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## 星影の迷い子たち

星が瞬く夜空の下、小さな温泉街は静寂に包まれていた。しかし、その静けさの裏側には、様々な事情を抱えた人々が、それぞれの孤独と欲望を抱えながら息を潜めていた。

古びた温泉旅館「星影荘」を一人で切り盛りする健太は、旅館の灯りを消し、カウンターに突っ伏した。連休明けで客足はまばら、経営は逼迫していた。ふと、テレビのリモコンに手が伸びる。深夜番組の広告が目に飛び込んできた。『夜○い』という文字が大きく強調されている。健太はすぐにチャンネルを変えた。

（こんなものを見てどうなるんだ…）

疲れ切った心に、むなしさが広がった。亡くなった両親から受け継いだこの旅館を守りたい。ただ、それだけなのに。

その日の夜、星影荘には珍しく賑やかな客がいた。喪服姿の男女グループだ。通夜を終え、遠方から来た親戚一同だという。その中に、一人だけ浮かない顔をした若い女性がいた。名前は美咲。亡くなった祖父の遠縁にあたるという。

夕食後、美咲は一人、露天風呂に向かった。湯船に浸かり、静かに目を閉じる。都会の喧騒から離れ、星空の下で温まる湯は、心身を癒してくれるようだった。

「…こんばんは」

不意に声をかけられ、美咲は驚いて目を開けた。そこに立っていたのは、喪服姿の若い男だった。

「…どちら様ですか？」

「すみません、驚かせてしまって。僕は、あなたの…義弟、になります。亡くなったおじい様の、一番下の弟の息子です」

男は気まずそうに頭を下げた。名前は翔太。美咲より少し年下だろうか。

「…ああ、そうなんですね。知りませんでした」

ぎこちない会話が続く。沈黙を破ったのは、翔太だった。

「…もしよかったら、少しだけ、お話しませんか？　なんだか、あなたも辛そうだったので」

美咲は少し迷ったが、翔太の優しい眼差しに惹かれ、頷いた。

二人は湯船から上がり、涼みながら、互いの身の上話をした。美咲は、東京でデザイナーをしていること、仕事が忙しく、人間関係も上手くいっていないこと、そして、今回の通夜で、初めて親戚というものを意識したことを話した。

翔太は、実家が農家で、家業を継ぐために都会を離れたこと、都会に憧れながらも、家族のために生きることを決めたこと、そして、今回の通夜で、改めて家族の絆の大切さを感じたことを話した。

話しているうちに、二人の距離は少しずつ縮まっていった。互いの孤独を埋め合うように、言葉を交わし、共感し合った。

その夜、美咲は自分の部屋に戻っても、なかなか眠りにつけなかった。翔太の優しい笑顔が、脳裏に焼き付いていた。

（…ただの気の迷いよね）

そう言い聞かせながら、美咲は目を閉じた。

一方、健太は、旅館の厨房で一人、酒を飲んでいた。連休明けの静けさが、彼の孤独を際立たせる。

（…一体、何のために頑張っているんだろう）

そう自問自答しながら、健太はグラスを傾けた。

その時、旅館の玄関のチャイムが鳴った。こんな時間に誰だろうと思いながら、健太は玄関に向かった。

そこに立っていたのは、派手な化粧をした若い女性だった。

「…すみません、今日、泊まれますか？」

女性は、けばけばしい笑顔で健太に尋ねた。

「…あいにく、今日は満室です」

健太は、面倒くさそうに答えた。

「…嘘でしょ？　だって、全然、人がいないじゃない」

女性は、不機嫌そうに言い返した。

健太は、ため息をついた。

「…本当に満室なんです。それに、うちは、そういうお客さんはお断りしています」

「…そういうお客さんって、どういう意味よ？」

女性は、挑発するように言った。

健太は、何も言わずに、ドアを閉めようとした。

その時、女性は、健太の腕を掴んだ。

「…お願いだから、泊めてよ。お金はいくらでも払うから」

女性の目に、涙が浮かんでいた。

健太は、少し迷ったが、女性の悲しげな表情を見て、心が揺らいだ。

「…わかりました。特別ですよ」

健太は、女性を旅館の中に招き入れた。

女性の名前は、亜美。東京でキャバクラ嬢をしているという。仕事で嫌なことがあり、衝動的に旅に出たのだという。

亜美は、自分の過去や、今の仕事に対する葛藤を、健太に打ち明けた。健太は、黙って亜美の話を聞き、時折、相槌を打った。

話しているうちに、二人の距離は少しずつ縮まっていった。亜美は、健太の優しさに触れ、心が安らいだ。

その夜、亜美は、健太に抱きしめられながら眠りについた。

（…こんな温かい腕に抱かれたのは、初めてかもしれない）

亜美は、そう思いながら、静かに目を閉じた。

翌朝、美咲は、翔太と一緒に旅館を散歩した。二人は、手をつなぎ、肩を寄せ合いながら、温泉街の風景を楽しんだ。

「…また、会いましょうね」

別れ際、翔太は、美咲にそう言った。

「…ええ、きっと」

美咲は、笑顔で答えた。

一方、健太は、亜美を見送り、旅館の掃除を始めた。

（…昨夜のことは、夢だったみたいだ）

健太は、そう思いながら、タオルを手に取った。

その時、旅館の電話が鳴った。

電話に出ると、それは、常連客からの予約だった。

「…ああ、ありがとうございます。お待ちしております」

健太は、電話を切ると、少しだけ、笑顔になった。

星影荘に、新しい光が差し込んだ。それは、ほんのわずかな光だが、確かに、そこにあった。

夜空には、今日も星が瞬いている。それぞれの場所で、それぞれの夜を過ごす人々。彼らの運命は、これからも交錯し、絡み合い、そして、新たな物語を紡いでいくのだろう。