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## 深紅の晩餐

古びたレンガ造りの倉庫が立ち並ぶエリアの一角に、その隠れ家はひっそりと佇んでいた。表には何の看板も出ていない。ただ、重厚な鉄の扉が、そこがただの場所ではないことを静かに物語っていた。

倉田は深呼吸をした。目の前の扉に手をかけるべきか、逡巡する。紹介者の名刺を何度も見返した。裏面には「KMP20周年記念 特別招待」の文字。そして、手書きで「深紅の晩餐へようこそ」とだけ記されていた。

倉田は零細企業の冴えない中間管理職。日々の業務に追われ、上司からの理不尽な要求に耐え、家庭では妻の冷たい視線に晒される毎日。溜まりに溜まった鬱憤をどこにもぶつけられず、ただただストレスを抱え込む日々だった。そんな彼にとって、この招待状は一縷の光にも似た希望だった。

覚悟を決め、扉を押し開けた。

目に飛び込んできたのは、外観からは想像もできない豪華絢爛な空間だった。深紅のベルベットのカーテン、アンティーク調の家具、シャンデリアの光が乱反射し、妖艶な雰囲気を醸し出している。中央には、大理石でできた円形のステージがあり、スポットライトが当たっていた。

「いらっしゃいませ、倉田様」

低い、しかし甘美な声が響いた。声の主は、深紅のドレスを身に纏った美しい女性だった。完璧なプロポーション、艶やかな黒髪、そして、人を射抜くような強い瞳。彼女こそが、この隠れ家の主、社長令嬢の沙羅だった。

「ようこそ、深紅の晩餐へ。今日は、日頃の鬱憤を全て吐き出して、思う存分楽しんでいってください」

沙羅は妖艶な笑みを浮かべながら、倉田をステージへと誘った。ステージの中央には、豪華な革張りのソファが置かれている。

「まずは、着替えていただきましょうか」

沙羅は手招きし、背後に控えていた執事風の男に合図を送った。男は、恭しく倉田に黒いシルクのローブを手渡した。

「こちらに着替えて、お待ちください」

倉田は言われるがままにローブを羽織った。肌触りの良いシルクが、緊張で強張った体を優しく包み込む。

着替え終わると、沙羅はニヤリと笑った。

「さあ、倉田様。準備はよろしいですか？ 今宵は、あなただけの特別な夜です」

沙羅は指を鳴らした。すると、背後の扉が開き、数人の女性が現れた。彼女たちは、それぞれ異なるコスチュームを身にまとっていた。メイド、ナース、教師…そのどれもが、男の欲望を掻き立てるような、挑発的な姿だった。

倉田は圧倒され、言葉を失った。

「さあ、倉田様。どの子がお好みですか？ 今日は、誰に何をされても構いません。全て、あなたの思い通りです」

沙羅の言葉に、倉田の理性は崩壊した。彼は、日頃のストレスと抑圧から解放され、欲望のままに手を伸ばした。

選んだのは、メイド姿の若い女性だった。彼女は、倉田の目をじっと見つめ、ニッコリと微笑んだ。

「ご主人様、今夜はとことん甘やかして差し上げますわ」

メイドは、倉田の体をソファに押し倒し、その首筋に口づけをした。倉田の体は、熱く火照り始めた。

沙羅は、その様子を満足そうに見つめていた。

「さあ、始めましょう。深紅の晩餐を」

沙羅の合図で、メイドは倉田の服をゆっくりと脱がし始めた。慣れた手つきで、彼の体を隅々まで愛撫していく。

倉田は、生まれて初めて味わう快感に身を委ねた。彼は、日頃の鬱憤を全て忘れ、ただただ目の前の快楽に溺れていった。

しかし、これはただの快楽ではなかった。沙羅の隠れ家は、ただの性的サービスを提供する場所ではなかった。ここは、人間の欲望を徹底的に暴き出し、支配する場所だった。

メイドは、倉田の弱点を知り尽くしているかのように、的確に彼の体を刺激していく。倉田は、意識が朦朧とする中で、自分が完全に支配されていることに気づいた。

「ダメ…もう…」

倉田は、懇願するように声を上げた。しかし、メイドは容赦なく彼を追い詰めていく。

「まだまだですよ、ご主人様。もっと、もっと気持ちよくなってください」

メイドは、倉田の体を弄び続け、ついに彼は射精した。

しかし、深紅の晩餐は、それで終わりではなかった。沙羅は、ニヤリと笑い、メイドに指示を出した。

「さあ、もう一度。彼を満足させてあげなさい」

メイドは、再び倉田の体を愛撫し始めた。倉田は、抵抗する気力もなく、ただただ快感と絶望の淵を彷徨うしかなかった。

時間は過ぎ、倉田は何度も射精を繰り返した。彼の体は、疲労困憊し、完全に麻痺していた。

沙羅は、満足そうに頷いた。

「素晴らしい。あなたは、自分の欲望を全て吐き出すことができましたね」

倉田は、虚ろな目で沙羅を見つめた。彼は、一体何が起こったのか理解できていなかった。

「さあ、倉田様。今夜の晩餐はこれでおしまいです。明日からは、新しいあなたとして、また頑張ってくださいね」

沙羅は、倉田に冷たい水を浴びせ、彼を眠りにつかせた。

翌朝、倉田はいつものように会社に出勤した。しかし、彼は以前の彼とは違っていた。彼は、深紅の晩餐で自分の欲望を全て吐き出すことで、何かを失ってしまったのだ。

彼は、日々の業務を淡々とこなし、上司の理不尽な要求にも何も言わなくなった。家庭では、妻の冷たい視線にも動じなくなった。

彼は、深紅の晩餐で得た経験を通して、感情を失ってしまったのだ。彼は、ただのロボットと化してしまったのだ。

深紅の晩餐は、人間の欲望を満たすと同時に、人間性を奪い去る恐ろしい場所だった。

倉田は、ふと空を見上げた。空は、どんよりと曇っていた。彼の心の中も、同じように曇っていた。彼は、自分が一体どこに向かっているのか、わからなかった。

ただ、彼は、深紅の晩餐で得た経験を、決して忘れることはないだろう。それは、彼の人生に深く刻まれた、消えることのない傷跡なのだから。

そして、今夜もまた、新たな犠牲者が、深紅の晩餐の扉を開けるのだろう。欲望という名の悪魔に誘われ、破滅への道を歩み始めるのだろう。

深紅の晩餐は、今日もまた、静かに客を待っている。それは、永遠に終わることのない、欲望の宴なのだから。