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## 箱根の湯煙と白い肌

旅雑誌『温泉百景』の編集部員、立花は、企画会議で頭を抱えていた。「読者参加型温泉レポート」の応募が、どれも似たり寄ったりで面白みに欠けるのだ。平凡な主婦が、温泉の効能を語り、地元の料理を褒めちぎる。そんな内容ばかりでは、読者は飽きてしまうだろう。

「もっとこう、刺激的な、読者の目を引くような企画はないのか」

編集長の言葉に、立花は焦りを感じていた。起死回生の一手として、彼はある種の「裏技」を使うことにした。募集要項に、さりげなく「パートナーとの応募も歓迎」という一文を付け加えたのだ。狙いは、裕福な層の若い夫婦、もしくはカップル。そして、彼らの「日常」とは異なる、秘められた一面を垣間見せることだった。

予想通り、応募は増えた。その中で、立花の目に留まったのが二組の夫婦だった。一組は、水野朝陽さん、23歳。結婚6カ月、元デパート受付嬢という肩書きが、その美貌を想像させた。もう一組は、仲間恵さん、22歳。OLで、新婚1年。友人との温泉旅行の幹事を任されているという情報が、彼女の社交性と好奇心を物語っていた。

立花は、すぐに二人と連絡を取り、取材の段取りを始めた。場所は、都心からのアクセスも良く、風情のある箱根に決定。老舗旅館の一室を借り切り、二組の夫婦を交互に取材するという計画だった。

最初に訪れたのは、水野朝陽さん夫婦だった。朝陽さんは、写真で見たとおりの美人だった。白い肌に大きな瞳、控えめな笑顔が、彼女の育ちの良さを感じさせた。夫の健太さんは、大手企業のサラリーマンらしく、真面目そうな青年だった。

取材は、和やかに始まった。朝陽さんは、小田原城の観光や、旅館の源泉露天風呂を満喫している様子を、楽しそうに語った。夕食時、立花はさりげなくワインを勧めた。普段はあまり飲まないという朝陽さんだったが、立花の巧みな話術に乗せられ、グラスを重ねていくうちに、次第に饒舌になっていった。

酔いが回った朝陽さんは、結婚前のデパート勤務時代の話や、健太さんとの出会いのエピソードを、楽しそうに語り始めた。その表情は、どこか少女のようで、立花は内心ほくそ笑んだ。

露天風呂に入った後、朝陽さんはさらにハイテンションになっていた。頬を赤らめ、健太さんに甘える姿は、まるで恋人のようだった。立花は、カメラを回し続けながら、さりげなく二人の距離を縮めるように誘導した。そして、決定的な瞬間が訪れた。

朝陽さんは、健太さんに抱きつき、熱いキスを交わし始めたのだ。立花は、その様子を隠しカメラでしっかりと捉えた。普段は控えめな朝陽さんの、意外な一面が垣間見えた瞬間だった。

翌日、立花は仲間恵さん夫婦の取材を行った。恵さんは、朝陽さんとは対照的に、明るく活発な女性だった。旅行好きで、国内の温泉地を巡るのが趣味だという彼女は、旅館の隅々まで興味津々に見て回り、積極的に質問を投げかけてきた。

夫の亮太さんは、少し控えめな印象だったが、恵さんのことを優しく見守っている様子が伝わってきた。二人は、新婚旅行で訪れたイタリアの話や、これから計画している温泉旅行について、楽しそうに語り合った。

夕食時、立花は恵さんに、地元の日本酒を勧めた。恵さんは、日本酒が好きだということもあり、立花の勧めるままに、次々とグラスを空けていった。酔いが回った恵さんは、OL時代の失敗談や、亮太さんとの出会いのエピソードを、赤裸々に語り始めた。

露天風呂に入った後、恵さんはさらに大胆になっていた。亮太さんに甘えるだけでなく、積極的にスキンシップを図り始めたのだ。立花は、その様子をカメラに収めながら、恵さんの意外な一面に驚いていた。

その夜、恵さんは亮太さんと、何度も露天風呂を行き来した。その度に、二人の距離は縮まり、熱い視線を交わし合うようになっていった。立花は、二人の情熱的な姿を、隠しカメラでしっかりと捉えた。

取材を終え、立花は編集部に戻った。撮影した写真と動画を編集し、記事の構成を練り上げた。記事のタイトルは、「箱根の湯煙と白い肌」。読者の興味を引くような、挑発的なタイトルだった。

記事は、すぐに編集長の目に留まった。編集長は、記事の内容に満足し、すぐに掲載を決定した。発売後、『温泉百景』はたちまち話題となり、売り上げを伸ばした。立花は、編集部内で一躍時の人となった。

しかし、立花の胸には、複雑な感情が渦巻いていた。彼は、二組の夫婦の「日常」とは異なる一面を暴き出し、それを記事にした。それは、本当に正しいことだったのだろうか。

立花は、しばらくの間、自問自答を繰り返した。しかし、最終的には、彼は自分の仕事に誇りを持つことにした。彼は、読者に「刺激」と「興奮」を提供し、雑誌の売り上げを伸ばした。それは、編集者としての彼の使命だった。

数週間後、立花のもとに、水野朝陽さんから一通の手紙が届いた。手紙には、感謝の言葉と共に、こう書かれていた。「あの温泉旅行のおかげで、主人との絆が深まりました。本当にありがとうございました。」

立花は、手紙を握りしめ、深く息を吐いた。彼は、自分の仕事が、誰かを幸せにすることもできるのだと知った。そして、彼は、これからも、読者に「刺激」と「興奮」を提供し続けることを誓った。

しかし、彼の心の中には、拭いきれない「罪悪感」が残っていた。彼は、二組の夫婦の「秘められた一面」を暴き出し、それを記事にした。それは、彼らの人生に、どのような影響を与えるのだろうか。立花は、その答えを知ることはできなかった。ただ、彼は、自分の仕事が、常に「倫理」と「責任」を伴うものであることを、心に刻んだのだった。

そして、彼は、次の企画に取り掛かるために、新たな「ターゲット」を探し始めた。今度は、どんな「秘密」を暴き出すことができるだろうか。立花の冒険は、まだ始まったばかりだった。