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## 偽りの楽園、流出した真実

夜の帳が街を覆い尽くし、ネオンの光がビルの谷間を妖しく照らす。そんな喧騒から逃れるように、私は雑居ビルの薄暗い一室にいた。そこは、私の知る限り、最も「非日常」の匂いがする場所だった。探偵事務所「真実の刃」。その名前を聞くだけで、どこか背徳的な響きを感じた。

「…で、このデータ、本当に大丈夫なんですか？」

目の前に座る男は、冷たい光を放つパソコンのモニターを指差した。彼はこの事務所の所長、影山と名乗った。痩せた体に細身のスーツ、そして何よりも、その鋭い眼光が、彼が「普通」の人間ではないことを物語っていた。

「心配ご無用。これは我々が命がけで集めた、絶対的な証拠だ」

影山は、不敵な笑みを浮かべながらそう言った。彼が提示したのは、USBメモリ。そして、その中身は、私が想像していた以上に「エグすぎる」ものだった。

「これは…」

言葉を失った。モニターに映し出されたのは、滑らかな肌、艶やかな髪、そして官能的な表情。それは、私の妻、美咲だった。しかし、その隣にいる男は、私ではなかった。高級ホテルのスイートルーム、高級レストラン、そして人気のない夜の公園。そこかしこで、美咲は私以外の男と、熱い抱擁を交わしていた。

「まさか…」

脳裏を駆け巡るのは、美咲との出会いから結婚までの日々。優しく、賢く、そして何よりも愛おしかった妻。彼女が、こんなにも大胆に、そして冷酷に私を裏切っていたなんて。

「…これが、流出してしまった、という話ですね？」

私は、震える声で影山に問いかけた。

「そうだ。我々はこの映像を、依頼人のために極秘に保管していた。しかし、内部の人間が…おそらく金に目がくらんだのだろう。これを外部に流出させてしまった」

影山は、憎悪に顔を歪ませながら続けた。

「そして、この流出によって、数多の家庭が崩壊の危機に瀕している。この映像を、『女は絶対浮気する』という証拠として、一部の連中が拡散し始めたんだ」

私は、拳を握りしめた。怒り、悲しみ、そして絶望。様々な感情が、私の心を掻き乱した。

「なぜ、私にこれを？」

「君は、この映像に映る男に、面影が似ている」

影山は、私の顔をじっと見つめながら言った。

「この映像は、君に『現実』を突きつけるためのものだ。もしかしたら、君もいつか、同じような悲劇に遭うかもしれない。あるいは、既に遭っているのかもしれない」

彼の言葉は、私の胸に深く突き刺さった。私は、美咲を信じきっていた。疑うことすら、考えたことがなかった。しかし、この映像は、私のその「信頼」を、木っ端微塵に打ち砕いた。

「…この映像、私にどうしろと？」

「君に、選択肢は二つだ」

影山は、ゆっくりと口を開いた。

「一つは、この事実を受け入れ、絶望の淵に沈むこと。もう一つは、この『偽りの楽園』の裏側にある真実を、さらに深く探求することだ」

彼は、再びパソコンのモニターを指差した。そこには、私が見た映像とは異なる、さらに生々しい、そして歪んだ人間関係が映し出されていた。

「この流出は、氷山の一角に過ぎない。世の中には、君が想像もできないような『不倫』の形が、無数に存在する。そして、その背後には、常に『欲望』と『裏切り』がある」

影山は、冷たく言い放った。

「君が、この『真実の刃』の力を借りるならば、君もまた、その闇を覗くことができる。あるいは、その闇を、君自身の手で断ち切ることもできる」

私は、モニターに映し出された映像を、ただただ見つめていた。そこには、私の知る美咲はいなかった。そこにあったのは、虚無と、快楽に溺れる一人の女の姿だけだった。

「…私は、どうすればいいのでしょう」

私の声は、もはや自分のものではないように感じられた。

「それは、君自身が決めることだ」

影山は、静かに答えた。

「だが、覚えておいてほしい。この世の『真実』は、しばしば、我々の『幻想』よりも、遥かに残酷で、そして、遥かに魅力的だ」

彼の言葉は、私の心に深く刻み込まれた。私は、この流出した映像が、私の人生をどのように変えていくのか、まだ知る由もなかった。ただ一つ確かなことは、私が、もう二度と、あの頃のように「無垢」でいることはできないだろうということだけだった。

この後、私は影山の提案を受け入れ、探偵事務所「真実の刃」の協力者となることを決意した。美咲との関係は、当然ながら破綻した。だが、私の「真実」への探求は、この流出した映像をきっかけに、新たな段階へと進んでいくことになったのだ。それは、私自身が、この「エグすぎる不倫の現実」の渦中に、深く身を投じることを意味していた。

夜の街は、相変わらずネオンの光を放っていた。しかし、私の目には、その光が、これまでとは全く違う、暗く、そして危険な輝きを放っているように見えた。それは、私を誘う、禁断の果実の光だった。そして、私は、その光に、抗うことができなかった。

これは、ある男が、流出した映像によって、自らの「幻想」を打ち砕かれ、そして「真実」の深淵を覗き込むことになった物語の、ほんの始まりに過ぎなかった。