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街の喧騒が、遠く離れた場所のことのように感じられた。耳元を流れるのは、微かな風の音と、自分の心臓の高鳴りだけだ。薄暗い部屋の片隅に、まるで抜け殻のように座っている。さっきまで友達と笑っていた、あの賑やかな居酒屋の記憶が、鮮やかな映像のように脳裏に焼き付いている。その記憶と、今この部屋の冷たさとが、あまりにも対照的で、現実感がまるで失われているようだった。

あの時、もう少し早く帰っていれば。そうすれば、この地獄のような状況には陥らなかったかもしれない。そう思うと、後悔の念が押し寄せ、胸が締め付けられる。

友達と別れた後、ふらりと入ったバー。いつもの賑やかさとは違う、静かで少し陰のある雰囲気の店だった。カウンターで一人、ウィスキーをちびちびと飲んでいた。酔いが回ってきた頃、誰かが肩を叩いた。振り返ると、見覚えのない男が立っていた。一見、普通のサラリーマン風で、不審な点など何もなかった。彼は気さくに話しかけてきて、すぐに打ち解けた。気が付けば、二人で一緒に酒を飲んでいた。

「俺、この辺に住んでてね、面白い店知ってるんだ。行ってみる？」

彼の誘いに、酔っていたこともあり、軽い気持ちでついていった。薄暗い路地裏を進み、古びた建物の階段を上った。部屋に入ると、そこは予想外の空間だった。薄暗く、湿った空気が漂い、独特の臭いが鼻をつく。ソファやテーブルは乱雑に置かれ、まるで廃墟のようだった。

最初は警戒心も持っていた。しかし、男は終始、穏やかな態度を崩さなかった。酒を注ぎ、つまみを出し、気さくに話しかけてきた。彼の言葉は、まるで魔法のように私を安心させた。いつの間にか、警戒心は薄れ、酔いも手伝って、彼のペースに巻き込まれていた。

そして、事件は突然起きた。

「ちょっと、これ貸して」

男は、何気ない様子でそう言って、私の携帯電話を取り上げようとした。私は反射的に抵抗した。その瞬間、彼の顔が豹変した。笑顔はどこかに消え、冷酷で、恐ろしい表情に変わっていた。

口を塞がれ、胸を羽交い絞めにされた。息苦しさ、恐怖、絶望。それらが一気に押し寄せた。酔いが覚めたかのように、頭がクリアになった。これは、ただのお酒の席ではない。危険な状況に陥っているのだ、と。

しかし、酔っていた身体は思うように動かない。抵抗しても、男の力は私をはるかに凌駕していた。彼は、まるで自分の意志を無視するかのように、私の身体を弄んだ。抵抗すればするほど、暴力はエスカレートしていった。服は引き裂かれ、身体には痛みが走った。絶望的な無力感に襲われ、私はただ、男の蛮行を耐えることしかできなかった。

記憶が断片的に蘇る。男の粗野な息遣い、冷たくなった自分の肌、そして、どうしようもない屈辱感。全てが、まるで悪夢のようだった。

事後、男は淡々と着替えを手渡した。まるで何もなかったかのような、その冷淡な態度に、再び深い絶望を感じた。何も言わずに、私はその場を逃げ出した。

街灯の光が、私の濡れた顔に当たった。その光が、私の涙を反射して、キラキラと輝いて見える。だが、その輝きは、私の心の傷を癒すものではなかった。

今は、この部屋で一人、震えている。身体の痛みは、まだ残っている。しかし、それ以上に深い傷を負ったのは、心だ。あの時の恐怖、屈辱、無力感。それらは、これから先もずっと、私につきまとうだろう。

警察に届け出るべきか、それとも黙ってこの事実を心に閉じ込めるべきか。迷う。警察に訴えても、本当に解決するだろうか？私の言葉は、信じて貰えるだろうか？

この出来事を、誰かに打ち明けられるだろうか。友達には？家族には？誰にも言えない、言いたくない。そんな思いが、私の心をさらに深く蝕んでいる。

この傷は、時間とともに癒えるのだろうか？それとも、永遠に私の心に残り続けるのだろうか？

今はまだ、何も分からない。ただ、この暗い部屋で、一人、震えながら、未来への希望を見失っている自分がいる。暗い部屋の窓から、朝焼けが差し込んできた。その光は、私の心を温めてくれるどころか、まるで罪悪感のようなものを呼び覚ます。

この出来事を乗り越えることができるのだろうか。そんな思いが、私の心を締め付ける。この経験をバネに、前を向いて生きていけるのだろうか。それとも、この出来事が私の人生を壊してしまうのだろうか。

今は、ただ、静かに、この出来事と向き合っていくしかない。その先に、光はあるのだろうか。まだ、何も分からない。ただ、希望を捨てずに、生きていきたいと願っている。