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## 停電と専務

第一章　停電の夜

五月晴れの午後、陽射しが燦々と降り注ぐリビングで、佐知子（38）はパソコンに向かっていた。コラムニストとして自宅で仕事をする彼女の日常は、穏やかで、時に刺激的な文章を生み出す創作活動に満たされていた。しかし、その穏やかな日常は、昼過ぎに突然、暗転した。停電である。

ブレーカーを何度か上げ下げしてみたが、復旧しない。マンションの管理会社に連絡しても、復旧には時間がかかるとのこと。仕方なく、電気工事会社に連絡を取り、数時間後に中年男性、山田という男がやってきた。

山田は、いかにもベテランといった風貌で、作業着の胸には汗が滲んでいた。佐知子は、彼の作業ぶりを眺めながら、内心少しだけ安堵していた。しかし、その安堵は、すぐに不安へと変わっていく。

作業を終え、料金を支払おうとした時、山田は不自然なほどに佐知子に近づき、怪しい笑みを浮かべた。「奥さん、姉貴の店に来た時酔った弾みで、他に男がいたらすぐにでも抱かれてみたい、なんて言ってたんですよね、この俺じゃダメですか！」

佐知子は言葉を失った。その大胆な発言に、恐怖と驚きが入り混じる感情が押し寄せた。「何言ってるんですか、触らないでください！」と、佐知子は声を荒らげたが、山田は全く動じない。

彼は、自分の体に触れながら「風呂入ってないから、マン汁とオシッコの匂いが混じってるじゃないですか」と、下品な言葉を吐き出した。その言葉と、彼の近づいてくる巨躯に、佐知子は身の危険を感じた。

「そんな広げて見ないでぇ！あーっ、ダメだってぇ！」と悲鳴にも似た叫び声を上げたが、山田の目はすでに狂気に満ちていた。そして、佐知子は抵抗する間もなく、山田の巨根を押し付けられ、予想だにしていなかった快感に喘ぎ声を漏らしてしまう。それは恐怖と屈辱、そしてどうしようもない生理的な反応の混ざり合った複雑な感情だった。


その夜、佐知子の夫、健一は社用車で自損事故を起こし、大怪我を負った。一週間後、佐知子は健一の会社の専務、黒田（50）から呼び出された。損害賠償の話し合いだと思っていた。

専務室は、重厚な家具が配置され、独特の緊張感に満ちていた。黒田は、穏やかな口調で話し始めたが、その言葉の裏に潜む冷酷な本質を佐知子は直感的に感じ取っていた。

「社長からは、アイツの事クビにしてもイイと言われててね」と、黒田は、健一の事をまるで使い捨ての駒のように語った。「じゃあ、奥さんの事抱かせてくんないかな？」

佐知子は言葉を失った。言葉にならない恐怖が、全身を駆け巡った。「専務、それだけは勘弁してください、お願いします！」と、佐知子は必死に懇願した。しかし、黒田の目は、欲望に燃えていた。

静かな威圧感の中で、黒田は佐知子に濃厚なキスを迫ってきた。「舌を出しなさい…絡ませろ、吸え…」黒田の荒々しい言葉と、彼の体から放たれる圧力に、佐知子は抵抗する力が残っていなかった。

「もう、これ以上は…、ダメです…」と、かすれた声で訴えたが、黒田の強引なキスは続いた。戸惑い、困惑しながらも、佐知子は、専務に自分の体を捧げていく。それは、絶望と、どうしようもない現実逃避の感情が混ざり合った、複雑な行為だった。


第二章　償いの代償

健一の事故の後遺症は深刻で、佐知子は仕事と介護に追われる日々を送っていた。専務との出来事は、深い傷として彼女の心に刻まれたままだった。その出来事を誰にも話すことなど出来ない。夫の介護、そして自分自身の心の傷。すべてを一人で背負い込んで生きていくしかなかった。

ある日、佐知子は山田から連絡を受けた。停電の日のことを謝罪する電話だった。驚くほど誠実な謝罪に、佐知子は自分の心を冷静に観察する余裕が生まれた。それは、恐怖と屈辱の記憶でありながら、同時に、ある種の解放感も感じていたことに気づいた。

山田の謝罪は、彼女を癒すものではなかったが、あの日の出来事を、自分自身の中で整理するきっかけになった。そして、専務との関係は、決して忘れてはいけない、しかし、乗り越えなければならない現実として受け止める決意をした。

黒田との関係は、その後も続いた。それは、佐知子にとって、金銭的な援助と引き換えの取引だった。しかし、その関係の中に、佐知子は自分が支配されているという恐怖を超えた、ある種の自由を感じ始めていた。それは、健一の事故によって失われた自由、そして、自分の生きる意味を見つけるための、歪んだ、しかし確かな光だった。

健一は徐々に回復していったが、以前のような活気は失われていた。佐知子は、夫と向き合いながら、自分自身の心の傷と葛藤しながら生きていくことを決意した。停電と専務との出来事は、佐知子の過去として永遠に残り続けるだろう。しかし、それは同時に、彼女が未来を生きていくための、新たな出発点にもなったのだ。その未来が幸せかどうかは、誰にもわからない。しかし、佐知子は、自分自身の手で、その未来を切り開いていこうとしていた。