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薄暗い寝室で、絵里はベッドに座り込み、嗚咽を漏らしていた。涙に濡れた顔でスマートフォンを見つめると、そこに映し出されたのは、彼女が別の男と愛し合う姿を捉えた動画だった。

「ごめんなさい…謝る事しかできないの…」

吐き出すようにつぶやいた言葉が、虚しく部屋に響き渡る。彼女は良き妻として、夫の健太を愛しているはずだった。しかし、夫が不在の隙に、彼女は知らぬ男と一夜を明かしてしまったのだ。

思い返せば、あの日からすべては始まった。夫が出張で家を空け、絵里は友人と飲みに行った。そこで出会った英介という男は、絵里の寂しさと孤独につけ込んだ。彼の甘い誘いに、絵里は抗えず、ホテルへと足を運んだのだった。

行為自体は、本能的な欲望に駆られたものでしかなかった。しかし、その後、英介が動画を撮影していたことを知った絵里は、凍りついた。夫の知らない男と交わったという事実が、彼女を苦しめた。

夫にすれば、それは決して許されることではなかった。彼女と夫の関係は、この動画が明るみに出れば終わりを迎えてしまうだろう。そんなことを知りながら、絵里は自ら罰を受けるかのように動画を見つめ続けた。

「貴方がこれを見たら私たち終わっちゃうね…」

静かに流れる涙が、彼女の頬を伝う。夫の優しい顔が脳裏に浮かぶ。彼女は健太を愛していた。彼を失いたくないが、彼女はその罪を胸に秘めて生きていくこともできなかった。

「でも、貴方じゃ満たされない私のカラダ…」

夫との愛では満たされない、彼女の内面的な飢え。それが彼女を、見知らぬ男の腕に駆り立てたのだ。でも、それは単なる性的な欲求に過ぎず、彼女が本当の意味で求めていたものではなかった。

「撮影が終わって貴方の知らない男と快楽だけを求めて抱かれた私が、帰ったらどんな顔をして貴方に会うんだろう…」

罪悪感と自己嫌悪に苛まれながら、絵里は部屋を抜け出し、窓際に立った。外は雨で、容赦なく彼女の体を濡らした。冷たく冷たい雨が、彼女の肉体だけでなく、魂までも洗い流していくようだった。

夜が明け、健太が帰宅した。絵里は必死に平常心を装い、夫を迎えた。けんかすることもなく、食事もいつも通りに進んだ。しかし、絵里の心は嵐だった。

食事を終えると、健太は寝室へと向かった。躊躇しながらも、絵里は夫についていった。ベッドで横になった時、絵里は自分が抱えている秘密について話そうかどうか迷った。

「健太さん、ごめんなさい…」

言葉が喉に詰まった。彼女は自分の罪を告白することができなかった。健太に裏切られたことを知ったら、彼は彼女を許すだろうか。それとも、すべてを終わらせるのだろうか。

答えは出ないまま、絵里は健太のそばで夜を過ごした。夫のぬくもりを感じながら、彼女は罪悪感に打ちのめされていた。朝になり、健太が出勤すると、絵里はベッドから起き上がり、スマートフォンを手に取った。

動悸が激しく、彼女は震える手で動画を再生した。しかし、そこには何も映っていなかった。動画は削除されていたのだ。彼女は安堵と戸惑いが入り混じった感情に襲われた。夫は動画のことを知っていたのだろうか。それとも、単に偶然消去してしまっただけだろうか。

真相はわからなかったが、絵里は夫に秘密を打ち明ける決心をした。彼女は健太に会ってすべてを告白し、夫の許しを得ようと思った。しかし、その後姿を追いかけた時、彼女はとんでもない光景を目にした。

健太は別の女性と手をつなぎ、笑いながらマンションの玄関から出て行ったのだ。絵里は立ち尽くし、信じられない光景を見つめた。夫が浮気していたという現実が、彼女を打ちのめした。

「…私たち終わっちゃったね」

呟くように言った言葉は、彼女の心を張り裂くほど重かった。彼女は健太の浮気が許せなかった。しかし、それ以上に自分自身の行為を許すことができなかった。

絵里は何も言わず、踵を返し、その場を立ち去った。雨上がりの街並みを歩きながら、彼女は失ったものについて考えた。夫、自尊心、そして自分自身。すべてを失った彼女は、どこへも行けなかった。

彼女は公園のベンチに座り込み、空を見上げた。暗闇の中に浮かぶ無数の星を見つめながら、絵里は涙を流した。後悔と悲しみで胸がいっぱいだった。彼女は二度と、愛する人を裏切ることのないように祈った。