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## 蜜月の背徳旅行

鈍色の空が、揺れる電車の窓に映る瞳の顔をさらに陰鬱に染めていた。33歳。清楚という言葉が似合うと自負していた彼女は、今、人生で最も罪深い旅に出ようとしていた。

結婚して三年。自営業の夫、健太との生活は、穏やかで幸せなものだった。少なくとも、そう信じていた。しかし、現実は容赦なく二人に襲い掛かる。健太の事業は不況の波に飲み込まれ、日に日に資金繰りは悪化。瞳もパートに出て家計を支えていたが、焼け石に水だった。

そんな時、ネットで見つけた高額アルバイトの広告。それは「中出し人妻不倫旅行」という、目を疑うような内容だった。最初は一笑に付したが、追い詰められた状況が、彼女の心を蝕んでいく。健太に相談しても、どうにもならない。むしろ、彼は苦しむ妻を見るのが辛いだろう。

「これは、裏切り行為だ…」

良心の呵責は、想像以上に重く、彼女の胸に鉛のようにのしかかった。しかし、同時に湧き上がるのは、言いようのない好奇心。この一年間、健太との夜の営みはほとんどなかった。仕事に追われ、疲れ切った夫を前に、性的な感情を抱く余裕などなかったのだ。しかし、広告を目にした瞬間、心の奥底に封じ込めていたものが、目を覚ましたのを感じた。

数日後、瞳は指定された駅に立っていた。待ち合わせの男は、想像していたよりもずっと紳士的で、丁寧な言葉遣いに、僅かに安堵する。彼は自己紹介もそこそこに、今回の旅の詳細を説明し始めた。

「ご安心ください。瞳さんのプライバシーは厳守します。あくまで、演技をしていただくだけです」

演技、という言葉に、瞳はさらに罪悪感を覚えた。これは、単なる仕事ではない。夫を裏切る行為なのだと、改めて自覚させられる。しかし、男の言葉は止まらない。報酬の金額、宿泊先のホテル、そして、求められる演技の内容……。

高級リゾートホテルの一室。窓から見えるオーシャンビューは、信じられないほど美しい。しかし、瞳の心は晴れない。バスルームで体を洗いながら、何度も後悔の念に駆られた。

「私は、一体何をしているんだろう…」

覚悟を決めたはずだったが、現実に直面すると、恐怖と不安が押し寄せる。タオルで体を拭き、用意されたランジェリーに身を包む。鏡に映る自分は、まるで別人のように見えた。

撮影は、ぎこちない笑顔から始まった。カメラの前に立つのは初めてで、何をすればいいのか戸惑うばかり。しかし、相手役の男は、プロだった。彼は優しくリードし、次第に瞳の緊張を解きほぐしていく。

「もっとリラックスしてください。あなたは、美しくて魅力的な女性ですよ」

男の言葉に、瞳はドキッとした。夫以外の男性から、そんな言葉をかけられたのは、いつぶりだろうか。羞恥心と同時に、心の奥底で何かが弾ける音がした。

撮影が進むにつれて、瞳は次第に役に入り込んでいった。貞淑な人妻を演じながらも、心の奥底に秘めていた淫らな衝動が、抑えきれなくなっていく。男の甘い囁き、熱い視線、そして、肌に触れる感触……。それらは、瞳の理性を溶かし、快楽へと導いていく。

夜、ベッドの中で、男は瞳に優しく語りかけた。

「辛かったでしょう？ ずっと我慢してきたんですね」

瞳は、堰を切ったように涙を流した。それは、罪悪感や後悔の涙ではなく、解放された喜びの涙だった。男は、そんな瞳を優しく抱きしめ、ゆっくりと唇を重ねた。

翌朝、朝日が部屋を明るく照らしていた。瞳は、隣で眠る男の顔を見つめながら、複雑な感情を抱いていた。これは、間違いだったのだろうか？ それとも、彼女にとって必要な経験だったのだろうか？

ホテルをチェックアウトし、帰路につく瞳。電車の中で、彼女は自分の人生について深く考えた。夫との関係、将来のこと、そして、自分自身の欲望……。

数日後、瞳は健太に、今回の旅行について打ち明けた。最初は激怒していた健太だったが、瞳の涙ながらの告白を聞いているうちに、次第に落ち着きを取り戻していった。

「俺が悪かったんだ…。ずっと、お前を苦しめていたんだな…」

健太は、瞳を強く抱きしめた。そして、二人は改めて、お互いを愛し、支え合っていくことを誓った。

この不倫旅行は、瞳にとって大きな転機となった。それは、決して許される行為ではないかもしれない。しかし、彼女は、この経験を通して、自分自身と向き合い、本当に大切なものを見つけることができたのだ。

数ヶ月後、健太の事業は少しずつ好転し始めた。瞳もパートを続けながら、健太を支えていく。夜、二人は久しぶりに寄り添い、温かいキスを交わした。瞳の心には、過去の罪悪感ではなく、未来への希望が満ち溢れていた。

あの蜜月の背徳旅行は、彼女の人生に暗い影を落としたかもしれない。しかし、同時に、新たな光をもたらしたのも事実だ。彼女は、罪を背負いながらも、前を向いて生きていくことを決意した。そして、いつか、この過去を乗り越え、真の意味で幸せになれると信じて……。