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**運河沿いの誘惑**

勝どきと月島を結ぶ橋の上、涼やかな夜風が頬を撫でる。23歳の夏樹は、手持ち無沙汰にスマホを弄びながら、行き交う人々をぼんやりと眺めていた。

「本当にやるのか、これ…」

隣に立つ友人の亮太が、ニヤニヤしながら夏樹の背中を叩く。

「男だろ？　やると言ったらやるんだよ。それに、お前、最近ずっと元気なかったじゃん。こういう刺激も必要だって」

夏樹は苦笑いを浮かべた。亮太に誘われたのは、熟女限定のナンパ企画。正直、乗り気ではなかった。女性経験が少ない自分にできるのかという不安もあったし、何より、相手の女性に失礼な気がした。

「でもさ…」

「でももクソもない。ほら、あそこの人、良くない？　ちょっと声かけてこいよ」

亮太が顎で示したのは、運河沿いのベンチに座る、落ち着いた雰囲気の女性だった。上品なワンピースを身につけ、物憂げな表情で水面を見つめている。歳は40代後半だろうか。

夏樹は深呼吸をして、意を決して歩き出した。心臓が早鐘のように打ち、手のひらにじっとりと汗が滲む。

「あの…すみません」

女性はゆっくりと顔を上げた。その瞳は、どこか寂しげだった。

「はい？」

「夜風が気持ちいいですね」

夏樹はぎこちない笑顔を浮かべた。これが精一杯のナンパの言葉だった。

女性は少し驚いたように目を丸くしたが、すぐに微笑みを返してくれた。

「ええ、そうですね。少し涼みたくて」

その声は、しっとりと落ち着いていて、夏樹は少し緊張がほぐれた。

「もしよかったら、少しお話しませんか？　僕、夏樹といいます」

女性は少し考えた後、

「私は、美咲。そうね、少しだけなら」

美咲と名乗った女性は、優雅な仕草で煙草に火をつけた。

「若い方が、私のような年増に声をかけるなんて、珍しいわね」

美咲は煙をゆっくりと吐き出しながら、そう言った。

夏樹は正直に答えた。

「実は、友達に勧められて…でも、美咲さんと話してみたいと思ったのは本当です」

美咲はクスッと笑った。

「正直でよろしいわ。で、何が聞きたいの？」

夏樹は、自分のことを少しずつ話し始めた。大学を卒業して間もないこと、就職した会社のこと、そして、最近少し疲れていること。美咲は、優しく相槌を打ちながら、静かに耳を傾けてくれた。

話しているうちに、夏樹は心が軽くなっていくのを感じた。美咲の落ち着いた雰囲気と、包容力のある言葉に、癒されていた。

美咲もまた、自分のことを少しずつ語り始めた。結婚して20年になること、子供たちが独立して家を出たこと、そして、最近少し夫婦関係がマンネリ化していること。

「別に、不満があるわけじゃないの。ただ、何かが足りない気がして…」

美咲は、遠くを見つめながら、そう呟いた。

夏樹は、美咲の言葉に共感した。自分もまた、何かを求めて、この場所に立っているのかもしれない。

二人は、しばらくの間、沈黙した。運河を流れる水の音だけが、静かに響いていた。

ふと、美咲が口を開いた。

「ねえ、夏樹さん。少し、お酒でも飲みに行かない？」

夏樹は、驚きと戸惑いを隠せなかった。

「え…いいんですか？」

美咲は、いたずらっぽく微笑んだ。

「いいのよ。たまには、こういう刺激も必要だわ」

二人は、近くのバーへと向かった。

バーは、落ち着いた雰囲気で、ジャズが静かに流れていた。二人は、カウンターに並んで座り、それぞれ好きなカクテルを注文した。

グラスを傾けながら、二人はさらに深く語り合った。美咲は、自分の仕事のこと、趣味のこと、そして、過去の恋愛について、赤裸々に語ってくれた。夏樹もまた、自分の夢や希望、そして、未来への不安について、率直に語った。

話しているうちに、二人の距離は、少しずつ縮まっていった。美咲の瞳は、最初は寂しげだったが、次第に輝きを増していった。夏樹もまた、美咲の美しさに、惹かれていった。

バーを出た後、二人は、再び運河沿いを歩いた。夜風が、少し強く吹いていた。

美咲は、夏樹の手をそっと握った。

「今日は、ありがとう。とても楽しかったわ」

夏樹は、ドキドキしながら、美咲の手を握り返した。

「僕も、とても楽しかったです」

二人は、しばらくの間、手をつないで歩いた。そして、ホテルの前で、立ち止まった。

美咲は、夏樹の目を見つめて言った。

「今夜は、帰りたくない…」

夏樹は、美咲の言葉に、息を呑んだ。

「本当に…いいんですか？」

美咲は、何も言わずに、夏樹の腕に抱きついた。

二人は、ホテルへと入っていった。

（この先は描写しません）

翌朝、夏樹は、ベッドの中で目を覚ました。隣には、美咲が眠っていた。

夏樹は、昨夜のことを思い出し、複雑な気持ちになった。美咲を傷つけてしまったのではないか、後悔しているのではないか。

しかし、美咲が目を覚ますと、そんな不安は吹き飛んだ。美咲は、晴れやかな笑顔で、夏樹を見つめた。

「おはよう。昨夜は、ありがとう」

夏樹は、美咲の笑顔に、救われた。

「こちらこそ、ありがとう」

二人は、朝食を一緒に食べ、ホテルを後にした。

別れ際、美咲は、夏樹に言った。

「また、会えるかしら？」

夏樹は、迷わずに答えた。

「もちろん。ぜひ、また会いましょう」

二人は、連絡先を交換し、それぞれの道へと歩き出した。

夏樹は、今回の出来事をきっかけに、少し大人になった気がした。女性との向き合い方、そして、自分の気持ちと向き合うことの大切さを学んだ。

亮太に言われた「刺激」とは違う、もっと深い何かを、美咲からもらった気がした。

運河沿いの風景は、いつもと変わらない。しかし、夏樹の目に映る景色は、少し違って見えた。