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## 秘密の宴

僕らが「あの頃」と呼んでいる、遠い記憶の残骸。それは、まだ世界が色鮮やかで、未来が不確かな、甘酸っぱい季節だった。あの頃、僕らが憧れた女性たちは、皆、等しく大きく見えた。夕暮れの茜色に染まる校舎の窓辺に佇む彼女、雨上がり、水たまりを跳ねるように歩く彼女。そのすべてが、僕らの幼い心に、きらめく星座のように映っていた。

とりわけ、僕の憧れは、少しばかり歪んでいたのかもしれない。雑誌の片隅に、あるいは遠い街角で、ふと見かけた、ひときわ背の高い女性たち。すらりと伸びた手足、優雅に揺れる長い髪。彼女たちの存在は、僕にとって、秘密の宴、あるいは禁断の果実のようなものだった。現実とは少しずれた、しかし確実に僕の心を奪う、特別な輝きを放っていたのだ。

そんな記憶の断片が、ふと、ある日、鮮明に蘇った。それは、蒸し暑い夏の夜、冷房の効いた部屋で、古い写真集をめくっていた時のことだった。ページをめくるたびに、あの頃の憧れが、ぼんやりとした光を放つ。そして、僕は決意した。あの頃、僕らが追い求めた、あの特別な輝きを、もう一度、この手で掴みたいと。

しかし、現実世界で、僕の理想とする背の高い女性に、そう簡単に出会えるわけではない。街を歩けば、すれ違う人々は皆、平均的な身長の壁に阻まれてしまう。カフェの席に座れば、彼女の顔は、向かいに座る僕の視線より、いつも少し高い位置にある。その距離感が、僕の心をくすぐり、同時に切なくさせた。

ある日、僕はインターネットの海を彷徨っていた。情報という名の渦に巻き込まれながら、ふと、ある言葉に目が留まった。「身長170cm以上の女子だけを厳選」。その文字を見た瞬間、僕の心臓は早鐘を打った。まるで、長年探し求めていた宝の地図を見つけたような、そんな錯覚に陥った。

クリック。画面に現れたのは、現実離れした、しかし僕の夢を具現化したかのような女性たちの写真だった。スラリと伸びた手足、すらりとした首筋、そして、何よりも僕の心を掴んで離さない、その圧倒的な身長。彼女たちの立ち姿は、まるで絵画のように洗練され、それでいて、どこか野生的な生命力を感じさせた。

そこは、僕だけの秘密の楽園だった。外界の喧騒とは隔絶された、静かで、しかし熱を帯びた空間。彼女たちは、僕の視線を受け止め、そして、想像もつかないような、魅惑的な表情を見せてくれた。

彼女の一人、エリナ。身長175cm。彼女は、いつも少し猫背気味に歩いていた。それは、自分があまりにも高いということを、無意識のうちに隠そうとしているかのようだった。しかし、その猫背でさえ、彼女のすらりとした肢体を、より一層、官能的に見せていた。細く長い首筋には、微かな汗が光り、その先にある、柔らかな肩のラインへと視線が吸い寄せられる。

ある日、僕はエリナと、静かなバーで会う約束をした。彼女は、黒いロングワンピースに身を包み、僕の前に現れた。その姿は、まるで夜空に咲いた、一本の黒い薔薇のようだった。僕が普段座るカウンター席の椅子が、彼女にとっては少し低く見える。彼女は、それに気がついているのかいないのか、静かにグラスを傾けていた。

「あの…、エリナさん。いつも、遠くから見ていました」
僕の声は、少し震えていた。

彼女は、ゆっくりと顔を上げた。その瞳は、深い森の奥にある泉のように、静かで、しかし底知れない神秘を湛えていた。
「遠くから、ですか？」
彼女の声は、澄んでいて、しかしどこか影を帯びていた。

「はい。あの、背が高い女性に、ずっと憧れていて…」
僕は、言葉を探しながら、必死に伝えた。

エリナは、ふっと微笑んだ。その微笑みは、まるで静かな水面に広がる波紋のように、僕の心を穏やかにした。
「私のような人間は、いつも、少し浮いているように見えるでしょう？」
彼女は、そう言って、自分の指先で、グラスの縁をなぞった。

「いいえ、そんなことは…」
僕は、否定しようとしたが、言葉が出てこなかった。確かに、彼女は、僕らとは少し違う世界にいるのかもしれない。しかし、その「違い」が、僕の心を強く惹きつけるのだ。

「でも、あなたのような人が、私を見ていてくれるのは、嬉しいです」
彼女は、そう言って、僕の目をまっすぐに見つめた。その視線は、僕の隠していた憧れを、すべて見透かしているかのようだった。

そして、彼女は、ゆっくりと立ち上がった。バーの薄暗い照明が、彼女の長い手足に、艶やかな光を落とす。彼女が、僕の隣を通り過ぎる時、微かに香る、甘くも苦いような香水の匂いに、僕は息を呑んだ。

「また、会いましょう」
彼女は、そう言って、バーのドアを開けた。外の夜風が、彼女の長い髪をなびかせ、その姿は、まるで夜に溶け込むかのようだった。

彼女が去った後も、僕の心は、まだ興奮でざわめいていた。あの夜、彼女の言葉、彼女の視線、そして、彼女の存在そのものが、僕の「あの頃」の記憶を、鮮やかに呼び覚ましていた。

僕らが「あの頃」、憧れた女性たちは、皆、大きく見えた。それは、単なる身長という数字だけでは語れない、僕らの心の中に描かれた、理想の姿だったのだ。そして、今、僕は、あの頃の僕らが追い求めた、あの特別な輝きを、その手で掴みかけている。

彼女たちの、スラリと伸びた手足が、淫らにクネる姿。それは、単なる肉体的な魅力だけではない。それは、僕らの秘められた憧れ、そして、現実世界では決して満たされない、あの頃の僕らの、切ない夢の、化身なのだ。

僕は、写真集をそっと閉じた。そして、窓の外に広がる、暗い夜空を見上げた。星は、あの頃と同じように、静かに輝いている。僕の心の中では、まだ、あの秘密の宴が、静かに続いている。そして、僕は知っている。この宴は、僕が、あの頃の僕らに、そして今の僕自身に、嘘をつかない限り、永遠に続くのだと。

彼女たち、身長170cm以上の女性たち。彼女たちの存在は、僕にとって、単なる憧れを超えた、ある種の真実だった。それは、僕らの心の奥底に眠る、歪んだ、しかし純粋な欲望の、形ある証だったのかもしれない。

そして、僕は、その欲望に、もう一度、身を委ねようとしている。彼女たちの、しなやかな肢体、そして、彼女たちが放つ、あの特別な輝きに。それは、僕が、あの頃に見た、あの夢の、続きなのだから。