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三十八歳。子供はいなく、夫とは穏やかな日々を送っている。会社では信頼される中堅社員として、きちんと評価もされている。友人たちとも定期的にランチをしたり、旅行に行ったりと、一見充実した日々。でも、胸の奥底には、小さな、しかし確実に存在感を増していく寂しさがあった。

それは、女としての輝きを失いつつあるという、漠然とした不安だった。シワが増え、髪に白髪が混じる。鏡を見るたびに、自分の老いを感じてしまう。夫は優しいが、以前のような熱情は感じられない。セックスレスというわけではないけれど、回数も減り、淡々と済ませることが多くなった。夫は夫で、仕事に追われ、疲れているのだろう。お互い様だと理解はしているものの、満たされない気持ちは拭えない。

そんなある日、高校時代の同窓会の案内状が届いた。一枚の紙切れに、鮮やかなピンク色のインクで「あの頃に戻って、もう一度青春を謳歌しましょう！」と書かれている。正直、躊躇もあった。あの頃は、きらびやかな青春時代。今、自分がそこに参加しても場違いではないだろうか。しかし、心の奥底では、何か心の底を揺さぶる出来事があるかもしれないという淡い期待もあった。迷いはすぐに消え、私は迷うことなく出席を返信した。

同窓会当日、会場のホテルに入ると、懐かしい顔ぶれが次々と目に飛び込んできた。変わっていない人もいれば、驚くほど変わってしまった人もいる。しかし、皆、あの頃の面影を残していて、久しぶりに会ったはずなのに、すぐに打ち解け合えた。

賑やかな歓談の中、私は高校時代、３年間付き合っていた彼、直也を見つけた。彼は、少し太ったものの、あの頃と変わらぬ優しげな笑顔で私を迎えてくれた。彼は、当時、進学のために上京。遠距離恋愛の末に、私が大学進学を諦めたことで、自然消滅した関係だった。別れの言葉も交わさず、ただ距離だけが二人の心を離していった。

久しぶりに話をすると、直也は結婚もせず、地元で会社を経営しているという。彼は、私と別れた後、誰とも深く付き合うことはなかったと言った。その言葉に、私は胸が締め付けられるような感覚を覚えた。

同窓会は、二次会まで続いた。気がつけば、私は直也と二人きりになっていた。彼は、当時、私に伝えられなかった気持ちを語り始めた。私のことを今でも忘れられないと。卒業式の日の彼の言葉は、私の記憶から消えていたが、その日、彼は改めて私に愛を告げてくれたのだ。その言葉は、まるで枯れた心に雨が降るように、私の心を潤してくれた。

「あの時、君をもっと大切にするべきだった…」彼の言葉は、酔いも手伝ってか、涙腺を刺激した。私は彼の胸に飛び込み、号泣した。高校時代に戻ったような感覚だった。

二次会が終わった後、直也は私を自宅まで送ってくれた。車の中で、彼は私をマンションの入り口まで送らず、ドライブに誘ってきた。私は、ためらいを感じつつも、彼の誘いに乗った。

車は、海沿いの道を走っていた。波の音と、風の音が心地よかった。車を止めて、彼は私の手を握った。彼の温かい手は、私の心を優しく包み込んだ。

彼は、私の目を見て、真剣な表情で言った。「もう一度、付き合ってください。今度こそ、君を幸せにします。」

彼の言葉に、私は迷わず頷いた。高校時代の淡い恋の再燃か、それとも、年を重ねた大人の恋なのか。それは分からない。ただ、彼の温もりを感じ、久しぶりに感じる高揚感と、幸せな気持ちに包まれた。

翌朝、私は夫に離婚を切り出した。夫は、驚きを隠せない様子だったが、私の決意の固さを理解してくれた。離婚は、もちろん、簡単に決断できたわけではない。しかし、あの日の同窓会で、私は自分の心に正直に生きることを決めたのだ。

三十八歳。遅すぎることはない。私は、もう一度、恋をする。そして、自分の幸せを掴むために、新たな一歩を踏み出した。平凡な日常に終止符を打ち、これからの人生を、自分の手で彩っていく。再び輝く自分を取り戻す旅が始まったのだ。  あの頃の輝きとは違う、もっと深く、落ち着いた、大人の女性の輝きを。そして、それは、直也と二人で、ゆっくりと築き上げていくものだと信じていた。