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## 泡沫の銀河

窓の外は、いつにも増して暗かった。都会の光が届かない、この辺鄙なアパートの一室。私は、いつものようにラップトップの前に座っていた。画面に映し出されているのは、静止画。そこに映るのは、甘く、そしてどこか危うい微笑みを湛えた女性の顔だった。彼女の名前は「シルフィード」。私の、そしてきっと世界中の多くの孤独な魂たちの、秘密の導き手。

「やっと、来たわね。」

ノイズ混じりの、しかし絹のような滑らかな声がスピーカーから漏れ出す。動画は、まだ始まらない。ただ、彼女の唇が、ゆっくりと、あえて間を置くように動いている。その無言の挑発に、私の呼吸は既に乱れ始めていた。

「今日、あなたが私を求めてくれたこと、とっても嬉しいわ。」

彼女の声は、直接私の耳元で囁かれているかのような錯覚を起こさせる。画面の中の彼女は、こちらを見つめている。その瞳は、私の内側を覗き込んでいるかのようだ。まるで、私の求めているものを、言葉にする前に察しているかのように。

「準備は、できてる？」

その問いかけに、私は無言で頷く。いや、頷くことすらままならない。指先が、既に震え始めていた。この瞬間を、どれだけ待ち侘びたことか。

「ふふ、その震え、嫌いじゃないわ。」

シルフィードは、そう言って小さく笑った。その笑い声さえも、私をさらに奥へと引きずり込む、甘い毒のようだった。

「まずは、深呼吸をしましょうか。でも、ゆっくり、ね。吸い込みながら、私があなたの名前を呼ぶのを、想像してみて。」

彼女の指示通りに、私は息を吸い込んだ。

「…アキラ。」

私の名前が、彼女の声で呼ばれる。その響きは、まるで長い間失っていた何かを取り戻したかのような、不思議な感覚を私に与えた。アキラ。それは、この部屋に一人でいる私の、唯一の現実であり、同時に、この画面の中のシルフィードによって、非現実へと誘われるきっかけでもある。

「そう、上手よ。吐き出す息は、今日一日、あなたを縛っていたものを、全部、外に出すつもりで。」

画面の中のシルフィードは、ゆっくりと、その指先を自分の唇に当てた。そして、その指先を、まるで私へと伸ばすかのように、画面からこちらへ滑らせる。

「さあ、あなたの、一番、敏感な場所を、優しく、愛おしむように、撫でてみて。」

彼女の言葉は、魔法の呪文だ。私の手は、もう自分のものではなかった。意思を持っているかのように、自然と、そこへと向かっていく。冷たいシーツに包まれた肌に、触れる。最初は、ためらいがあった。しかし、シルフィードの瞳が、私を励ますように、優しく、しかし強く、見つめている。

「もっと、自信を持って。あなたの、その温もりを、感じて。」

彼女の声が、私を後押しする。指先が、肌の上を滑る。まだ、何も起こらない。ただ、その感触だけが、そこに存在する。

「ねぇ、アキラ。あなたの、その、指先で、どんな景色が見える？」

彼女の問いかけに、私は目を閉じた。想像する。彼女の、シルクのような髪。触れたら、どんな感触だろうか。彼女の、甘く微笑む顔。その表情は、今、私だけに向けられている。

「もし、私の指先が、あなたの肌に触れたら、どんな風に、感じてくれる？」

その言葉に、私は指先を、さらに強く、肌に押し付けた。熱を帯びてくる。これまで、ただの体の一部だと思っていた、その場所が、今、鮮烈な存在感を放ち始めている。

「いいわ、その調子。もっと、あなたの、その、鼓動を感じて。」

シルフィードは、画面の中で、ゆっくりと、その首筋に指を這わせた。その仕草一つ一つが、私を、さらなる深淵へと誘い込む。彼女の、その、挑発的な仕草。それを真似るように、私は自分の指先で、同じ場所を、なぞってみた。

「そう、そこ…。あなたの、その、秘密の場所を、見つけ出して。」

彼女の声は、次第に熱を帯びていく。言葉の端々に、切なさと、そして、隠しきれない欲望が滲み出ている。画面の中のシルフィードは、服の襟元を、少しだけ、開いた。そこに垣間見える、肌の白さ。それだけで、私の理性は、さらに、足元から崩れていく。

「あなただけよ、アキラ。こんな、秘密の場所を、見せてあげる。」

彼女は、そう言って、自分の胸元に、指を滑らせた。その指先が、肌を撫でるたびに、私は、まるで自分が撫でられているかのような錯覚に陥る。

「あなたの、その、温かい指先で、私を、感じてみて？」

彼女の、その、挑発的な言葉。私は、もう、抵抗できなかった。指先が、震えながらも、さらに、その、敏感な場所へと、向かっていく。熱が、全身に広がる。

「もっと、焦らさないで、アキラ。あなたの、その、渇きを、私に、聞かせて？」

シルフィードの声は、もはや、耳元で囁くレベルを超えていた。まるで、私の魂そのものに、直接語りかけてくるかのようだ。彼女の、その、挑発的な瞳。その瞳が、私を、さらに、熱くさせる。

「ねぇ、アキラ。あなたの、その、吐息が、私には、聞こえているわ。」

彼女は、そう言って、画面の中の、その、唇を、ゆっくりと、開いた。そして、その、舌先で、自分の唇を、なぞる。その、甘く、そして、罪深い仕草。私の、指先は、もはや、私のものではなかった。

「あなたの、その、指先は、私を、どこへ、連れて行きたいの？」

彼女の、その、問いかけ。私は、もう、言葉にできなかった。ただ、指先を、さらに、強く、動かす。熱が、急激に、高まっていく。

「そう、その、ペースで。もっと、私を、感じさせて？」

シルフィードの声は、もはや、官能的な、囁きになっていた。画面の中の彼女の表情も、熱を帯びて、赤みを帯びていく。

「もう、すぐよ、アキラ。あなたを、あの、甘い、宇宙の、果てまで、連れて行くわ。」

彼女の、その、言葉。私の、指先は、もはや、制御不能なほど、激しく、動いていた。身体中の、全ての感覚が、一点に、集中していく。

「そう、アキラ。あなたの、その、全てを、私に、捧げて。」

シルフィードの、その、最後の言葉。そして、画面の中の、彼女の、瞳が、とろけるように、閉じていく。

「…そこよ。」

その、一言で、世界が、爆発した。

銀河の、ような、光が、私の、内側で、弾ける。熱と、快感が、全身を、駆け巡る。まるで、自分自身が、星屑になって、宇宙に、散っていくような、感覚。

そして、その、熱が、ゆっくりと、収まっていく。

私は、荒い息遣いと共に、ベッドに、横たわった。画面の中のシルフィードは、静止画に戻っていた。しかし、その、甘い微笑みは、まるで、私だけを、見つめているかのようだ。

「…ありがとう、シルフィード。」

私の、呟きは、静寂の中に、消えた。

これは、ただの、指示ではない。これは、私と、シルフィードだけの、秘密の、儀式。彼女の、その、声と、言葉と、そして、その、瞳に、導かれるまま、私は、自分自身の、最も、深い場所へと、旅をする。

一度、この、泡沫の銀河に、足を踏み入れたら、もう、戻ることは、できない。

そして、私は、また、次の、彼女の、声が、聞こえるのを、待つだろう。