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## 青空とプリケツと、僕の日常

「あー、マジだりー」

朝のチャイムが鳴り響く直前、僕はいつものように教室の隅の席に滑り込んだ。ため息混じりの独り言は、もはやルーティンだ。県立陽光高校二年、名前は佐藤健太。ごく普通の、いや、むしろ地味な高校生だ。

少なくとも、数週間前まではそうだった。

「健太、おはよう！」

僕の日常を劇的に変えた張本人、いや、三人組の一人、朝比奈 渚が満面の笑みで駆け寄ってきた。短いスカートに日焼けした肌、明るい茶髪。典型的なギャル、といえばそうだろう。

「お、おはよう、渚」

彼女の眩しさに目を細めながら、僕は挨拶を返す。渚は僕の隣の席に腰を下ろし、僕の肩を軽く叩いた。

「今日、体育あるじゃん！楽しみだね！」

渚の笑顔は太陽みたいに明るい。その笑顔が、僕の心臓をドキドキさせる。

「まあ、そうだね…」

僕は曖昧な返事をする。体育が楽しみなのは、渚と一緒に運動できるから、というわけではない。正直に言うと、体育の時間が近づくにつれて、僕は緊張と興奮で胃がキリキリと痛むのだ。

なぜなら、陽光高校の体育の授業は、他の学校とは少し…いや、かなり違っていたからだ。

「健太、ちょっといい？」

今度は、後ろの席から声が聞こえた。振り向くと、そこには篠原 葵が立っていた。黒髪ロングヘアに眼鏡をかけた、クールビューティー系の彼女は、普段はあまり感情を表に出さない。

「どうしたの、葵？」

「あのね…今度、文化祭で劇をすることになったんだけど、健太に手伝ってほしいの」

葵は少し恥ずかしそうに、でも真剣な眼差しで僕を見つめる。

「劇？僕が？」

まさかの展開に、僕は戸惑いを隠せない。僕は演劇なんてやったこともないし、人前に出るのは苦手だ。

「うん、健太にしか頼めないんだ。脚本がまだ全然進んでなくて…」

葵はそう言って、僕の腕を掴んだ。その指先が、妙に熱い。

「…わかった。できることなら、協力するよ」

葵の真剣な眼差しに、僕は断ることができなかった。

その時、教室の入り口に人影が現れた。

「健太君、ちょっといいかしら？」

声の主は、生徒会長の桜井 凛。才色兼備、品行方正。誰もが憧れる、学園のアイドルだ。彼女が僕に話しかけるなんて、今まで一度もなかった。

「は、はい！」

凛は、僕の返事を聞くと、優雅な足取りで僕の席まで歩いてきた。そして、僕の耳元に顔を近づけ、囁くように言った。

「放課後、生徒会室に来てくれるかしら？少し、相談したいことがあるの」

凛の吐息が、僕の耳をくすぐる。僕は、心臓が爆発しそうになるのを感じた。

「…わかりました」

僕は、かろうじてそう答えるのが精一杯だった。

渚、葵、凛。三人の美女に囲まれて、僕は今、人生最大のモテ期を迎えている…はず、だった。

問題は、彼女たちが僕に求めているものが、普通の恋愛とはかけ離れたものだったということだ。

数週間前、僕はひょんなことから、彼女たちの秘密を知ってしまった。それは、陽光高校の体育祭で行われる、伝統的な競技に関わるものだった。

その競技とは…「プリケツ騎馬戦」だ。

言葉通り、女子生徒たちが騎馬を作り、お互いのプリケツを叩き合うという、なんとも奇妙な競技だ。もちろん、ただ叩き合うだけではない。騎馬が崩れたり、尻が赤くなったり、規定の場所から押し出されたりすると、ポイントが加算されるというルールがある。

そして、僕の役割は、その競技の審判だったのだ。

最初は、戸惑った。しかし、彼女たちは、真剣だった。そして、僕に、彼女たちの騎馬戦の練習に付き合ってほしいと頼んできたのだ。

「健太、もっとお尻を意識して！軸がブレてるよ！」

体育館に響き渡る渚の声。僕は、彼女たちの騎馬の土台となり、必死にバランスを取っていた。

「健太、もっと強く支えて！じゃないと、すぐに崩れちゃう！」

葵の声は、真剣そのものだ。彼女は僕の背中にしがみつき、指示を飛ばす。

「健太君、もう少しだけ…お願いね」

凛の声は、普段よりも少しだけ甘い。彼女は、僕の肩に手を添え、そっと微笑む。

三人の美女に囲まれ、彼女たちのプリケツを間近で眺め、支え、そして、時には叩かれる。

そんな日々が、僕の日常になってしまったのだ。

そして、冒頭の体育の時間が近づくにつれて、僕の胃がキリキリと痛むのは、彼女たちが、体育の授業で、本番さながらの騎馬戦の練習を始めるからだ。

「健太、準備はいい？」

渚が、ニヤリと笑って言った。

「…できる限り」

僕は、覚悟を決めて、体育館へと向かった。

体育館に入ると、そこはすでに熱気に包まれていた。女子生徒たちが、それぞれ騎馬を組み、ウォーミングアップをしている。

そして、僕を見つけた渚、葵、凛の三人は、それぞれ笑顔で僕に近づいてきた。

「健太、今日は絶対勝つよ！」

渚は、僕の腕を掴み、力強く宣言した。

「健太、今日は最高のパフォーマンスを見せるわ」

葵は、自信に満ちた表情で、僕を見つめた。

「健太君、今日は…楽しんでね」

凛は、少し恥ずかしそうに、でも優しく微笑んだ。

そして、体育教師の合図と共に、プリケツ騎馬戦が始まった。

体育館には、女子生徒たちの歓声と、プリケツがぶつかり合う音が響き渡る。

僕は、審判として、その様子を見守りながら、内心では複雑な感情を抱いていた。

これは、本当に僕の望む日常なのか？

彼女たちの期待に応えたい気持ちと、この異常な状況から抜け出したい気持ちが、僕の中でせめぎ合っていた。

しかし、そんな葛藤も、彼女たちの笑顔を見ると、どこかへ消えてしまうのだ。

渚の太陽のような笑顔。葵のクールな笑顔。凛の優雅な笑顔。

彼女たちの笑顔は、僕の心を照らし、僕に勇気を与えてくれる。

だから、僕は、今日も、彼女たちのプリケツ騎馬戦の審判を務める。

そして、彼女たちの笑顔を守るために、できる限りのことをする。

それが、今の僕にできる、唯一のことなのだから。

放課後、僕は約束通り、生徒会室へと向かった。

ドアを開けると、そこには凛が一人、机に向かって座っていた。

「健太君、よく来てくれたわ」

凛は、僕に気づくと、微笑みながら立ち上がった。

「あの、今日は一体…」

僕がそう尋ねると、凛は、少し間を置いてから、ゆっくりと口を開いた。

「実はね…文化祭の劇のことで、健太君に、ある役を演じてほしいの」

「役？どんな役ですか？」

僕がそう聞き返すと、凛は、顔を赤らめながら、言った。

「その…主人公の…王子様役、よ」

僕は、自分の耳を疑った。

「王子様役…ですか？」

「ええ、そうよ。健太君なら、きっと素敵な王子様を演じてくれると思うわ」

凛は、僕の目をまっすぐ見つめながら、そう言った。

僕は、言葉を失った。

地味な高校生の僕が、学園のアイドルの相手役を演じるなんて、考えられない。

しかし、凛の真剣な眼差しを見ると、僕は、断ることができなかった。

「…わかりました。精一杯、頑張ります」

僕がそう答えると、凛は、満面の笑みを浮かべた。

「ありがとう、健太君。あなたなら、きっとできるわ」

凛の笑顔を見て、僕は、決意を新たにした。

プリケツ騎馬戦の審判として、そして、文化祭の劇の王子様役として。

僕は、彼女たちの期待に応えるために、精一杯頑張ろう。

それが、僕の、新しい日常なのだから。

青空の下、僕は、彼女たちと、共に笑い、共に悩み、共に成長していく。

そんな、少しだけ変わった、僕の高校生活は、まだ始まったばかりだ。