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## 鏡の中の私、そしてあの夜

ソウルタワーの麓にそびえ立つ、ガラス張りの高層ビル。その最上階に、私のオフィスはあった。チェ・ジウォン、32歳。韓国社会で「勝ち組」と呼ばれるエリートコースをひた走る、そんな肩書きが私にはついていた。両親は大学教授、自身もハーバード大学を首席で卒業。外資系金融機関で辣腕を振るい、数々の功績を挙げ、業界内での評判はうなぎのぼりだった。

鏡に映る自分は、いつも完璧だった。ストレートの黒髪は艶やかに光り、整った顔立ちは清潔感と知性を漂わせる。スーツは仕立ての良いものを着用し、そのシルエットはすらりとした長身を際立たせていた。誰もが羨むような容姿と、誰もが妬むような頭脳。私は、そう、まさに「絵に描いたような」成功者だった。

しかし、その完璧な仮面の下には、誰にも見せたことのない、もう一人の私がいた。それは、激しい情熱を秘めた、欲望に忠実な私。幼い頃から、周囲は常に私に「模範」であることを求めた。優秀であれ、礼儀正しくあれ、感情的になるな。その期待に応え続けていくうちに、いつしか私は自分の本当の感情を押し殺すことを覚えていた。

特に、私の内側で燃え盛る「性欲」とでも呼ぶべきものは、最も抑圧された感情だった。まるで、封印された炎のように、内に秘められた熱は、日増しに強まっていくのを感じていた。世間では「冷静沈着なキャリアウーマン」として通っていた私だが、夜になると、その理性は音を立てて崩れ去った。

「3ヶ月彼氏がいないから…」

そんな理由で片付けられるものではない。それは、まるで飢えた獣が獲物を求めるかのような、抗いがたい衝動だった。眠れない夜、一人でベッドに横たわり、私の思考は次第に、ただひたすらに、あの熱に突き動かされていった。

ある金曜日の夜。いつものように、仕事終わりに高級ホテルのバーで一人、ブランデーを傾けていた。窓の外には、きらびやかなソウルの夜景が広がっていた。いつものように、私は自分自身に言い聞かせていた。「今日は、早く帰って、明日のプレゼンの資料をチェックするんだ。」

しかし、その夜は違った。隣の席に座っていた男が、私のグラスにそっと手を添えてきたのだ。その手は、私の手よりも少しだけ熱かった。顔を上げると、そこには、彫刻のような顔立ちをした、見知らぬ男がいた。彼の瞳は、私の奥底にある、普段は隠している欲望を見透かすかのように、まっすぐに私を見つめていた。

「お嬢さん、一人で飲むのはもったいない。私も、君と同じように、この夜景を誰かと分かち合いたいと思っているんだ。」

彼の声は、低く、甘く、私の耳をくすぐった。普段なら、すぐに「結構です」と断るべき相手だった。しかし、その夜の私は、自分でも驚くほど、彼の言葉に惹きつけられていた。まるで、長年封じ込めていた何かが、解き放たれたような感覚。

「…あなたは、誰？」

私の声は、自分でも信じられないほど、いつもより少しだけ上ずっていた。

「イ・ジュンヒョク。まあ、ただの会社員だよ。君のように、光り輝く星のようではないけれど。」

彼はそう言って、優しく微笑んだ。その微笑みに、私は、これまで誰にも見せたことのない、自分の「素顔」を、少しだけ垣間見せたような気がした。

その夜、私たちはホテルの部屋で、互いの身体を求め合った。彼の唇が私の唇に触れた瞬間、私の理性は完全に消滅した。これまで、どれだけ自分を偽ってきたのだろうか。どれだけ、この衝動を抑え込んできたのだろうか。

彼の指が私の首筋をなぞり、やがて私のブラジャーのホックに触れた時、私は、まるで雷に打たれたかのような衝撃を受けた。それは、純粋な悦びと、そして、これまで抑圧してきた欲望の奔流だった。

「ジウォンさん…君の瞳は、とても綺麗だ。まるで、星屑みたいだ。」

ジュンヒョクの声が、私の耳元で囁かれた。彼の言葉は、私の心をさらに溶かしていく。私は、彼に身を委ねた。

私たちが初めて肌を重ねた夜は、まるで夢のようだった。これまで、いくらでも経験してきた「恋人との時間」とは、全く違うものだった。それは、純粋な、動物的な、そして何よりも「本能」に突き動かされた、激しい愛の交歓だった。

彼の舌が私の乳首を弄ぶたび、私は、これまで感じたことのないような、激しい痺れに襲われた。それは、まるで全身の神経が、一斉に火花を散らすような感覚だった。私の喘ぎ声が、部屋中に響き渡った。普段の「知的なチェ・ジウォン」からは、想像もつかないような、野性的な声だった。

「ああ…ジウォンさん…君は、本当に…」

ジュンヒョクの声も、私と同じように、激しい興奮に震えていた。彼の力強い腕が私の腰を掴み、私を自分に引き寄せた。私は、彼の硬く、熱いものを、自身の湿った奥へと受け入れた。

その瞬間、私は、今まで経験したことのないような、純粋な悦びの波に包まれた。それは、まるで、遥か彼方の宇宙から響いてくるような、力強い鼓動だった。私の心臓が、彼のリズムに合わせて、激しく脈打った。

「んっ…ジュンヒョク…！」

私は、彼に名前を叫んだ。それは、私自身の存在を、彼に、そしてこの世界に、刻みつけるような、魂の叫びだった。

私たちの身体は、まるで一つになったかのように、激しく揺れ動いた。汗が、私たちの肌を滑り落ち、光り輝いた。私は、彼に、そしてこの夜に、完全に身を委ねていた。

「もっと…もっと、私を…！」

私の言葉に、ジュンヒョクは、さらに激しく、私を抱いた。彼の荒い息遣いが、私の耳元で鼓膜を揺らした。私は、彼のすべてを求めた。彼の身体、彼の情熱、そして、彼の、私を支配しようとする力。

その夜、私は、自分の内側に眠っていた「欲望」のすべてを、解放した。それは、まるで、長年閉じ込めていた鳥が、自由になったかのような、解放感だった。私が、これほどまでに「生きて」いると感じたのは、初めてのことだった。

翌朝、私は、いつものように、完璧なチェ・ジウォンとして、目を覚ました。しかし、私の内側には、あの夜の激しい熱が、まだ残っていた。鏡に映る自分は、昨日と同じように、冷静で、知的な女性だった。しかし、その瞳の奥には、あの夜の、隠しきれない「獣」の輝きが、宿っていた。

「3ヶ月彼氏がいないから…」

そんな言葉では、あの夜の私の行動を、説明することはできない。それは、もっと深く、もっと根源的な、私の「本性」に突き動かされた、必然だったのかもしれない。

私にとって、あの夜は、単なる一夜限りの過ちではなかった。それは、私が、これまで偽ってきた自分自身に、訣別を告げ、本当の自分を見つめ直す、きっかけとなった夜だった。

私の人生は、これからも「勝ち組」として続いていくのだろう。しかし、もう、あの夜の私を、隠すことはない。鏡の中の私に、私は、静かに微笑みかけた。そして、私の秘められた情熱は、これから、どのような形で、この世界に解き放たれるのだろうか。その想像をするだけで、私の身体は、再び、あの夜の熱に、熱を帯びていくのを感じていた。