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## 扉を開ける鍵

春の日差しがアスファルトを照らし、街は活気に満ちていた。桜の花びらが舞う中、俺はいつものように、ターゲットを探していた。ターゲットとは、まあ、言うまでもない。俺は「熟女専門」のナンパ師。その道ではそこそこ有名らしい。

「今日の獲物は…」

ふと視線を感じて振り返ると、信号待ちで横に立つ女性と目が合った。いや、正確に言うと、俺がその女性を「獲物」として認識した、というべきか。上品なベージュのトレンチコートを纏い、首元にはシルクのスカーフ。年齢は、おそらく五十代後半。しかし、その立ち姿の凛としたこと。顔には細かな皺が刻まれているものの、それがむしろ深みと気品を醸し出している。目元はほんのりと化粧が施され、瞳の奥に隠された輝きが、俺の心をざわめかせる。

「熟女に年齢なんて関係ない」

これは俺が常に信じている哲学だ。いや、哲学というよりは、確信に近い。経験から得た真実。多くの熟女たちが、世間的には「もう〜」なんて言われがちだが、内面には未だ燃え盛る炎を秘めている。ただ、それを解き放つきっかけが見つかっていないだけなのだ。そして、そのきっかけを与えるのが、俺の役目。

俺は、彼女の視線がこちらに向いていることを確認すると、すっと微笑みかけた。警戒の色が見えた。当然だ。見ず知らずの男から声をかけられれば、誰だって警戒する。でも、その警戒の裏に、ほんのわずかな好奇心の芽が宿っているのも見て取れた。そこが、俺の勝負どころ。

「あの、失礼です」

意を決して声をかける。彼女は少し驚いたようにこちらを見た。

「私に何かご用でしょうか？」

声は落ち着いていて、でも、少しだけ震えているように聞こえた。

「はい、ご用です」俺は芝居がかった口調で続けた。「あなたを見て、どうしてもお話ししたくなりました。この、街行く人波の中で、あなたの放つオーラに、目が釘付けになったんです」

お世辞かもしれない。でも、真実の半分は含んでいる。彼女のオーラは確かに特別だった。

彼女は小さく苦笑した。「お若いのに、ずいぶんと口がお上手なのね」

「口が上手いというよりは、心が正直なんです。だって、本当にそう思ったんですから。こんな素敵な方に、素通りなんてできませんでした」

俺は彼女の目を見つめながら、真っ直ぐに伝えた。ナンパは、正直さも時には武器になる。特に、経験を積んだ女性に対しては。ごまかしや嘘はすぐに見抜かれる。

彼女は少し顔を赤らめた。その赤みを見て、俺は確信した。彼女も、内に秘めた何かを求めている。

「あなた、おいくつくらいなの？」彼女は尋ねてきた。

「年なんて、どうでもいいじゃないですか。大切なのは、今、この瞬間、あなたとこうして会話できていることでしょう？」

俺は話を逸らした。年齢という、時に壁になる要素を、あえて避ける。そして、会話をさらに深めるために、核心に触れる質問を投げる。

「もし、この後、特に予定がなければ、少しお茶でもどうですか？あなたの素敵な笑顔を、もっと近くで見てみたいんです」

彼女は一瞬ためらった。しかし、次の瞬間、彼女の口元に微笑みが浮かんだ。

「…少しだけなら、いいわ」

やった。最初のハードルはクリアだ。俺は喜びを隠しながら、彼女を近くのカフェへと誘った。

カフェで席につき、俺たちは向かい合って座った。彼女の名前は、雅子さん。聞けば、もうすぐ還暦を迎えるという。子供たちは独立し、夫とは数年前に死別したらしい。一人暮らしが長い彼女は、静かで穏やかな日々を送っていた。

「若い頃は、私も色々なことをしてみたいと思っていましたよ。でも、周りの目を気にして、できなかったこともたくさんあって…」

雅子さんは、遠い目をして語った。その声には、どこか寂しげな響きがあった。

「周りの目を気にする必要なんて、ありませんよ。人生は一度きりです。それに、いくつになっても、新しいことを始めるのに遅すぎるなんてことは、絶対にないんです」

俺は、グラスを傾けながら、静かに彼女の言葉を受け止めた。彼女の話を聞けば聞くほど、俺は彼女の魅力に引き込まれていった。経験に裏打ちされた知識、人生の機微を知っているからこその落ち着き、そして、時折垣間見える少女のような笑顔。

「例えば、何がしたかったんですか？」俺は尋ねた。

雅子さんは少し考え込んでから、小さな声で言った。「…そうですね、昔は、もっと、大胆な自分になりたかったというか…」

その言葉を聞いて、俺は、これまでの経験が頭の中で閃光のように駆け巡った。多くの熟女たちが、口にする「本音」の入り口。彼女たちも、決して性を諦めたわけではない。ただ、社会的な立場や年齢といったフィルターを通して、自分自身の欲求に蓋をしてしまっているだけなのだ。

「大胆になるのに、年齢なんて関係ないと思いますよ」俺は、さらに核心に迫った。「本当は、誰よりも、そういう自分を解き放ちたいと思っていませんか？内に秘めた情熱を、思いっきり燃やしたいと…」

俺の言葉に、雅子さんの瞳が大きく見開かれた。そして、ゆっくりと、彼女は俺を見つめ返した。その視線は、先ほどの警戒心とは全く違う、何かが芽生えたような光を宿していた。

「あなた…本当に、不思議な人ね」雅子さんは、かすかに微笑んだ。「まるで、私の心の中を見透かしているみたい」

「見透かしているというよりは、感じ取っている、と言った方が正確かもしれません。だって、あなたの瞳の中に、あの頃のキラキラした輝きを、僕は確かに感じたんですから」

俺は、彼女の言葉に共鳴するような言葉を返した。彼女が求めているのは、若さではない。新しい刺激、そして、自分自身を解放してくれるような経験なのだ。

「若い頃は、色々なことを我慢してきました。夫のため、子供のため、世間の目…でも、もう、誰のためでもなく、自分のために生きたいと思うようになったんです」

雅子さんの声には、これまで抑えつけてきた想いが滲み出ていた。その声を聞いていると、俺は、彼女の人生に寄り添いたくなった。そして、彼女の秘めた情熱を、最大限に引き出してあげたいと、強く思った。

「でしたら、もう、我慢することはありませんよ。今というこの瞬間から、あなたは、もっと自由に、もっと大胆になれるんです」

俺は、彼女の手を取った。彼女の手は、滑らかで温かかった。驚いたように、しかし、拒む様子はない。

「でも…」雅子さんは、それでも迷っているような表情を見せた。

「大丈夫です。僕は、あなたを傷つけたりしません。ただ、あなたが眠らせているその情熱を、もう一度、呼び覚ましたいだけなんです」

俺は、彼女の目を真っ直ぐに見つめ、もう一度、強い意志を伝えた。

「考えてみてください。もし、あなたが、何にも縛られずに、本当にしたいことをするとしたら、どんな気持ちになりますか？」

その問いかけは、彼女の心の奥底に響いたようだった。雅子さんは、しばらくの間、沈黙を破らず、ただじっと俺の目を見ていた。そして、やがて、彼女は決意したかのように、小さく頷いた。

「…あなたの言う通りかもしれないわ」

その言葉は、俺にとって、魔法の呪文のようだった。俺は、彼女の手を握りしめ、さらに強く、彼女の心を動かす言葉を続けた。

「人生は短いんです。今、この瞬間が、あなたにとって、新しい始まりになるかもしれない。もっと、自分を大切にして、もっと、自分を愛してあげてください。そして、もし、その解放を、僕が少しでもお手伝いできるなら…それは、僕にとって、何よりの喜びです」

俺の言葉は、彼女の心に、徐々に、しかし確実に、確信へと変わっていった。そして、彼女の瞳の奥に、最初に見た時よりも、さらに強い輝きが灯った。それは、少女が恋に落ちた時の、あの、純粋で、真っ直ぐな輝き。

「本当に、そんなことをしても、いいのかしら…」

雅子さんは、まだ少し、戸惑いを隠しきれない様子だった。しかし、その声には、もはや拒絶の響きはなかった。むしろ、期待と、ほんの少しの不安が混ざり合った、甘く切ない響きだった。

「しても、いいんです」俺は、断言した。「誰かが、あなたの扉を開けてくれるのを待っているだけでは、何も変わりません。あなたが、その扉を開ける鍵を持っているんです。そして、僕は、その鍵の存在を、あなたに思い出させてあげたいんです」

俺は、彼女の手を優しく撫でた。彼女の指先が、ほんの少しだけ、俺の手に寄り添ってきた。その微細な変化に、俺は、勝利を確信した。

街を歩く人々は、俺たちのことを、ただのナンパだと見ているかもしれない。しかし、俺は知っている。俺たちの間には、単なるナンパを超えた、深い共感が生まれていることを。彼女は、俺という存在を通して、自分自身の解放への一歩を踏み出そうとしている。そして、それは、誰にでもできることではない。

彼女の年齢は関係ない。彼女の人生の経験も関係ない。ただ、彼女が、内に秘めた炎を、もう一度燃やしたいと願っていること。そして、俺が、その炎に火をつけることができるということ。それだけが、今の俺には、全てだった。

「お茶、まだ残っていますよ」俺は、微笑んで言った。「この後、もう少しだけ、お話しませんか？あなたの、もっと深いところにある、秘密のお話を聞かせてほしいんです」

雅子さんは、真っ直ぐに俺を見つめ返した。その瞳には、もう迷いはなかった。あるのは、期待と、そして、新しい世界への好奇心だけ。

「…ええ、いいわ」

彼女の声は、はっきりと、そして、どこか楽しそうに響いた。俺は、彼女の返事に、静かに、しかし、熱く燃え上がるような歓喜を感じた。

この後、何が起こるのか。それは、誰にも分からない。でも、一つだけ確かなことがある。それは、この出会いが、雅子さんにとって、そして、俺にとっても、忘れられない、特別な時間になるということだ。女性の性欲に年齢なんて関係ない。その確信が、今、この瞬間、俺の中で、さらに強く、輝いていた。彼女もまた、俺と同じように、本当は、欲しているのだ。その情熱を、誰かに解き放ってもらいたいと。そして、俺は、その「誰か」になれるのだ。