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## 陽だまりの裏側

「ちょっとしたお小遣い稼ぎに…」

その言葉が、私の運命を狂わせた。いや、狂わせたというよりは、歪ませて、そして、ある種の深淵へと誘い込んだ、と言うべきだろうか。

陽だまりのような温かさ。それが、私が「陽だまり」と名付けたこの小さなアパートの一室に求めたものだった。夫の転勤で、慣れ親しんだ街を離れ、一人、見知らぬ土地にやってきた私。寂しさ、不安、そして何よりも、家族を支えきれないという罪悪感。そんなものが、私の心を重く覆っていた。

そんな時、SNSで見かけた広告。「あなたの魅力を最大限に引き出します。未経験者歓迎。高収入。」そんな甘い言葉に、藁にもすがる思いで連絡したのが、AV監督という、今思えば恐ろしい肩書きを持つ男だった。

「君、いい顔してるね。なんか、こう…守ってあげたくなるような、儚い感じがさ。」

監督、というよりは、どこか胡散臭いプロデューサーのような風貌の男は、私の手を取って、指先でなぞった。その冷たい感触に、思わず身震いする。

「いや、あの…私、そういうのは…」

「大丈夫、大丈夫。全然、堅苦しいこと考えなくていいんだよ。これ、お小遣い稼ぎなんだから。それに、俺、人を見る目には自信があってね。君みたいな子、絶対需要あるんだって。」

彼の言葉は、流れるように私の耳を通り抜けていく。いや、通り抜けているようで、その一部は、私の心の奥底に、静かに、しかし確実に染み込んでいた。家族の顔、貯金通帳の残高、そして、このままではいけないという焦り。それらが、彼の甘い誘惑に、抗う力を削いでいった。

「でも…その…」

「遠慮はいらないよ。ほら、こっち来て、ちょっとだけ、ね？」

彼は、私の手を引いて、部屋の奥へと誘った。そこには、薄暗い照明と、異様な熱気が充満していた。そして、私の他に、三人の女性がいた。皆、私と同じくらいの年齢で、それぞれに複雑な表情を浮かべていた。

「彼女たちも、今日から仲間だよ。まあ、最初はみんな、戸惑うもんだ。でも、一度やってみれば、意外とね…」

監督は、悪戯っぽい笑みを浮かべながら、私にそう言った。そして、一人の女性に、「ほら、〇〇ちゃん、君が手本になってあげなよ」と声をかけた。

それが、私の「覚醒」の始まりだった。

最初はもちろん、極度の緊張と、嫌悪感だった。自分の体が、まるで自分のものではないかのように、硬直していた。監督の指示は、容赦なく、そして、なまなましく、私の耳に突き刺さった。

「もっと、こう…ねっとりした感じで。そうそう、その目！もっと開いて！もっと、そう！」

彼の指示は、性的なものでありながら、同時に、私という人間を、道具としてしか見ていない、その冷酷さを露呈していた。しかし、ある一線を超えた瞬間、私の体は、まるで意思を持ったかのように、動き始めた。

それは、恐怖から解放された、というわけではなかった。むしろ、恐怖を、快感へと昇華させた、とでも言うべきだろうか。監督の言葉に、私の体が、無意識のうちに反応する。いや、反応するのではなく、自ら、その状況を作り出しているかのようだった。

「そうだよ、その調子！君、才能あるね！」

監督の称賛の声が、私の耳に心地よく響く。その瞬間、私は、自分が何をしているのか、という現実から、一時的に、しかし強烈に、切り離されていた。

撮影が終わった後、私の体は、激しい疲労感と、奇妙な充実感に包まれていた。まるで、一皮剥けたような、そんな感覚。そして、渡された報酬は、想像していたよりも、ずっと高額だった。

「どう？思ったより、悪くなかったでしょ？」

監督は、私の肩をポンと叩いた。その無遠慮な仕草に、ほんの少し、抵抗を感じた。しかし、それ以上に、私は、自分の体の中に宿った、新たな感覚に戸惑っていた。

「あの…これからも、こういうお仕事、あるんですか？」

私の問いに、監督は、満面の笑みを浮かべた。

「もちろんだよ！君みたいな子は、いくらでも探せばいるんだ。でも、君みたいに、一度で開花する子は、そうそういない。これからも、よろしく頼むよ。」

その言葉に、私は、複雑な感情を抱いた。一抹の不安と、かすかな期待。そして、何よりも、私の中に芽生えた、抗いがたい欲求。

その後、私は、何度か「陽だまり」を訪れた。平均年齢35歳という、私を含めた四人の女性たちは、それぞれに事情を抱えていた。夫の事業がうまくいかず、借金返済に追われている者。子供の学費のために、身を削る者。そして、私のように、ただ、寂しさと、日常からの逃避を求めていた者。

私たちは、互いの顔を見ながら、しかし、決して本音を語ることはなかった。ただ、監督の指示に従い、カメラの前で、演技を続けた。その演技は、次第に、私にとって、現実と境界線が曖昧になっていく。

ある日、監督が、私に耳打ちした。

「君、最近、なんか変わったね。前よりも、もっと大胆になった。俺、そういうの、好きだよ。」

彼の言葉は、私を、さらに奥へと引きずり込む、悪魔の囁きだった。私の体は、監督の言葉に、そして、カメラのレンズに、素直に反応するようになっていた。それは、もはや、演技ではなかった。本能だった。

「もっと、こう…ねっとりした感じで。そうそう、その目！もっと開いて！もっと、そう！」

監督の指示が、私の全身を駆け巡る。そして、私の体は、その言葉に、熱く、そして、いやらしいほどに、答えていた。

陽だまりの温かさを求めて、私はこの場所に来た。しかし、私が手に入れたのは、陽だまりの裏側に隠された、暗く、しかし、抗いがたい魅力だった。私の人生は、もう、あの頃には戻れない。しかし、私は、その変化を、嫌悪するのではなく、むしろ、受け入れてしまっていた。

それは、運の尽きなのか。それとも、新しい自分との出会いなのか。私には、まだ、その答えを見つけることができない。ただ、一つだけ確かなことがある。それは、私の体には、もう、あの頃の私が、息づいていないということだ。そして、その変化は、私にとって、恐ろしいものではなく、むしろ、魅惑的なものである、ということだけだ。