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## 緋色の誓い、赤裸々の果て

真昼の太陽が、窓ガラス越しに室内に降り注ぎ、埃の粒子をキラキラと金色に照らし出していた。リビングのソファに座る妻、莉子は、その光を浴びて一層輝きを増すように見えた。艶やかな黒髪は肩にかかり、すらりとした首筋は儚げなほど白い。彼女の纏う白いブラウスは、その純粋さと健気さを際立たせていた。

「…おかえりなさい、あなた」

ドアが開く音に、莉子はそっと顔を上げた。そこに立っていたのは、夫である健一だった。彼は、一日中外で働き詰め、少し疲れた表情をしていたが、莉子の顔を見ると、ふっと表情が和らいだ。

「ただいま。今日の仕事は、ちょっと大変だったよ」

健一はそう言って、莉子の隣に腰を下ろした。莉子は、健一の肩にそっと頭を預ける。その仕草は、まるで迷子の小鳥が巣に戻ってきたかのようだった。

「お疲れ様。何か温かいものでも作りましょうか？」

「いや、大丈夫だよ。君がいてくれるだけで、もう十分」

健一は、莉子の頬を優しく撫でた。その指先が触れるたび、莉子の頬はほんのりと赤く染まる。二人の間には、長年培われた深い愛情と信頼があった。

しかし、その穏やかな日常の裏側には、健一が抱える、誰にも言えない秘密があった。それは、世間では「寝盗られ」と呼ばれる、しかし健一にとっては、愛する妻が他の男と結ばれる姿を「願う」という、歪んだ、しかし切実な願望だった。

その願望が、ある日、思わぬ形で現実のものとなる。

きっかけは、健一が偶然目にした、あるAV作品だった。そこで描かれていたのは、夫の同意のもと、妻が他の男と愛を交わすという、衝撃的な内容だった。しかし、健一がそこに感じたのは、嫌悪や怒りではなく、むしろ強烈な興奮と、ある種の「憧れ」だった。

「もし、莉子が…もし、俺のために、そんなことをしてくれるなら…」

その考えが頭をよぎった瞬間、健一の心臓は激しく高鳴った。それは、彼自身でも理解できない、本能的な衝動だった。彼は、妻の純粋さ、健気さ、そして何よりも彼女への深い愛情を誰よりも知っていた。だからこそ、彼女が自分のために、そんな極限の選択をする姿を想像するだけで、彼は激しく打ちのめされるような感覚に襲われたのだ。

勿論、健一はすぐにその考えを打ち消そうとした。それは、莉子を深く傷つける行為に他ならない。しかし、一度芽生えてしまった願望は、彼の心の奥底で、静かに、しかし確実に根を張っていった。

数週間後、健一は、ある「提案」をする。それは、彼が長年抱き続けてきた願望と、莉子への愛、そして彼女の健気さを結びつけた、あまりにも残酷で、しかし彼にとっては究極の愛情表現だった。

「莉子、少し…話したいことがあるんだ」

夕食後、二人がソファでくつろいでいる時、健一は意を決して口を開いた。莉子は、不思議そうに健一を見つめる。

「どうしたの？顔色が…」

「あのね…君に、少し…お願いがあるんだ」

健一は、言葉を選びながら、ゆっくりと自分の願望を語り始めた。それは、直接的な表現を避けつつ、しかしその真意が伝わるように、細心の注意を払って行われた。莉子は、健一の言葉を聞きながら、次第に顔色を変えていった。最初は驚き、次に戸惑い、そして、健一の言葉の奥に隠された、彼の真剣な「願い」を感じ取った。

「…あなた…本気なの？」

莉子の声は、震えていた。健一は、莉子の手を握りしめる。

「本気だ。でも、強制するつもりはない。君の意思を尊重する。ただ…もし、君が…俺のために、それを…」

健一が言葉を詰まらせると、莉子は、健一の胸に顔を埋めた。しばらくの間、静寂が二人を包む。莉子の涙が、健一のシャツに染みを作っていくのが分かった。

「…分かったわ」

やがて、莉子は顔を上げた。その瞳には、悲しみと、そして不思議な決意の色が宿っていた。

「あなたのためなら…」

その言葉を聞いた瞬間、健一は、膝から崩れ落ちそうになった。それは、彼が望んだ、しかし同時に、彼が最も恐れていた未来だった。

莉子は、健一の隣に座り直し、彼の顔をじっと見つめた。

「でも、約束してほしいことがあるの」

「何でも言ってくれ」

「絶対に…私を、嫌いにならないで。そして、これを…私たちの愛の証にしてほしい」

莉子の瞳は、健一への愛情で満ち溢れていた。その健気さに、健一は胸を締め付けられる思いだった。

こうして、莉子の「特別な撮影」が始まった。それは、健一が企画し、彼女が夫のために選んだ、ある意味では「記録」であり、「証」でもあった。

撮影当日、莉子は、普段の健気で純粋な姿とはかけ離れた、ある種の覚悟を秘めた表情で、プロダクションへと向かった。彼女が纏うのは、健一が選んだ、淡いピンク色のワンピース。それは、彼女の純真さを表すかのようでもあり、同時に、これから始まる「非日常」への、彼女なりの抵抗でもあったのかもしれない。

プロダクションに到着した莉子は、そこにいた、見慣れない男性――撮影相手となる男――に、少し緊張した面持ちで挨拶をした。男は、いかにも「プロ」といった風貌で、無駄な言葉を一切発しない。莉子は、その冷たい視線に、一瞬、怯んだ。

しかし、彼女は夫からの「お願い」を思い出していた。そして、この行為が、夫への究極の愛情表現であり、彼を「満たす」ためのものであると、自分に言い聞かせていた。

撮影が始まると、莉子は、健一から教えられた、ある「言葉」を心の中で唱え続けた。それは、彼女がこの状況を乗り越えるための、お守りのような言葉だった。

「あなたのために…あなたのために…」

相手の男は、淡々と、しかし確実に莉子に迫ってくる。莉子は、その一つ一つの仕草に、身も心も削られるような感覚を覚えた。しかし、彼女の瞳の奥には、決して消えることのない、健一への深い愛情が宿っていた。

彼女の顔には、戸惑いや苦痛の色も浮かんだ。それは、健一が想像していた以上に、彼女にとって過酷な体験だったはずだ。しかし、彼女は決して抵抗しなかった。ただ、その瞳は、遠いどこかを見つめているかのようだった。それは、この現実から逃避しようとする、彼女なりの防衛本能だったのかもしれない。

撮影が進むにつれて、莉子の身体は、徐々に「慣れて」いった。それは、彼女の意思とは関係なく、身体が外界からの刺激に反応するようになった、というだけのことだ。しかし、その反応さえも、健一にとっては、彼女が「夫のために」身を捧げている証のように思えた。

一方、自宅でその一部始終をモニター越しに見守る健一は、激しい感情の嵐に打ちのめされていた。彼は、妻が他の男に抱かれる姿を見て、激しい興奮と、そして同時に、想像を絶するような罪悪感に苛まれていた。

「莉子…」

彼は、モニターに映る妻の顔を、ただただ見つめることしかできなかった。彼女の表情からは、もはや純粋な健気さは消え失せ、ある種の諦めと、しかしそれでもなお、健一への愛情が微かに垣間見えるような、複雑な光が宿っていた。

撮影が終わった時、莉子は、まるで魂が抜けたような虚ろな表情をしていた。しかし、彼女は、健一に言われた通り、男に感謝の言葉を述べ、プロダクションを後にした。

自宅に戻った莉子は、健一の腕の中で、静かに涙を流した。

「つらかったね…」

健一は、莉子の背中を優しく撫でた。その言葉は、彼自身の罪悪感の裏返しでもあった。

「でも…あなたのためなら…」

莉子は、そう言って、健一の胸に顔を埋めた。その言葉は、彼女がこの過酷な体験を乗り越えた、唯一の理由だった。

健一は、莉子を抱きしめながら、改めて自分の願望の、あまりにも歪んだ、そしてあまりにも残酷な本質を突きつけられた。彼は、愛する妻の純粋さ、健気さ、そして彼女への深い愛情を、誰よりも知っていた。だからこそ、彼女が自分のために、ここまで身を捧げたことが、彼にとって、何よりも重い事実となったのだ。

「ありがとう、莉子。本当に、ありがとう」

健一の声は、絞り出すように震えていた。それは、感謝の言葉であり、そして、彼自身の魂の叫びでもあった。

この出来事は、二人の関係に、静かな、しかし決定的な変化をもたらした。それは、二人の愛が、ある種の「禁断の領域」に足を踏み入れたことを意味していた。莉子の瞳には、以前にも増して、深い愛情と、そしてある種の「覚悟」のようなものが宿るようになった。健一は、そんな莉子を見るたびに、胸の奥底から、複雑な感情が湧き上がってくるのを感じていた。

二人の「寝盗られ」は、見せかけのNTRではなかった。それは、愛する夫のために、妻が自らの意思で、極限の選択をした、生々しい「ドキュメント」だった。そして、その「ドキュメント」は、二人の愛の形を、永遠に変えてしまったのかもしれない。

緋色の誓いは、赤裸々の果てに、静かに、しかし確実に、二人の魂に刻み込まれていった。それは、彼らがこれから歩む、未知なる道への、始まりの合図でもあった。