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## 月明かりの下の白衣

夜勤の始まりは、いつだって静寂を破るように病室のドアが開く音から始まる。健やかな昼間の喧騒とは打って変わって、夜の病院は独特の空気を纏っていた。消毒液の匂いに混じって、微かに漂う甘い香りは、きっと昼間の彼女たちからは想像もつかない、秘密めいた夜の始まりを告げる合図だった。

白衣の下に隠された、昼間とは全く違う顔。それは、ある種の解放感であり、また、ある種の禁断の扉を開ける鍵でもあった。

「あら、佐藤さん、お疲れ様」

深みのある声で話しかけてきたのは、ベテラン看護師の田中さん。齢は四十を過ぎているだろうか。すらりと伸びた手足、艶やかな黒髪、そして何よりも、その瞳の奥に宿る妖艶な光が、彼女をただの看護師ではないと物語っていた。昼間は患者に寄り添い、丁寧な言葉遣いで接する姿しか見たことがない者にとっては、夜の Tanakaさん の放つ色気は、まるで別人のようだった。

「田中さん、今日もよろしくお願いします。…なんだか、今日は一段と綺麗ですね」

思わず口にした言葉に、 Tanaka さんはくすりと笑った。その笑みは、昼間のそれとは違い、どこか誘うような響きを帯びていた。

「あら、そう？ 今日はちょっと、気分転換にね」

「気分転換、ですか？」

「ええ。夜勤って、なんだか不思議な空間だわ。外の世界のルールから少しだけ解放されるような…そんな気にならない？」

彼女の言葉に、私の胸もざわめいた。確かに、夜勤は日常から切り離された、特別な時間のように感じられる。薄暗い廊下、時折響く医療機器の電子音、そして、同じように夜の帳の中で働く、妖艶な女性たちの気配。

「そうですね…なんだか、秘密の時間が流れているような…」

「ふふ、鋭いわね。貴方も、そういうのはお好き？」

Tanaka さんは、私の肩にそっと手を置いた。その指先は、驚くほど柔らかく、そして、どこか熱を帯びているように感じられた。白衣越しでも伝わる、彼女の体温。それは、単なる仕事上の接触とは明らかに異質な、甘く危険な誘惑だった。

「あの…」

言葉に詰まる私に、 Tanaka さんはさらに顔を近づけてきた。彼女の吐息が、私の耳元をくすぐる。

「遠慮しないで。夜は、まだ始まったばかりよ」

その言葉とともに、彼女の指が私の首筋をなぞった。ゾクゾクとした快感が全身を駆け巡る。昼間の真面目で堅実な姿からは想像もできない、奔放な一面。それは、まるで熟れた果実のように、甘く、そして危険な香りを放っていた。

「でも、ここは病院、ですし…」

「大丈夫。誰も見ていないわ。それに、私だって、たまには…ね？」

彼女は、いたずらっぽく微笑んだ。その瞳は、夜の闇に紛れて、さらに輝きを増しているように見えた。

彼女だけではなかった。この夜勤の、もう一人の「妖艶熟女」とも呼ぶべき存在。それが、佐々木さんだ。彼女は Tanaka さんよりも少し若いが、それでも三十代後半。しかし、その色気は Tanaka さんに勝るとも劣らない。むしろ、より磨き上げられた、大人の魅力を纏っていた。

「佐々木さん、お疲れ様です」

私が挨拶をすると、彼女はニヤリと笑った。

「お疲れ。今日も、張り切って行きましょうか」

彼女の「張り切って」という言葉の裏には、一体どんな意味が隠されているのだろうか。昼間は、患者さんの不安を和らげ、笑顔を引き出すことに長けていた佐々木さん。しかし、夜の彼女は、その魅力を、もっと個人的な、そしてより深いレベルで解放するようだった。

「皆さん、今日も夜勤、頑張りましょうね！」

彼女は、他の看護師たちにも声をかけ、その場を和ませた。しかし、その笑顔の奥に潜む、熱っぽい視線。それは、私を始め、夜勤の男性スタッフたちを、無言のうちに惹きつけていた。

「佐々木さん、何か飲むもの、ありますか？」

私が尋ねると、彼女は薄い唇で微笑んだ。

「いいのがあるわよ。ちょっと、秘密の、ね」

彼女は、ナースステーションの片隅にある、普段は使わないであろう小さな棚に手を伸ばした。そして、取り出したのは、透明なボトル。中には、琥珀色の液体が満たされていた。

「これは…？」

「お酒よ。夜勤の、ちょっとしたご褒美」

彼女は、小さめのグラスにその液体を注ぎ、私に差し出した。

「どうぞ。疲れた体に、染み渡るわよ」

躊躇する私に、彼女はさらに促す。

「大丈夫。これも、仕事のうち…って、ことで？」

その言葉は、私をさらに惑わせた。彼女の優しさと、その大胆さ。それは、昼間の「マジメな姿」からは想像もつかない、奔放すぎる裏の顔だった。

一口飲むと、口の中に広がる芳醇な香り。そして、喉を伝っていく熱。それは、体の芯から温めるだけでなく、心の奥底に眠っていた、何かを呼び覚ますようだった。

「美味しいですね」

「でしょ？ これは、私が特別に仕入れたものなの。夜勤の、秘密の隠し味」

彼女は、私のグラスを覗き込みながら、意味深な言葉を続けた。

「でも、一番の隠し味は、やっぱり…」

彼女は、私の顔をじっと見つめた。その瞳は、まるで「私」という人間を、深く見透かしているかのようだった。そして、ゆっくりと、その細い指が私の頬に触れた。

「貴方のような、新鮮な刺激、かしらね」

その瞬間、私は、まるで夢の中にいるような感覚に陥った。白衣を纏った、彼女たちの放つ色気。それは、昼間の太陽の下では決して見ることのできない、月明かりの下でだけ咲く、危険な花だった。

「佐藤さん、大丈夫？」

 Tanaka さんが、私の傍らにやってきた。彼女の顔には、心配そうな、そしてどこか楽しんでいるような表情が浮かんでいた。

「あ…はい。大丈夫です」

「顔、赤いけど？」

「えっ？」

自分が顔を赤らめていることに気づき、私は慌てた。

「きっと、お酒のせいですよ」

「あら、そう？ それとも、私のせい？」

 Tanaka さんは、悪戯っぽく笑いながら、私の耳元で囁いた。

「夜は、誰だって、少しだけ大胆になるものよ。特に、私たちがね」

彼女の言葉は、私の背筋を駆け巡る、甘い電流のようだった。彼女たちの、昼間とは全く違う、奔放すぎる裏の顔。それは、昼間の真面目な姿からは想像もつかない、魅惑的な世界だった。

夜勤の終盤。窓の外は、もうすぐ夜明けを迎えようとしていた。病院の廊下は、再び静寂を取り戻しつつあった。しかし、私の心の中には、まだあの甘く、危険な夜の余韻が残っていた。

「今日もお疲れ様。また、次の夜勤でね」

 Tanaka さんが、私に別れを告げた。その瞳には、まだ昼間の光を宿していない、夜の妖艶さが残っていた。

「はい、また…」

私も、彼女に小さく頷いた。彼女たちの、昼間とは全く違う、奔放な一面。それは、私にとって、看護師という職業の、奥深い魅力を再認識させてくれる経験だった。

「また、あの秘密の夜を、楽しみにしています」

心の中で、そう呟いた。夜勤の白衣の下には、想像もつかないほどの、「乱れに乱れた」夜の実態が隠されている。そして、その乱れこそが、昼間の彼女たちを、より魅力的に、そしてより人間的に見せているのかもしれない。

病院のドアを出ると、朝の冷たい空気が肌を撫でた。しかし、私の体の中には、まだあの夜の、熱い余韻が残っていた。そして、私は、次の夜勤が来るのを、密かに、しかし確実に、楽しみにしていた。