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## 奇跡の肌触り

夏の終わりは、いつも寂しさを連れてくる。色褪せていく緑、少しずつ冷たさを増す風、そして、過ぎ去った熱を惜しむかのように、蝉の声も徐々に静まっていく。ゆかりは、そんな季節の移り変わりを、窓の外を眺めながら感じていた。43歳。鏡に映る自分は、年齢を感じさせない、しなやかな曲線を描いていた。夫も、時折「奇跡の体型だね」と冗談めかして言う。しかし、その言葉には、どこか遠い響きがあった。

10年。子供が独立し、家には静寂だけが漂うようになった。夫との会話は、日々の出来事の報告や、子供たちの近況確認が中心。かつて、燃えるような情熱を交わした夜は、遠い記憶の彼方へと霞んでいた。もちろん、夫婦としての営みがないわけではない。でも、それは「義務」のようで、魂が震えるような快感は、もう随分とご無沙汰だった。

ある日、ゆかりはインターネットで偶然、あるサイトを見つけた。それは、年齢を重ねてもなお、輝きを失わない女性たちの物語を集めたものだった。「奇跡の体型を持つ人妻たち」。そのタイトルに、ゆかりの胸は微かに波打った。何気なくクリックすると、そこに並んでいたのは、年齢を感じさせない美しさを持つ女性たちの写真と、彼女たちの率直な告白だった。

「撮影されていることさえ忘れ、生挿入の肉棒の快感に悶え、10年ぶりのセックスに身を委ねたゆかりさん43歳。」

その一行を読んだ瞬間、ゆかりの心臓は激しく脈打った。まるで、自分自身のことを書かれているかのような錯覚に陥った。彼女は、どのような状況で、そんな経験をしたのだろうか。43歳という年齢で、10年ぶりのセックスに身を委ねるほどの情熱とは、一体どのようなものなのだろうか。

それから、ゆかりは毎日そのサイトを覗くようになった。愛梨さん、弥生さん、かほりさん。それぞれの女性たちが抱える、秘められた欲望、満たされない思い、そして、それを解き放つ瞬間。彼女たちの言葉は、ゆかりの心の奥底に眠っていた、乾いた土壌に染み込む一滴の雨のようだった。

「拘束具で縛られ、強引に責められるセックスに、抑えていた欲求が溢れ出す愛梨さん37歳。」

「若くして専業主婦となり、12年間夫一筋。でも毎日セックスしたいのに、夫は…。悶々とした思いを抱える弥生さん36歳。」

「結婚以来順調だった夫との性生活が、○○が出来てからは2か月に1回になって寂しいとこぼすかほりさん39歳。」

これらの言葉は、ゆかりに奇妙な共感を呼び起こした。彼女たちもまた、自分と同じように、満たされない何かを抱えているのだ。そして、それを解放する道を見つけ出した。それは、決して容易な道ではないだろう。社会的な規範や、周囲の目を気にしながら、それでも自分自身の欲望に正直に向き合う勇気。

ゆかりは、夫との関係に疑問を感じ始めていた。それは、愛情がなくなったわけではない。ただ、互いに「当たり前」という言葉で、心の距離を測るようになっていた。セックスも、もはや「当たり前」の義務のようになっていた。そこに、情熱も、興奮も、そして、相手を求める切実さも、もう存在しないかのようだった。

「奇跡のカラダを持つ20人の人妻たちを収録したBEST版第2弾登場！」

その文字が、ゆかりの目に飛び込んできた。これは、単なる女性たちの物語ではない。それは、年齢や状況に関わらず、女性が持つ普遍的な欲望、そして、それを満たすための可能性を示唆しているように思えた。

ある週末、夫がゴルフに出かけた後、ゆかりは一人、リビングに座っていた。静寂が部屋を満たしていた。窓の外では、木々の葉が風に揺れ、夏の終わりを惜しむかのように、最後の光を浴びて輝いていた。ゆかりは、ゆっくりと立ち上がり、鏡の前に立った。そこに映る自分は、確かに「奇跡の体型」と呼べるかもしれない。しかし、その瞳の奥には、満たされない渇きが宿っていた。

彼女は、スマートフォンの画面を指でなぞった。あのサイトを開く。そして、ゆかりさん43歳、の項目に、そっと指を置いた。そこには、彼女の体験談が、さらに詳しく綴られていた。

「…夫との関係に、どこか物足りなさを感じていたんです。子供たちも巣立ち、二人きりの時間が多くなりました。もちろん、夫は優しい人ですし、不満があるわけではありません。でも、あの、体が求めるような、激しい愛を、もう一度経験したい…そう強く思うようになっていたんです。ある日、知人に紹介された男性と、偶然、再会しました。彼は、私が若い頃に、ほんの少しだけお付き合いしたことのある人でした。彼は、私の変わらない体型を褒めてくれて、そして、昔とは違う、大人の女性としての私に、真っ直ぐな眼差しを向けてくれたんです。その夜、彼は私に、今までにないほどの愛情を注いでくれました。10年ぶりに、男性の温もりを、そして、求められる喜びを、全身で感じました。あの感覚は、私にとって、まさに奇跡でした…。」

ゆかりは、息を呑んだ。彼女もまた、夫とは違う、別の男性との出会いを求めていたのだ。それは、決して不貞行為を推奨するものではない。しかし、ゆかりの心に、一つの可能性の扉が開かれたような気がした。それは、自分自身の欲望に、正直に向き合うこと。そして、その欲望を満たすための、別の道があるのかもしれない、ということ。

ゆかりは、ふと、夫が「当たり前」と口にしていた言葉を思い出した。当たり前、という言葉に、どれほどの諦めが隠されていたのだろうか。当たり前、という言葉の裏に、どれほどの情熱が、埋もれてしまっていたのだろうか。

彼女は、もう一度、鏡を見た。そこに映る自分は、ただの主婦ではなかった。まだ、情熱を燃やすことができる、一人の女性だった。そして、その女性は、今、静かに、しかし確かに、自分自身の欲望の炎に、火をつけようとしていた。

ゆかりは、そっと、スマートフォンの画面を閉じた。まだ、具体的な行動に移す勇気はなかった。しかし、心の中には、以前にはなかった、確かな熱が宿っていた。それは、かつて失われたと思っていた、女性としての輝きを取り戻すための、小さくも力強い一歩だった。

夜、夫が帰宅した。いつものように「ただいま」と声をかけ、ゆかりは「おかえりなさい」と答えた。いつもと変わらない日常。しかし、ゆかりの心の中は、静かに、しかし確実に、変化していた。彼女は、夫の顔をじっと見つめた。そして、心の中で、静かに問いかけた。「あなたも、まだ、あの頃の情熱を、覚えていますか？」

その答えは、まだ、見つからない。しかし、ゆかりは、もう「当たり前」という言葉で、自分自身を縛り付けることはしないだろう。彼女の「奇跡の肌触り」は、まだ、誰かに触れられるのを、静かに待っているのかもしれない。それは、夫かもしれないし、あるいは、全く別の誰かかもしれない。ただ一つ確かなのは、ゆかりは、もう、あの静寂の中に、一人で沈み続けるつもりはない、ということだった。夏の終わりの寂しさも、彼女の決意を揺るがすことはできないだろう。むしろ、その寂しさこそが、彼女を、より一層強く、燃え上がらせる原動力になるのかもしれない。