた。

彼が浴室から出て来たとき、彼はすでに普段着に着替えていた。  少し汗ばんだ顔には、先程とは違う、爽やかな笑顔が浮かんでいた。

「ごめんね、ちょっと長かったかな」

「いえ、全然」

私たちは、彼の部屋で、コーヒーを飲みながら話をした。  モデルの仕事の話、彼の故郷の話、将来の夢の話。彼は、飾らない言葉で、自分のことを語ってくれた。  彼の言葉には、迷いもなく、まっすぐに未来を見据えている強さがあった。

彼の飾らない姿、ありのままの生活、そして、私たちの間には、心地よい空気が流れていた。  彼が時々見せる、素の表情、些細な仕草、それら全てが、私にとって、新鮮で、魅力的だった。

日が暮れ始めた頃、彼は、ふとした拍子に、自分の部屋で過ごすことの心地よさを話し始めた。

「一人暮らしって、本当に自由だね。好きなだけゲームできるし、好きな音楽を聴けるし…。誰にも気兼ねなく、自分のペースでいられる」

彼は、そう言いながら、少し寂しげな表情を浮かべた。  その表情は、モデルとして常に完璧を求められる彼自身の孤独を垣間見せているように感じられた。

「でも、寂しいときもあるかな…」

彼は、小さく呟いた。その言葉に、私の心は動いた。華やかな世界の裏側には、孤独と、誰にも打ち明けられない思いがあるのだろう。

それから少しの間、沈黙が流れた。  そして、彼は、何気ない動作で、テレビのリモコンを手に取った。画面には、彼がモデルを務めたCMが流れていた。

その瞬間、彼の目には、輝きが戻っていた。  それは、仕事への誇り、そして、夢に向かって歩む強い意志を表しているようだった。

私は、彼の素顔、そして彼の心の内側を垣間見た気がした。  それは、雑誌のグラビアやCMでは決して知ることのできない、彼の本質的な魅力だった。  「気取らぬエロさ」という言葉は、彼の完璧な容姿だけではない、彼の生き様そのものを感じさせた。  それは、罪悪感などではなく、むしろ、深い共感と、心を揺さぶる感動を私に与えてくれた。

彼の部屋を後にする時、私は彼の笑顔を強く記憶に焼き付けた。それは、彼の未来への希望と、自分の存在への確かな自信が凝縮された、眩しいばかりの笑顔だった。  そして、私は、彼の人となりを知ることで、モデルという職業に対する認識、そして、人を見る目、そして、人生そのものに対する考え方が、大きく変わったことを悟った。彼の部屋で過ごした時間は、私の人生にとって、かけがえのない、忘れられない時間となった。