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## 渋谷交差点の憂鬱

渋谷駅ハチ公前。午後の喧騒がアスファルトを震わせている。僕は、人混みを縫うように歩きながら、スマートフォンを握りしめていた。画面に映るのは、件の“オススメ”記事。脳裏にこびり付いたのは、「清楚な人妻」「初不倫」「中出し」といった、刺激的な言葉の羅列だった。

僕は、ただの平凡なサラリーマンだ。毎日同じ時間に起きて、満員電車に揺られ、会社のデスクに向かう。そんな単調な日々の中で、僕はいつも何かを探していた。刺激、変化、そして、承認欲求。

ナンパなんて柄じゃない。今まで一度も成功したことなんてない。でも、あの記事の言葉が、僕の心の奥底に眠る衝動を呼び覚ましたのだ。

恵比寿、渋谷、原宿。記事に書かれたエリアを、僕は当てもなく彷徨った。まるで宝探しのようだ。でも、見つかるのは、ショッピングバッグを抱えた若い女性たちや、スマホを片手に歩く外国人観光客ばかり。

夕暮れが迫り、焦燥感が募る。僕は、渋谷駅前のカフェに腰を下ろした。窓際の席から、行き交う人々を眺めながら、ため息をついた。

「本当に、こんなことして何になるんだ…」

自問自答を繰り返していると、突然、視界に飛び込んできた女性がいた。白いワンピースを着た、清楚な雰囲気の女性。どこか憂いを帯びた表情で、駅の改札口を見つめている。

（…まさか、記事に書いてあったような人妻、なのか？）

心臓が早鐘のように打ち始めた。僕は、覚悟を決めて、立ち上がった。

「あの…すみません」

声をかけると、女性は驚いたように振り返った。大きな瞳が、不安げに揺れている。

「…何か、ご用ですか？」

その声は、想像以上に優しかった。僕は、言葉に詰まりながら、なんとか言った。

「あの…道に迷ってしまって。少し、お話を聞いてもらえませんか？」

嘘だった。でも、必死だった。女性は、少し戸惑った様子だったが、小さく頷いた。

「…わかりました。少しだけなら」

カフェのテラス席に座り、僕は、緊張しながら自己紹介をした。女性は、名前を「ユキ」と名乗った。そして、彼女は、本当に人妻だった。

ユキは、結婚して３年。夫とは、お互いに仕事が忙しく、すれ違いの日々を送っているという。子供はいない。

僕は、ユキの話に耳を傾けながら、彼女の表情を観察した。憂いを帯びた表情、時折見せる寂しげな笑顔。記事に書かれていた「切ない表情」という言葉が、脳裏をよぎった。

僕は、ユキに、自分の仕事や趣味の話をした。彼女の好きな音楽や映画の話も聞いた。会話が進むにつれて、ユキの表情は、少しずつ明るくなっていった。

１時間ほど話した後、僕は、思い切ってユキを食事に誘ってみた。

「もしよかったら、今度、一緒にご飯でもどうですか？美味しいお店、知ってるんですよ」

ユキは、少し迷った様子だったが、小さく頷いた。

「…いいですよ。でも、友達として、ですよ？」

僕は、心の中でガッツポーズをした。友達として、でも、いい。僕は、ユキとの距離を、少しずつ縮めていこうと決意した。

それから、僕とユキは、何度か食事に行った。映画を見に行ったり、公園を散歩したりもした。ユキは、いつも、どこか遠慮がちだったが、少しずつ心を開いてくれるようになった。

ある日、ユキとバーに行った。少し酔いが回ったユキは、ぽつりぽつりと、夫への不満を口にするようになった。

「…夫は、私のこと、全然気にかけてくれないんです。仕事ばかりで、いつも疲れてるから、話しかけるのもためらっちゃう…」

ユキの瞳から、涙がこぼれ落ちた。僕は、そっとユキの手を握った。

「…辛かったら、いつでも話して下さい。僕は、ユキさんの味方ですから」

ユキは、僕の手を握り返し、小さく頷いた。

その夜、ユキは、僕のマンションに泊まることになった。何もなかった。ただ、僕は、ユキを優しく抱きしめ、彼女の涙を拭った。

翌朝、ユキは、少し晴れやかな表情で、僕のマンションを後にした。

それから、僕とユキの関係は、少しずつ変わっていった。ユキは、以前よりも積極的に、僕に連絡をしてくるようになった。そして、僕たち２人は、ついに一線を越えてしまった。

初めは、罪悪感に苛まれた。でも、ユキは、とても幸せそうだった。僕との時間を通して、彼女は、再び輝きを取り戻したようだった。

僕たちは、毎週のように会った。ラブホテルに行ったり、僕のマンションで過ごしたりした。僕は、ユキの全てを受け入れた。彼女の喜び、悲しみ、そして、過去。

ある日、ユキは、僕に、自分の過去を打ち明けた。彼女は、過去に、辛い経験をしていた。それが原因で、彼女は、人を信じることができなくなっていたのだ。

僕は、ユキを抱きしめ、言った。

「…僕は、ユキさんのことを信じています。だから、もう、過去のことは忘れましょう。これから、僕と一緒に、新しい未来を築いていきませんか？」

ユキは、僕の言葉に、涙を流した。そして、力強く頷いた。

それから、僕とユキは、将来について話し合うようになった。２人で暮らすこと、子供を持つこと、そして、夫と離婚すること。

ユキは、夫に離婚を切り出した。最初は、夫は、激しく抵抗したが、最終的には、離婚を承諾した。

そして、僕とユキは、結婚することになった。

結婚式は、ささやかなものだった。でも、僕とユキにとっては、最高の瞬間だった。

今、僕とユキは、幸せな日々を送っている。子供も生まれた。僕は、毎日、ユキと子供の笑顔を見ることができて、本当に幸せだ。

あの時、渋谷交差点で、ユキに出会っていなければ、今の僕は、いなかっただろう。あの“オススメ”記事が、僕の人生を変えたのだ。

もちろん、今でも、あの記事のことを思い出すと、少し複雑な気持ちになる。でも、僕は、後悔していない。なぜなら、あの記事が、僕を、本当の愛へと導いてくれたからだ。

僕は、ユキを、そして、子供を、一生愛し続けるだろう。そして、この幸せを、大切に守り続けていきたい。

渋谷の喧騒は、今も変わらない。でも、僕の心の中は、穏やかな幸せで満たされている。

あの日の憂鬱は、もう、どこにもない。