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陽射しが、西向きの窓から差し込んで、埃っぽい空気を金色に染めていた。三十歳そこそこの青年、拓也は古びたスクレーパーを手に、壁の剥がれた壁紙を剥がしていた。空き家になって久しいこの部屋は、彼が最近引き受けた修復作業の現場だった。窓枠は腐りかけているし、床板は軋む。それでも、拓也は黙々と作業を進めていた。彼の心は、今、この部屋の修復という具体的な作業に集中していた。しかし、そんな集中力も、次第に薄れ始めていた。

春の陽気は、彼を不思議な倦怠感で満たしていた。汗ばむ額をタオルで拭きながら、彼はふと、自分の身体に意識が向かうのを感じた。作業着の下で、身体は熱を帯びている。それは単なる日射病の兆候ではない、もっと根源的な、身体の奥底から湧き上がるような熱だった。

彼は作業を中断した。スクレーパーを床に置き、窓際に腰掛けた。静寂の中で、自分の鼓動だけが大きく聞こえる。窓から差し込む光は、彼の肌を温め、そして同時に、彼の内なる衝動を刺激していた。

無意識のうちに、彼はシャツのボタンを外し始めた。一枚、また一枚。汗ばんだ肌に、夏の光が直接降り注ぐ。作業着の下に隠れていた、鍛えられた筋肉が、光の中でくっきりと浮き上がった。彼の身体は、日差しの中で輝いているようだった。

彼はそのまま、ズボンも脱いだ。下着の上からでも、自分の身体の鼓動が感じられる。彼は、ゆっくりと深呼吸をした。外の世界の音は、まるで遮断されたように、彼の耳には届かなくなっていた。今、彼の世界には、彼の身体と、差し込む光だけがあった。

彼は自分の身体を愛撫し始めた。最初は、戸惑いもあった。この空き家で、一人で、こんなことをしているという現実が、少しばかり恥ずかしかった。しかし、彼の身体は、その恥ずかしさを凌駕するほどの強い欲求に突き動かされていた。

彼の指先は、彼の身体の起伏を丁寧に辿る。筋肉の盛り上がり、皮膚の質感、そして、脈打つ鼓動。彼は自分の身体を、まるで初めて見るかのように見つめていた。その感触、その温度、全てが新鮮で、そして、心地よかった。

彼は、自分の身体の美しさに気づいた。日焼けした肌、力強い筋肉、そして、精悍な顔立ち。普段は、そんなことに意識を向けることなどなかった。作業に追われ、生活に追われ、自分の身体の存在を、彼は意識せずに過ごしてきた。しかし、この静寂の空間で、彼は自分の身体と向き合い、その美しさ、そして力強さを再認識した。

自慰行為は、単なる性的な欲求の充足ではなく、自分自身への愛撫、自己肯定の行為だった。彼は自分の身体を、慈しむように、優しく、そして力強く愛撫した。汗が流れ落ち、身体は熱を帯び、呼吸は荒くなっていく。快感が、身体の奥深くから湧き上がってきた。

それは、激しいものではなかった。穏やかで、静かで、そして、深い満足感に満ちた快感だった。まるで、長年閉ざされていた心の扉が開かれたような、解放感があった。

快感が収まると、彼は空っぽになったような、心地よい疲労感に包まれた。彼はそのまま、床に倒れ込んだ。汗ばんだ身体は、夕暮れの光を浴びて、金色に輝いていた。

しばらくして、彼はゆっくりと起き上がった。彼の顔には、穏やかな笑みが浮かんでいた。彼は、この空き家で、自分自身と向き合い、自分の身体の美しさ、そして、自分の存在を、深く認識したのだった。作業は中断したままだったが、彼の心は、満たされていた。修復作業は明日、続きをすればいい。今は、この静寂と、自分自身の存在感に浸りたいと思った。彼の視線は、夕焼け空に染まる窓の外へと向かった。そして、彼は、明日への静かな決意を胸に秘めていた。