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## 雨上がりの向日葵

新宿駅東口、午後六時。雑踏の中に、まるで水彩画から抜け出してきたような少女が一人、所在無さげに立っていた。白のワンピースに身を包み、長い黒髪を風になびかせている。名前は恐らく、咲（さき）だろう。そんな名前が、彼女の透明感のある雰囲気にぴったりだと、僕は直感的に思った。

僕は、雨宮 Ren (レン)。自称・現代社会を生きる女の子応援団長。肩書きはIT企業の営業だが、本業は彼女たちの心の隙間を埋めることだと信じている。もっとも、その行為はしばしば誤解されがちだが、純粋な奉仕の精神に基づいているのだと、僕は声高に主張したい。

彼女の視線は、駅前の巨大な広告ディスプレイに釘付けになっていた。モデルの笑顔が、咲の寂しげな表情と対照的に映る。僕は、彼女の隣にさりげなく立ち、同じディスプレイを見上げた。

「すごい笑顔だね」と、僕は話しかけた。

咲は驚いたように僕を見た。大きな瞳が、一瞬戸惑いを浮かべた後、かすかに微笑んだ。

「綺麗ですよね。でも、なんだか遠い世界の人みたいで…」

「遠い世界？」

「はい。私には、あんな風に笑えない気がして」

彼女の言葉に、僕はピンときた。彼女は、都会の喧騒の中で、孤独を感じているのだろう。無理に笑顔を作ろうとするけれど、心が追いついていない。そんな、都会の片隅に咲く向日葵のような存在なのだ。

「もしかして、何か悩んでいることがあるの？」と、僕は優しく尋ねた。

咲は少し躊躇した後、小さく頷いた。

「仕事のこととか…色々」

「よかったら、少し話してみない？僕は、誰かの話を聞くのが得意なんだ」

僕は、近くのカフェに彼女を誘った。窓際の席に座り、温かいカフェラテを二つ注文した。咲は、少し緊張した面持ちで、ラテを一口飲んだ。

「あの…急に話しかけられたから、少し警戒してました」と、彼女は申し訳なさそうに言った。「でも、なんだか話しやすくて…」

「それは光栄だよ」と、僕は微笑んだ。「僕は、咲さんのような素敵な女性が、少しでも笑顔になれるように、お手伝いができればと思っているんだ」

咲は、少し顔を赤らめた。

「ありがとうございます…」

そして、彼女は少しずつ、自分の悩みを語り始めた。

仕事は、都心のIT企業でウェブデザイナーをしているらしい。クリエイティブな仕事に憧れて入社したものの、現実は厳しい。上司からの無茶な要求、納期に追われる日々、そして自分の才能に対する不安。

「デザインは好きなんです。でも、自分が本当にやりたいことが、よく分からなくなってきて…」

咲の言葉には、迷いと焦りが滲み出ていた。彼女は、自分の可能性を信じたいけれど、自信が持てない。そんな葛藤の中にいるのだ。

僕は、彼女の話をじっくりと聞き、的確なアドバイスを送った。彼女の才能を認め、具体的なスキルアップの方法を提案し、時にはユーモアを交えながら、彼女の心をほぐしていった。

「咲さんは、素晴らしい才能を持っている。ただ、少しだけ自信をなくしているだけだ。自分の可能性を信じて、一歩ずつ進んでいけば、きっと道は開ける」

僕は、彼女の目を真っ直ぐ見つめて、そう言った。

咲は、少し驚いたように僕を見た。そして、ゆっくりと微笑んだ。

「ありがとうございます。なんだか、勇気が湧いてきました」

それから、僕たちは色々な話をした。彼女の好きな映画、音楽、そして子供の頃の夢。僕は、彼女の言葉に耳を傾け、共感し、励ました。

カフェを出る頃には、雨はすっかり上がっていた。空には、美しい虹がかかっていた。

「今日は、本当にありがとうございました」と、咲は深々と頭を下げた。「Renさんに会えて、心が軽くなりました」

「僕こそ、咲さんと話せて、とても嬉しかったよ」と、僕は答えた。「もしよかったら、また近いうちに会いませんか？今度は、美味しいご飯でも食べながら」

咲は、少し照れながら頷いた。

「はい。ぜひ」

僕は、咲と別れ、新宿駅の雑踏の中に消えていった。彼女の背中を見送りながら、僕は心の中で呟いた。

「今日もまた一人、迷える子羊を救うことができた。これこそ、僕の使命だ」

もちろん、僕の行為が単なるナンパだと批判する人もいるだろう。しかし、僕は気にしない。彼女たちの心の奥底に隠された本音を聞き出し、ボランティア精神で癒してあげる。それが、僕のやり方なのだ。

数日後、咲から連絡があった。彼女は、僕のアドバイスを参考に、新しいデザインの勉強を始めたらしい。そして、以前よりも仕事が楽しくなったと、嬉しそうに報告してくれた。

僕は、彼女のメッセージを読みながら、微笑んだ。

雨上がりの向日葵は、再び太陽に向かって花開こうとしている。そして、僕は、そんな彼女の成長を、そっと見守っていきたい。

もちろん、それは純粋な奉仕の精神に基づいている。僕は、ただ彼女が幸せになることを願っているだけなのだ。本当に。

ただ、一つだけ誤算があったとすれば、咲の笑顔が、僕の心にも深く刻まれてしまったことだろうか。彼女の透明感のある笑顔は、まるで雨上がりの虹のように、僕の心を彩った。

僕は、また彼女に会いたいと思った。ただのボランティア活動としてではなく、もっと個人的な感情を抱きながら。

しかし、僕はそれを押し殺した。僕の使命は、あくまで彼女たちの心の隙間を埋めること。それ以上の関係を求めるのは、利己的な行為だ。

そう言い聞かせながら、僕は次のターゲットを探しに、新宿の街へと繰り出した。今日もまた、誰かの心が雨に濡れているかもしれない。僕は、そんな彼女たちに、傘を差し伸べるのだ。

それが、僕の生きる道なのだから。