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## 都会の片隅、隠された光

茜色の夕日がビル群の隙間を縫って差し込み、アスファルトに長い影を落としていた。この街に来て半年、未だに風景に馴染みきれない私が、いつものように肩を落として家路を急いでいた。地元では「おとなしい子」「素朴な子」としか評されたことのない私、佐藤優子は、この東京という名の巨大な迷宮の中で、ただの迷子のように感じていた。

大学の講義を終え、バイト先に顔を出し、疲れ果てて帰る。それが私の日常だった。流行りの服を着こなすセンスもなければ、洗練されたメイクの仕方も知らない。友人たちがお洒落なカフェで笑い合っている横で、私はいつも少し離れた席で黙々とレポートを書いていた。コンプレックスの塊だった。生まれ育った田舎町は、私を優しく包んでくれたけれど、東京ではその「素朴さ」が埋もれてしまうのだと思い知らされた。

「ねえ、そこの君！」

背後から響いた声に、私はびくりとして立ち止まった。振り返ると、そこには煌びやかな服に身を包んだ女性が立っていた。肩まで伸びた艶やかな黒髪、洗練されたメイク、そして何よりも、その自信に満ちたオーラ。まるでファッション雑誌から抜け出してきたかのようだ。

「あの、私ですか？」
「そうよ、あなたよ。少しお話聞かせてもらえる？」

戸惑いながらも、私は彼女の指し示す方へ歩み寄った。彼女は「アトリエ・シュガー」という名の美容サロンのオーナーであり、カリスマメイクアップアーティスト、星野沙羅さんだという。噂には聞いていた。街で見かけた、輝きを放つ女性たちを、さらに輝かせる魔法使いのような人だと。

「ふふ、そんなに緊張しないで。あなた、すごく可愛いわよ。隠れているだけ。」
「隠れている…ですか？」
「そう。あなたの持つ魅力を、まだあなた自身が知らないだけ。」

沙羅さんは私の手を取り、その細やかな指先で私の顔を撫でるように触れた。その触れ方は、まるで繊細な花びらに触れるかのようだった。彼女の言葉は、私の心の奥底に沈んでいた希望の灯を、小さくだが揺らした。

数日後、私は沙羅さんのアトリエにいた。そこは、私の日常とはかけ離れた、夢のような空間だった。柔らかな照明、上品なインテリア、そして、甘く心地よい香りが満ちていた。私は、半信半疑の気持ちで、沙羅さんの指示に従った。鏡の前に座り、彼女の作業を見つめる。

彼女の手は、まるで芸術家の筆さばきのように、私の顔に魔法をかけていく。ファンデーション、アイシャドウ、リップ。ひとつひとつの工程が、私の知らない私を呼び覚ましていくようだった。シャドーで目の陰影を深くし、ハイライトで頬骨を際立たせる。これまで漠然としか知らなかったメイクの世界が、目の前で鮮やかに展開されていく。

そして、髪。これまで肩にかかる程度だった私の髪は、軽やかにカットされ、柔らかいウェーブがかかった。服装も、私にはとても似合わないと思っていたような、上品でセクシーなものに変えられた。鏡の中に映っていたのは、これまで見たこともない、自分では到底想像もできないような、別人のような私だった。

「どう？優子ちゃん、素敵よ！」

沙羅さんは満面の笑みで私を見つめていた。私も、鏡の中の自分をまじまじと見つめた。そこには、確かに「私」がいた。でも、それは今まで私が知っていた私とは、全く違う輝きを放っていた。垢抜けない、田舎者の「佐藤優子」は消え、洗練された、都会的な魅力を持つ新しい私が現れていた。

街を歩くと、これまでとは全く違う視線を感じた。誰もが私に振り返り、賞賛の視線を送る。カフェに入れば、店員がいつもより丁寧な接客をしてくれる。友人たちにも「誰かと思った！」と驚かれ、褒められた。その日以来、私は自信を手に入れた。沙羅さんのメイクとスタイリングは、私の外見だけでなく、内面までも変えてくれたのだ。

「やっぱり、あなた本当にかわいいわ。」
沙羅さんは、新しい私をさらに褒め上げた。「こんなに綺麗になったんだから、もっと色々な世界を見てみたくない？もっと輝ける場所があるわよ。」

彼女の言葉は、新しい自分に有頂天になっていた私にとって、抗いがたい魅力を持っていた。彼女のサロンのスタッフとして働くことになった私は、毎日が新しい発見の連続だった。沙羅さんの指導のもと、私もメイクの技術を磨き、お客様の魅力を引き出す喜びを知った。そして、沙羅さんとの距離は、仕事仲間というだけでなく、親密なものになっていった。彼女は私に色々なことを教えてくれた。女性としての魅力、人を惹きつける方法、そして…世界の広さ。

ある夜、いつものように沙羅さんと二人きりで過ごしていた時、彼女は突然、真剣な眼差しで私を見つめた。

「優子ちゃん、あなたね、本当に生まれ持ったものが素晴らしいのよ。」
「え、そんな…私なんて…。」
「いいえ、いいの。あなたのその素朴さの中に秘められた色っぽさ、それがたまらないのよ。」

彼女は私の顔を再び優しく撫でた。その手つきは、以前よりも少しだけ大胆になっていた。

「ねえ、もっと…自分の体の魅力を知ってみない？もっと深く…。」

彼女の言葉は、私の心の奥底に眠っていた、別の感情を呼び覚ました。それは、新しい自分への好奇心と、少しだけ背徳的な、甘く危険な誘惑だった。これまで、私は「隠す」ことでしか自分の魅力を保てなかった。でも、今の私は違う。沙羅さんが私に与えてくれたのは、自分を解放する力だった。

「あなた、モデルさんのお仕事、してみない？」

沙羅さんが提示してきたのは、私が全く想像もしていなかった、驚くべきオファーだった。それは、単なるモデルの仕事ではなかった。彼女がプロデュースする、ある「特別なプロジェクト」への参加だった。そのプロジェクトの内容を詳しく聞かされ、私の心臓は激しく鼓動した。それは、これまでの私なら決して考えられなかった、でも今の私なら…と思わせるような、刺激的なものだった。

「これって…その…『AV』って…。」
「そうよ。でも、ただのAVじゃないわ。あなたのそのピュアな魅力を最大限に引き出した、美しい作品。これまでのあなたとは違う、もう一人のあなたを見せるのよ。」

沙羅さんの言葉は、私を迷わせた。片や、私が必死で手に入れた「新しい自分」への自信。もう片や、これまで全く触れてこなかった、未知の世界への戸惑い。でも、沙羅さんの輝くような瞳と、私の可能性を信じてくれているという熱意に、私は次第に惹かれていった。彼女は、私に「見られること」の快感と、それによって得られる強烈な自己肯定感を教えてくれた。

「大丈夫よ。私があんたの全てを見てるんだから。安心して、新しい自分を解放しなさい。」

沙羅さんの温かい、そして力強い言葉に、私は自分の中の迷いを振り払うことができた。生まれて初めての経験は、想像以上のものだった。カメラのフラッシュ、スタッフの指示、そして…肌に触れる誰かの手。最初はもちろん恥ずかしかった。自分の体が、知らない人に見られるという事実に、顔が真っ赤になった。でも、沙羅さんの声が聞こえてきた。「そうよ、もっと恥ずかしがって。それがあなたの色っぽさよ。」

沙羅さんの言葉通り、恥ずかしさの中に、抗いがたい快感が芽生えてきた。自分の体が、こんなにも誰かを興奮させることができるのかという驚き。そして、その興奮を一身に浴びることの、強烈な充足感。私がこれまで「隠していた」と思っていた私の本性は、実は、解放されることを望んでいたのかもしれない。

撮影が進むにつれて、私の恥じらいは徐々に薄れていった。むしろ、それを楽しむ余裕さえ生まれてきた。沙羅さんの指揮のもと、私は自分の体の隅々まで、自信を持って表現できるようになっていた。鏡に映る、これまで見たこともない官能的な自分。それを、さらに美しく見せようとする沙羅さんの熱意。私の体の内側から湧き上がる熱と、それを煽るような彼女の言葉。それはまさに、美しく、そしてどこか退廃的な、刹那の快感だった。

撮影が終わった後、沙羅さんは私の肩を抱き寄せた。
「優子ちゃん、最高だったわ。本当に、あなたには無限の可能性がある。今日のことは、あなたの人生にとって、新しい扉を開けるきっかけになったはずよ。」

私は、疲労感と共に、得も言われぬ高揚感に包まれていた。私は、自分自身を完全に解放し、新しい自分を発見したのだ。この街で、私はただの迷子から、光を放つ存在へと変わった。その光のあり方が、多くの人が「タブー」と呼ぶものだったとしても、今の私には、それが私自身の「輝き」なのだと信じる力があった。私の新しい物語は、まだ始まったばかりだ。