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## 団地の午後の秘密

梅雨の湿った空気が、錆びついた鉄骨の団地にしっとりとまとわりつく。50号棟の3階、307号室。藤原咲子、48歳。夫の健一は転勤族で、今月でまた単身赴任が決まった。子供たちは独立し、広い団地の部屋には咲子一人だけが残される。窓の外は、近隣の団地群が重なり合うように連なり、その隙間から見える空は、どす黒く淀んでいた。

「また、一人ね…」

咲子はため息をつきながら、冷蔵庫から冷えたビールを取り出した。テレビでは、令和になっても変わらぬ団地の日常が映し出されている。しかし、咲子にとって、この「変わらぬ日常」こそが、じりじりと彼女の心を焦がす原因でもあった。

統計によると、既婚女性の5人に1人は不倫をしているという。その数字を聞くたびに、咲子の心臓は微かに高鳴る。欲求不満な熟女たち。その言葉が、まるで自分自身を指しているかのようで、苦く笑いがこみ上げた。

咲子は、決して不美人ではない。むしろ、年齢を重ねるごとに円熟味を増し、豊かな胸元は、若い頃とは違う大人の色香を放っていた。しかし、夫の健一は、趣味に没頭し、咲子のことなど二の次だ。夜は早くに寝つき、週末は模型作りに没頭。咲子との触れ合いは、もはや義務と化していた。

「もう、どうでもいいわ…」

ビールを一口あおると、喉がヒリリと焼ける。夕食の準備も面倒になり、咲子はソファに深く沈み込んだ。ふと、スマートフォンの画面に目をやると、見慣れないメッセージが届いていた。差出人は、「タカシ」。

タカシは、隣の棟、48号室の住人だった。年齢は咲子より少し下。いつも無愛想な表情をしているが、時折見せる切れ長の瞳には、どこか哀愁が漂っていた。数日前、団地の掲示板で「家具整理のお手伝い募集」という張り紙を見て、咲子は応募したのだ。その時の、ほんの短い会話。それが、このメッセージに繋がった。

『咲子さん、今晩、お時間ありますか？』

一瞬、心臓が跳ね上がる。こんな風に、男から誘われるのは久しぶりだった。いや、健一以外からは、ほとんどない。

『あの、タカシさん…？』

震える指で返信すると、すぐに返事が来た。

『はい。もし、ご都合が悪ければ、大丈夫ですが。』

その言葉に、咲子の胸に熱いものが込み上げた。都合が悪いわけがない。むしろ、都合がいい。この、空虚な時間を埋めてくれるなら、何でもいい。

『大丈夫です。』

短い返信を送り、咲子は部屋の明かりを落とした。柔らかな夕日が、団地の外壁をオレンジ色に染めていく。その光景を見つめながら、咲子は、これから起こるであろう出来事に、期待と不安がないまぜになった感情を抱いていた。

ピンポーン。

玄関のチャイムが鳴る。息を呑み、咲子はゆっくりとドアを開けた。そこに立っていたのは、タカシだった。普段着だが、どこか洗練された雰囲気がある。

「咲子さん、こんばんは。」

タカシは、控えめに微笑んだ。その笑顔に、咲子の心臓はさらに激しく脈打つ。

「どうぞ、入ってください。」

咲子は、タカシを部屋に招き入れた。リビングに通し、ビールを勧める。タカシは、「ありがとうございます」と言って、ビールを受け取った。

「あの、先日は…」

「いいえ、気にしないでください。むしろ、助かりました。」

タカシは、飾らない言葉で咲子に語りかけた。その自然な振る舞いに、咲子は少しずつ緊張を解いていった。二人は、他愛のない団地の日常について話した。子供たちのこと、趣味のこと、そして、それぞれが抱える孤独について。

会話が進むにつれて、二人の距離は縮まっていく。タカシは、咲子の話に真剣に耳を傾け、時折、相槌を打った。その眼差しには、咲子を理解しようとする温かさが宿っていた。

「咲子さん、あの…」

タカシが、不意に咲子の手を握った。その瞬間、咲子の体中に電流が走る。温かい、それでいて力強い手。健一の手とは、全く違う。

「…俺、咲子さんのこと、ずっと気になってたんです。」

タカシの言葉に、咲子は言葉を失った。気になっていた？自分のような、ただの団地の主婦を？

「俺も…妻とは、もう何年も、まともに話してないんです。子供たちも独立して、家には俺一人。まるで、ここに住んでる意味がないみたいで…。」

タカシの瞳には、咲子と同じような孤独が映っていた。共感、そして、かすかな安堵。この部屋には、自分だけじゃない。

タカシは、咲子の手を優しく撫でた。その指先が、咲子の肌に触れるたびに、彼女の体は熱を帯びていく。

「咲子さん、綺麗ですね。」

タカシの囁きに、咲子の頬は赤く染まった。褒められたのは、いつぶりだろうか。

「あなたも…。」

咲子は、か細い声で答えた。タカシの視線が、咲子の胸元に吸い寄せられる。その視線に、咲子は恥ずかしさと同時に、歓喜を感じた。

タカシは、ゆっくりと咲子の顔に近づき、唇を重ねた。柔らかく、そして、情熱的なキス。咲子は、その唇に身を委ねた。長年、乾ききっていた心と体に、潤いが満ちていくような感覚。

二人は、リビングから寝室へと移動した。シーツの擦れる音、吐息が重なり合う音。団地の静寂を破る、淫らな囁き。咲子は、タカシの腕の中で、自分自身を解放していた。熟女の体は、決して衰えてはいなかった。むしろ、経験を積むことで、より一層、魅力を増していた。

タカシの指が、咲子の豊かな胸を愛撫する。咲子は、快感に身を震わせた。夫には決して見せない、自分だけの秘密。それは、まるで宝物のように、咲子の心を温かく照らしていた。

夜が更けていく。団地の窓の外には、静かな闇が広がっていた。しかし、307号室の中では、二人の熱が、静かに燃え盛っていた。

「咲子さん、ありがとう。」

タカシは、咲子の髪を優しく撫でた。その瞳には、満足感と、かすかな罪悪感が入り混じっていた。

「こちらこそ…。」

咲子は、タカシの肩に寄り添った。この夜の出来事は、誰にも知られることのない、団地の午後の秘密。

翌朝、タカシは早朝に部屋を出ていった。残されたのは、咲子と、そして、甘い余韻だけ。彼女の心には、新しい扉が開かれたような感覚があった。欲求不満な熟女。その言葉は、もう彼女を責める言葉ではなかった。むしろ、それは、彼女の新しい可能性を示唆しているかのようだった。

数日後、咲子は再びタカシからのメッセージを受け取った。

『今週末、空いてますか？』

咲子は、迷わず「はい」と返信した。団地の午後は、まだ秘密に満ちている。そして、彼女の人生にも、まだ知られざる輝きが隠されていることを、咲子は予感していた。

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この物語は、ご提示いただいた文章を基に、フィクションとして創作したものです。登場人物や団地の設定、描かれている出来事は、あくまで物語上の創作であり、現実の団体生活やそこに住む方々を特定したり、一般化したりする意図はありません。