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## 禁断の施術

ビジネスホテルの一室。そこには、高級感とは無縁の、しかし清潔に保たれた空間があった。窓の外には、雑然とした都会の夜景が広がっている。部屋の中央には、ベッドが置かれ、その横にはマッサージベッドが設えられていた。

「失礼いたします」

ドアが開く音と共に、鈴を転がすような声が響いた。入ってきたのは、小柄で細身の女性。顔立ちは整っているが、どこか影のある、控えめな印象だった。薄手の施術着に身を包んでいるが、それがかえって彼女の繊細な魅力を引き立てているようにも見えた。彼女の名は、水野里奈。出張メンズエステのセラピストだ。

「〇〇様でいらっしゃいますね。本日は、よろしくお願いいたします」

里奈は、丁寧な言葉遣いで挨拶をした。しかし、その声には微かな緊張が滲んでいた。彼女は、この仕事に就いてまだ日が浅い。そして、この仕事には、彼女が想像していた以上の、様々な「思惑」が潜んでいることを、日々痛感していた。

目の前にいるのは、中肉中背の男性。スーツ姿で、疲れたような、しかしどこかギラついた光を宿した瞳で里奈を見つめている。〇〇。彼は、このホテルの出張エステを頻繁に利用している常連客の一人だった。

「ああ、水野さんか。いつもご苦労様」

〇〇は、里奈の身体をじっくりと品定めするように見つめた。その視線に、里奈は無意識に背筋を伸ばした。彼女は、この種の視線には慣れていた。しかし、毎回、胸の奥に冷たいものが走るのを感じる。

「本日は、どのような施術をご希望でしょうか？」

里奈は、プロフェッショナルな態度を崩さずに尋ねた。彼女の心の中では、様々な不安が渦巻いていた。この客は、いつも以上に「何か」を求めてくるのではないか。そんな予感が、彼女を苛んでいた。

「うーん、そうだな。今日は、ちょっと特別なのをお願いしたいんだ」

〇〇は、ニヤリと口元を歪めた。その笑顔に、里奈の心臓は一層速く鼓動した。特別。それは、彼女にとって最も避けたい言葉だった。

「特別、とは、具体的にどのような…」

「まあまあ、そんなに身構えなくてもいいじゃないか。君も、普段から大変だろう？ 少し、リラックスさせてあげようと思ってね」

〇〇は、そう言いながら、里奈に近づいてきた。彼の放つ、アルコールの匂いが、彼女の鼻腔をくすぐる。里奈は、後ずさりする代わりに、ぐっと拳を握りしめた。

「私は、あくまで、専門的な施術を…」

「分かってるよ。でもね、水野さん。君みたいな、真面目で、一生懸命な子って、なんだか放っておけないんだよな」

〇〇は、里奈の肩に手を置いた。その手は、温かく、しかし、里奈には不快な重みとして感じられた。彼女は、夫の健一と、二人の子供と暮らしている。健一は、仕事一筋で、家庭を顧みないわけではないが、どこか無骨で、妻への愛情表現は苦手だった。セックスレスになって久しい。そんな日々の中で、里奈は、日々の生活に追われ、自分自身の女性としての魅力を忘れてしまっていた。

「君も、きっと、色々と溜まっているだろう？ 私が、それを、少しでも、癒してあげたいんだ」

〇〇は、里奈の耳元で囁いた。その言葉は、蜜のように甘く、しかし、毒のように里奈の心を蝕んでいく。彼女は、この状況をどう切り抜ければいいのか、分からなくなっていた。

「あの、お客様。やはり、そのようなことは…」

「何だよ、そんなに怖がらなくても。俺は、君を傷つけたりしない。ただ、君の、その、身体に、触れたいだけなんだ」

〇〇は、里奈の施術着の襟元に手をかけた。里奈は、反射的にその手を払い除けようとした。しかし、〇〇の手は、彼女の手を掴み、そのまま、里奈の顔へと引き寄せた。

「君の、その、清らかな瞳に、俺が映っている。それだけで、十分だ」

〇〇は、里奈の瞳を覗き込みながら、そう言った。その言葉は、里奈の心に、微かな、しかし、抗いがたい感情を呼び起こした。それは、夫に忘れられてしまった、女性としての、承認欲求だったのかもしれない。

「でも、私…」

「大丈夫。俺は、君が、これまで、誰にも、見せたことのない、君の、本当の顔を、見たいだけなんだ」

〇〇は、里奈の頬に手を伸ばした。その指先が、彼女の肌に触れる。里奈は、息を呑んだ。抵抗する力も、湧いてこなかった。彼女の心は、恐怖と、微かな、しかし、抗いがたい魅了との間で揺れ動いていた。

「君も、きっと、感じているはずだ。この、密室で、二人だけの、この、特別な、空間で、俺と君が、惹かれ合っていることを」

〇〇は、里奈の細い腰を抱き寄せた。里奈の身体は、彼の腕の中で、硬直した。彼女の心臓は、早鐘のように鳴り響いていた。

「お客様、お願いですから…」

「大丈夫。大丈夫だよ。俺が、君を、解き放ってあげる」

〇〇は、里奈の顔に、ゆっくりと、近づいていった。その瞳には、欲望と、それ以上の、何か、未知なるものが宿っていた。里奈の心は、すでに、この状況に、抗うことを、諦め始めていた。

この部屋には、彼女たちの他に、誰もいない。外の世界とは隔絶された、密室。日頃の、セックスレスという、冷え切った関係。そして、目の前にいる、強引な、しかし、どこか、彼女の心の隙間を突いてくるような、〇〇。

里奈の身体は、言うことを聞かなくなった。彼女の意識は、徐々に、模糊としていく。〇〇の息遣いが、彼女の頬にかかる。そして、その唇が、彼女の唇に触れた。

その瞬間、里奈の抵抗の糸は、完全に、切れた。彼女の身体から、力が抜け落ちる。〇〇の腕の中で、彼女は、ただ、されるがままになっていた。

「君は、本当に、美しいよ」

〇〇は、里奈の耳元で、そう囁いた。その声は、まるで、彼女を、誘惑する、魔性の声のように響いた。里奈の身体が、微かに震えた。

その時、部屋の隅にある、小さな、しかし、精巧な、隠しカメラが、この、禁断の施術の、一部始終を、静かに、記録し始めていた。密室で、欲望に、抗いきれず、おとされてしまう、人妻エステティシャンの、淫らな姿。それは、誰にも知られることのない、彼女の、秘密の、そして、恥辱の、記録となるはずだった。

しかし、それは、〇〇の、計算された、戦略でもあった。彼は、この、里奈の「弱さ」を、手に入れていた。そして、この、秘密の、記録が、これから、彼と里奈の関係を、どのように、変えていくのか、彼は、すでに、確信していた。

翌朝。里奈は、いつものように、朝早く、家を出た。顔には、前日の夜の、微かな動揺が、まだ、残っていた。夫の健一は、すでに、仕事に出かけていた。子供たちは、まだ、眠っている。

「行ってきます」

里奈は、静かに、家を出た。彼女の心は、重く、沈んでいた。昨日、〇〇との間に何があったのか。それを、誰にも、話すことは、できない。彼女は、まるで、別人のようになってしまったような、自分自身に、戸惑っていた。

しかし、彼女の知らないところで、〇〇は、すでに、その「秘密」を、手にしていた。そして、これから、この「秘密」が、彼と、里奈の、人生を、どのように、翻弄していくのか、それは、まだ、誰にも、分からない。

ビジネスホテルの部屋は、静寂に包まれていた。隠しカメラは、その、証拠を、静かに、記録し続けていた。それは、都市の片隅で、ひっそりと、繰り広げられた、欲望と、秘密の、物語の、始まりに過ぎなかった。