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## 禁断の鏡部屋

高層ビルの谷間に隠された、怪しげなネオンサイン。そこは、現実世界の喧騒から切り離された、もう一つの世界への入り口だった。「クリスタル・パレス」。その名の通り、きらびやかな装飾と、どこか妖しい雰囲気を纏うラブホテルだ。ここでは、日常の鎖を解き放ち、欲望のままに夜を過ごす人々が後を絶たない。

支配人の榊原は、この「クリスタル・パレス」の裏側を知る数少ない人間の一人だった。彼は、このホテルの豪華さとは裏腹に、隠された秘密を知っていた。それは、客室のいたるところに仕掛けられた、微細な盗撮カメラだ。そして、そのカメラが捉えるのは、誰もが目を背けたくなるような、生々しい不倫の現実だった。

今日もまた、新たな物語がこの部屋で紡がれようとしていた。

### 第七話：偽りの笑顔の代償

その日、榊原が密かにチェックしていたモニターに映し出されたのは、優雅な雰囲気の女性だった。絹のような黒髪、上品な服装、そして何より、その落ち着いた微笑みは、世の男性たちを虜にするだろう。彼女の名前は、桐島沙織。地元では有名な企業の社長夫人として知られていた。

沙織は、夫である隆史との関係に、どこか虚しさを感じていた。隆史は仕事熱心で、家庭を顧みないわけではなかったが、そこには愛情というよりも義務感のようなものが色濃く漂っていた。沙織は、かつては情熱的な恋を夢見ていた。その夢は、日々の生活の中で徐々に色褪せていった。

そんな沙織の前に現れたのが、若き才能を持つ画家、五十嵐健太だった。健太の情熱的な眼差し、芸術へのひたむきな姿は、色褪せた沙織の心に再び火を灯した。二人は、秘密の逢瀬を重ねるようになった。

クリスタル・パレスの一室。豪華なシャンデリアが、二人の顔を照らし出す。沙織は、いつもは着飾らない柔らかなワンピース姿で、健太の腕に寄り添っていた。

「健太さん、今日の絵も素敵だったわ。あの色の組み合わせ…」

沙織の声には、抑えきれない興奮が宿っていた。健太は、沙織の髪を優しく撫でながら微笑む。

「君の言葉が、僕のインスピレーションになるんだ。沙織さんといると、今まで見えなかった世界が見える気がする。」

二人の間には、甘い言葉と熱い視線が飛び交う。そして、それらはやがて、より深い、禁断の愛情へと昇華していく。沙織は、夫への罪悪感を抱きながらも、健太との逢瀬に心を奪われていった。

しかし、彼女は知らなかった。この部屋のどこかに、彼女の全ての行動を記録する「目」が潜んでいることを。

モニターに映し出される沙織の姿は、普段の彼女とはかけ離れていた。夫の前では決して見せない、甘く蕩けるような表情。健太に身を委ねる、艶やかな姿。それは、彼女自身も忘れていた、抑圧された欲望の解放だった。

榊原は、淡々と映像をチェックしていく。彼の表情に、感情の揺らぎはない。彼にとって、これはただの「記録」であり、彼自身の欲望を満たすための「材料」に過ぎなかった。

沙織と健太の逢瀬は、回を重ねるごとに深まっていった。逢瀬の合間には、沙織が健太にプレゼントする高価な絵の具や筆が映る。そして、沙織の夫から彼女に届く、愛情のないメールの返信画面。そのコントラストが、沙織の心の葛藤をより一層際立たせていた。

ある日、沙織は健太に、自身の秘密のアトリエの鍵を渡した。

「ここなら、誰にも邪魔されずに絵が描けるわ。あなたの絵を、一番近くで見たいの。」

健太は、沙織の真剣な瞳に、純粋な愛情を見出したかのように、深く頷いた。

しかし、その鍵の交換の瞬間も、カメラはしっかりと捉えていた。そして、その鍵が、沙織の全てを晒すための、新たな扉を開けることになろうとは、誰が想像できただろうか。

数日後、沙織の元に、見慣れないメールが届いた。件名には「秘密の断片」とだけ書かれていた。恐る恐るメールを開くと、そこには彼女と健太がクリスタル・パレスで逢瀬を重ねる、一部の映像が添付されていた。

心臓が激しく脈打つ。これは一体誰が？どうやって？

その日の夜、沙織は健太に会うためにクリスタル・パレスに向かった。しかし、健太の姿はどこにもなかった。代わりに、彼女を待っていたのは、このホテルの支配人、榊原だった。

「桐島沙織様ですね。」

榊原の声は、冷たく響いた。

「残念ですが、あなた方の秘密は、もうあなた方だけのものじゃありません。」

榊原は、モニターを指差した。そこには、沙織と健太の、隠し撮りされた映像が映し出されていた。沙織の顔から血の気が引いていく。

「これは…これは一体…！」

「これは、このホテルが提供する、特別なサービスの一部です。もっとも、お客様がそのサービスを受けていると自覚されているかは、私には分かりませんが。」

榊原は、皮肉な笑みを浮かべた。

「あなた方は、ここで欲望のままに、誰にも知られずに快楽を貪ろうとした。しかし、残念ながら、この『クリスタル・パレス』には、全てを映し出す鏡部屋があるのです。そして、その鏡に映ったものは、私によって、別の目的のために利用されます。」

沙織は、絶望に打ちひしがれた。彼女の秘密は、彼女自身の選択によって、皮肉にも、彼女を破滅へと導く証拠となってしまったのだ。

数週間後、ある匿名掲示板に、衝撃的な動画が次々と投稿された。それは、有名企業の社長夫人と、若き画家との禁断の逢瀬を捉えた、生々しい映像だった。映像には、普段は想像もできないような、沙織の奔放な姿が映し出されていた。

映像は瞬く間に拡散され、沙織の人生は音を立てて崩壊していった。夫は彼女を激しく非難し、世間からは好奇と非難の目が向けられた。彼女の築き上げてきた全てが、一瞬にして水泡と化した。

沙織は、健太にも連絡を取ろうとしたが、彼の姿も、まるで蒸発したかのように消えてしまっていた。彼は一体、何のために沙織に近づいたのだろうか。

そして、クリスタル・パレスの支配人、榊原は、今日もまた、新たな「鏡部屋」の準備を進めている。そこに現れるであろう、様々な「人妻」たちの、禁断の物語を、ただ静かに待つために。

このホテルは、欲望の果てに隠された、もう一つの現実を映し出す。そして、その現実を知った時、あなたはもう、元の自分に戻ることはできないだろう。なぜなら、クリスタル・パレスの鏡は、決して真実を曇らせることを知らないのだから。

物語は、まだまだ続く。次なる「鏡部屋」では、誰が、どんな秘密を暴かれることになるのだろうか。